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第2章:失って得るモノ
第8話:5つの秘宝
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――北ラメリア大陸歴1494年12月1日 ウィーゼ王国:首都オールドヨークにて――
ウィーゼ王国軍がバルト帝国との国境線から首都オールドヨークへと凱旋を果たすと、国民たちは彼らを手厚く迎える。ウィーゼ王国は毎年12月半ばを迎えると、各地に雪が降り始める土地であった。それでも今年は時期的に珍しく、粉雪が大空から舞い降りてきて、まるで戦地で生き残った者たちを祝福する花吹雪のようにも見えたのであった、それは。
「うわああああ。ひとであふれかえっているのですゥ。ぼく、田舎生まれの桃源郷育ちのために、こんなにエルフ族、ニンゲン族、ドワーフ族が集まっている場所に来たのは初めてなんですゥ!」
人々は道の両脇にある建物の窓から身を乗り出して、ぐねぐねと続く登り道を昇ってくる兵士たちを拍手で歓待した。ウィーゼ王国の王宮はエルフ族一色で染まっているが、国民たちはクルス=サンティーモの言う通りの3種族が入り乱れている。そして、この日は一様に皆は笑顔であった。
「ぶひっ。可愛い子ちゃんはいないかな? 戦場帰りのおいらを一晩中慰めてくれるような気立ての良い男の娘が良いんだなあ」
「ははっ。それなら、桃源郷からクルスって男の娘を見受けしてきたら良かったな」
笑顔でそう言うレオナルト=ヴィッダーに対して、デーブ=オクボーンとクルス=サンティーモは顔がひきつってしまう。レオナルト=ヴィッダーがアイリスと呼ぶ相手こそ、クルス=サンティーモ本人なのである。デーブ=オクボーンだけでなく、クルス=サンティーモもどう反応していいのか困る状況へと陥ってしまう。
戦場から無事に帰ってこれた今こそ、本当のことをレオナルト=ヴィッダーに打ち明けたほうが良いのではないか? と思ってしまう両名であったが、もし、それをしたならば、レオナルト=ヴィッダーがどうなってしまうのか見当もつかない。だからこそ、デーブ=オクボーンとクルス=サンティーモは問題を先送りする方を選んでしまう。
しかしながら、運命とはこうも残酷であろうか?
城まで続くグネグネとした緩やかな坂道を兵士たちが登りきり、ようやく城の前にある大きな広場まで辿り着く。城のバルコニーにはウィーゼ王国を代表する面々が立ち並んでいた。
立ち並ぶ人物たちの中央にはもちろん国王であるロータス=クレープスが。そして、その左隣には王妃であるオリビア=クレープスが。さらに彼らの両脇には彼らの子息子女たちが並んでいた。国王と王妃の間に産まれた末子の顔をレオナルト=ヴィッダーが見た瞬間、彼は膝から崩れ落ち、魂が抜けた表情へと変化する。
「アイ……リス? どうしてキミがそこ……に?」
レオナルト=ヴィッダーはバルコニーの端に立つアイリス=クレープスをただただ茫然と眺めていた。彼女は少女と大人の女性の中間地点にいる独特の可愛さと美しさが両立している美少女へと成長していた。流れるような銀髪はそのままに、彼女の肉付きは薄桜色のドレス越しからもわかるほどに華奢であり、それでいて、ひっこむところはひっこんでいる。さらにはひっこみ過ぎているがゆえに、出ていない部分が出ているように錯覚してしまうようなマニア垂涎な身体へと成長していた。
「おい、大丈夫か、レオン。いったいどうしちまったんだ!?」
「レオン様……。気分が良くないなら、ぼくが宿屋を見つけてきますので、そこで休みましょうよォ」
レオナルト=ヴィッダーが両膝を固い石で出来た地面につけて呆けた表情になっていたために、デーブ=オクボーン、クルス=サンティーモだけでなく、周りの兵士たちもどうしたのだ? と訝しむことになる。だが、広場に集まる兵士たちの一部がおかしな挙動を示しているというのに、それを無視する形でバルコニーに立つ国王:ロータス=クレープスが兵士たちに今回の戦に対する労いの言葉をかけはじめる。
国王:ロータス=クレープスは長男が研究所で開発したという音声拡張器を片手に、あーあーてすてすと小声で呟いた後、大声を出し始める。ロータス=クレープスの声を拾って、音声拡張器が国王の声を増幅する。音声拡張器により、広場に集まる兵士全てに国王のありがたい言葉が届けられることとなる。
「皆の者。よくぞ、ウィーゼ王国をバルト帝国の魔の手から護ってくれた……。私があと3歳若ければ、皆と共に戦場を騎馬に跨り駆けまわったというのに、それが口惜しくてならぬわっ!!」
国王:ロータス=クレープスの第一声に、兵士たちからドッと笑い声が起きる。あと数年で50歳を迎える国王を戦場のど真ん中に立たせるわけがないと誰しもがそう思ってしまう。もっと言うべきことがあるだろうと、兵士たちの最前列に立つ総軍団長:ゼンダー=ラウディスはやれやれと肩をすくめることとなる。
国王:ロータス=クレープスは冗談交じりの第一声の後は、紋切り型の台詞で兵士たちに労いの言葉をかけていく。ある兵士は国王の御言葉に涙し、その場で泣き崩れていく。泣き崩れた兵士に肩を貸す兵士もまた感涙を流していた。それほどまでに3倍以上も兵力を有するバルト帝国との2年間に及ぶ戦は苛烈を極めていたことの証でもあった。
そんな兵士たちに通常の賃金だけでなく、報奨の金貨10枚を約束する国王であった。総軍団長:ゼンダー=ラウディスは、そんな額を兵士ひとりひとりに与えれば、国庫が空になってしまうのではないかという危惧を抱くことになる。だが、国王はその原資となる物が必要だということも忘れてはいない。
国王はその原資を手に入れるための施策として、とんでもないことを言い出す。
「奇しくも今日は我が不出来な末子の16歳の誕生日である。そこで、兵士諸君だけではなく、国民の皆にも伝えたいことがある」
国王はそこまで言うと、右隣りに立つ長男にコクリと頷く。それは音声拡張器の音量を最大限まであげろという指示であった。音声拡張器の音量があがったことで、キーーーン! という甲高い高音が辺りに響くことになり、兵士だけでなく、広場の周囲に集まっていた国民たちも耳を両手で塞ぐこととなる。音声拡張器独特のキーーーン! という音が鎮まるや否や、国王は皆に向かって、ウィーゼ王国の新たな騒動の種をまき散らすこととなる。
「私が手塩に育てた末子、アイリス=クレープスをこの国一番の勇者に与えることを約束する」
広場に集まる兵士たちは互いの顔を見合い、国王が何を言わんとしているのかわからないといった表情を浮かべることとなる。国王はバルト帝国軍を追い返した喜びで、とち狂ってしまったのでは? という失礼なことを考えてしまう兵士すら出てしまう始末である。だが、ざわつく広場の兵士や、その周りを囲む国民たちを無視する形で国王は言葉を繋げていく。
「天使の嬉し涙、竜皇の珠玉、海皇の三叉槍、白銀狼の牙、失われた朱鷺。この5つの秘宝の内、ふたつを私に献上するが良い。その者にアイリス=クレープスを与えようぞっ!!」
ウィーゼ王国軍がバルト帝国との国境線から首都オールドヨークへと凱旋を果たすと、国民たちは彼らを手厚く迎える。ウィーゼ王国は毎年12月半ばを迎えると、各地に雪が降り始める土地であった。それでも今年は時期的に珍しく、粉雪が大空から舞い降りてきて、まるで戦地で生き残った者たちを祝福する花吹雪のようにも見えたのであった、それは。
「うわああああ。ひとであふれかえっているのですゥ。ぼく、田舎生まれの桃源郷育ちのために、こんなにエルフ族、ニンゲン族、ドワーフ族が集まっている場所に来たのは初めてなんですゥ!」
人々は道の両脇にある建物の窓から身を乗り出して、ぐねぐねと続く登り道を昇ってくる兵士たちを拍手で歓待した。ウィーゼ王国の王宮はエルフ族一色で染まっているが、国民たちはクルス=サンティーモの言う通りの3種族が入り乱れている。そして、この日は一様に皆は笑顔であった。
「ぶひっ。可愛い子ちゃんはいないかな? 戦場帰りのおいらを一晩中慰めてくれるような気立ての良い男の娘が良いんだなあ」
「ははっ。それなら、桃源郷からクルスって男の娘を見受けしてきたら良かったな」
笑顔でそう言うレオナルト=ヴィッダーに対して、デーブ=オクボーンとクルス=サンティーモは顔がひきつってしまう。レオナルト=ヴィッダーがアイリスと呼ぶ相手こそ、クルス=サンティーモ本人なのである。デーブ=オクボーンだけでなく、クルス=サンティーモもどう反応していいのか困る状況へと陥ってしまう。
戦場から無事に帰ってこれた今こそ、本当のことをレオナルト=ヴィッダーに打ち明けたほうが良いのではないか? と思ってしまう両名であったが、もし、それをしたならば、レオナルト=ヴィッダーがどうなってしまうのか見当もつかない。だからこそ、デーブ=オクボーンとクルス=サンティーモは問題を先送りする方を選んでしまう。
しかしながら、運命とはこうも残酷であろうか?
城まで続くグネグネとした緩やかな坂道を兵士たちが登りきり、ようやく城の前にある大きな広場まで辿り着く。城のバルコニーにはウィーゼ王国を代表する面々が立ち並んでいた。
立ち並ぶ人物たちの中央にはもちろん国王であるロータス=クレープスが。そして、その左隣には王妃であるオリビア=クレープスが。さらに彼らの両脇には彼らの子息子女たちが並んでいた。国王と王妃の間に産まれた末子の顔をレオナルト=ヴィッダーが見た瞬間、彼は膝から崩れ落ち、魂が抜けた表情へと変化する。
「アイ……リス? どうしてキミがそこ……に?」
レオナルト=ヴィッダーはバルコニーの端に立つアイリス=クレープスをただただ茫然と眺めていた。彼女は少女と大人の女性の中間地点にいる独特の可愛さと美しさが両立している美少女へと成長していた。流れるような銀髪はそのままに、彼女の肉付きは薄桜色のドレス越しからもわかるほどに華奢であり、それでいて、ひっこむところはひっこんでいる。さらにはひっこみ過ぎているがゆえに、出ていない部分が出ているように錯覚してしまうようなマニア垂涎な身体へと成長していた。
「おい、大丈夫か、レオン。いったいどうしちまったんだ!?」
「レオン様……。気分が良くないなら、ぼくが宿屋を見つけてきますので、そこで休みましょうよォ」
レオナルト=ヴィッダーが両膝を固い石で出来た地面につけて呆けた表情になっていたために、デーブ=オクボーン、クルス=サンティーモだけでなく、周りの兵士たちもどうしたのだ? と訝しむことになる。だが、広場に集まる兵士たちの一部がおかしな挙動を示しているというのに、それを無視する形でバルコニーに立つ国王:ロータス=クレープスが兵士たちに今回の戦に対する労いの言葉をかけはじめる。
国王:ロータス=クレープスは長男が研究所で開発したという音声拡張器を片手に、あーあーてすてすと小声で呟いた後、大声を出し始める。ロータス=クレープスの声を拾って、音声拡張器が国王の声を増幅する。音声拡張器により、広場に集まる兵士全てに国王のありがたい言葉が届けられることとなる。
「皆の者。よくぞ、ウィーゼ王国をバルト帝国の魔の手から護ってくれた……。私があと3歳若ければ、皆と共に戦場を騎馬に跨り駆けまわったというのに、それが口惜しくてならぬわっ!!」
国王:ロータス=クレープスの第一声に、兵士たちからドッと笑い声が起きる。あと数年で50歳を迎える国王を戦場のど真ん中に立たせるわけがないと誰しもがそう思ってしまう。もっと言うべきことがあるだろうと、兵士たちの最前列に立つ総軍団長:ゼンダー=ラウディスはやれやれと肩をすくめることとなる。
国王:ロータス=クレープスは冗談交じりの第一声の後は、紋切り型の台詞で兵士たちに労いの言葉をかけていく。ある兵士は国王の御言葉に涙し、その場で泣き崩れていく。泣き崩れた兵士に肩を貸す兵士もまた感涙を流していた。それほどまでに3倍以上も兵力を有するバルト帝国との2年間に及ぶ戦は苛烈を極めていたことの証でもあった。
そんな兵士たちに通常の賃金だけでなく、報奨の金貨10枚を約束する国王であった。総軍団長:ゼンダー=ラウディスは、そんな額を兵士ひとりひとりに与えれば、国庫が空になってしまうのではないかという危惧を抱くことになる。だが、国王はその原資となる物が必要だということも忘れてはいない。
国王はその原資を手に入れるための施策として、とんでもないことを言い出す。
「奇しくも今日は我が不出来な末子の16歳の誕生日である。そこで、兵士諸君だけではなく、国民の皆にも伝えたいことがある」
国王はそこまで言うと、右隣りに立つ長男にコクリと頷く。それは音声拡張器の音量を最大限まであげろという指示であった。音声拡張器の音量があがったことで、キーーーン! という甲高い高音が辺りに響くことになり、兵士だけでなく、広場の周囲に集まっていた国民たちも耳を両手で塞ぐこととなる。音声拡張器独特のキーーーン! という音が鎮まるや否や、国王は皆に向かって、ウィーゼ王国の新たな騒動の種をまき散らすこととなる。
「私が手塩に育てた末子、アイリス=クレープスをこの国一番の勇者に与えることを約束する」
広場に集まる兵士たちは互いの顔を見合い、国王が何を言わんとしているのかわからないといった表情を浮かべることとなる。国王はバルト帝国軍を追い返した喜びで、とち狂ってしまったのでは? という失礼なことを考えてしまう兵士すら出てしまう始末である。だが、ざわつく広場の兵士や、その周りを囲む国民たちを無視する形で国王は言葉を繋げていく。
「天使の嬉し涙、竜皇の珠玉、海皇の三叉槍、白銀狼の牙、失われた朱鷺。この5つの秘宝の内、ふたつを私に献上するが良い。その者にアイリス=クレープスを与えようぞっ!!」
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