【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第3章:石造りの楽園

第7話:バナナ

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――北ラメリア大陸歴1495年1月14日 ウィーゼ王国:王城:東の塔にて――

 ウィーゼ王国の首都:オールドヨークのど真ん中にクレープス王族とその家来たちが住む王城がある。その城の四角には高さ20ミャートルに達する塔がひとつづつそびえ立っている。その東の塔・上階に捕らわれていたのが国王の末子であるアイリス=クレープスであった。彼女が今から数えること、1カ月半前からそこに軟禁状態で捕らわれ続けていた。

 そんな無体なことをしなければならないほどに、当時のアイリス=クレープスは錯乱していた。彼女は首席騎士:ゴーマ=タールタルに不意をつかれて気絶させられたのだが、それでも1日に何度も城から脱走を試みた。業を煮やした国王:ロータス=クレープスはついに末子を幽閉に近い形で東の塔へと娘の侍女ともに押し込める形をとる。

 東の塔は元々、王族の親族が乱暴狼藉を働いた際に、牢代わりに入れられる場所である。しかしながら、牢とは言っても、鉄格子で囲まれているわけでは無く、働き盛りな独身の男が住むようなアパートの一室よりかは遥かに広い空間を持っている。しかしながら、この東の塔内の空気は淀んでおり、長時間滞在し続ければ、気が滅入り、ついには身体を壊してしまうことになるのは、この部屋の先住者たちが証明している。

(レオ……。わたしはいったい、どうしたらいいの?)

 アイリス=クレープスはこの1カ月半、悩みに悩み続けた。東の塔は特に魔力を弱める仕組みが施されている。並みのエルフでは最低限の光源を確保するのが精いっぱいといったところなのだ。その光源を維持している侍女たちにも疲労の色は濃く顔に映りこんでいた。しかしながら、そんな環境に放り込まれた侍女たちの中で、姫を非難する者は誰一人いなかったことがアイリス=クレープスの心がどん底に落ちない最後のつっかえ棒となっていた。

「姫様……。せめて食事をとってくださいまし。あなたがそれ以上、やつれれば、レオナルトさんが悲しみます」

「気遣ってくれてありがとう、ヘレン。そうね。空腹で倒れてしまえば、父上も考えを改めてもらえると思ったけど、そもそもあの父上がそんな仮病じみたことで、ここからわたしを出してくれるなんて思えないもんね」

 アイリス=クレープスは侍女たちに促されて、テーブルにつき、三日ぶりの食事を取ることになる。南瓜のスープをスプーンですくい取り、それを口の中に運ぶ。南瓜のスープはとっくの昔に冷め切っており、スープ自体の味の良さを半減させてしまっていた。アイリス=クレープスに与えられている食事は王族とは思えないほど質素なものであり、固いパン一切れ、バナナ2本、南瓜スープ。そして、もうしわけないほどの量のサラダのみである。肉料理の一切は添えられていなかった。

 それでも、アイリス=クレープスはバナナ1本だけを残して、あとは皿に盛られた夕食をほとんど平らげてしまう。侍女たちは何故、姫がバナナを1本残しているのか? と疑問に思い、彼女に尋ねることになる。

「最近、鳩が一羽、窓のガラス越しに中の様子を探っているでしょ?」

「ああ、あのまだら模様の鳩ですか……。でも、鳩ってバナナを食べました?」

 侍女のひとりであるヘレンが首を傾げながら、姫にそう言ってみせる。だが、もしかしたら、食べるかもしれないじゃないのという姫の言葉に押されて、姫が残したバナナをベッドの横にある小さな引き出し付きの机代わりにもなる棚の上に置く。その後、また朝になればお世話させてもらいますねと侍女たちは言い、一旦、東の塔・上階の別部屋へと向かっていく。侍女たちが姫の居室から全員居なくなった後、アイリス=クレープスはバナナを軽く握ったまま、ベッドの上に転がることになる。

 そして、そのバナナを愛しの彼のバナナに見立て、丁寧にしゃぶり始めるのであった。よだれでまずは皮を剥いたバナナの表面をよく濡らす。十分にそのバナナの表面が姫の唾液まみれになった後、彼女はんっんぅと言いながら、顔を前後に動かす。しかし、彼女は不慣れなために、そのバナナに歯を立ててしまい、あっさりとそのバナナは真っ二つになってしまう。

「おかしいわね? 何がいけなかったのかしら?」

 ふたつに分かれたバナナを見て、アイリス=クレープスは首を傾げるが、きっとバナナ自体の強度が足りなかったのだろうと思うことにした。しかしながら、こんな夜の7時も過ぎて、大空が真っ暗になっているのに、窓枠にいつの間にかいた鳩がおかしそうにクルポッポー! と鳴いてみせる。それに違和感を覚えるよりも先にムッと頭にきたアイリス=クレープスはふたつに分かれたバナナを口の中に放り込み、もごもごとさせながら、窓へと近づく。そして、白い歯でよく噛み砕いたバナナを飲み込み、あなたにあげる予定だったバナナはもう胃の中に消えましたわよと主張させてみせる。

 その後、アイリス=クレープスは何故、こんな夜目も利かなそうな鳩が居室の窓へ居座っているのだろうか? と不思議に思うことになる。そして、もしかすると、窓枠の外側、上の方に設置している雨よけに、この鳩が巣を作っているでは? という予想を立ててみせる。それを確認するためにも、椅子を壁際に持っていき、その椅子の上に行儀悪く靴を履いたままに登り、身体をひねって、窓枠の外側、上部分にその鳩が巣を作ってないかと確認してみる。

「だめね。外が暗くてよく見えないわ。でも、せっかくだから、この鳩を部屋の中へとご招待したしましょう」

 アイリス=クレープスが顔を窓に近づけると、その窓枠にはめられているガラスをさっきからコツンコツンと鳩がクチバシで叩いていた。まるで、中に入れろと催促されているような気がしたアイリス=クレープスは、窓の留め金を外し、窓枠自体を外側へと押し出す。鳩は少しだけ身体を移動させて、アイリス=クレープスが窓を開ける邪魔をしないようにしていた。そして、自分の身体が入れるほどの隙間が十分に開くと同時に、鳩は姫が捕らわれている牢獄の中へするりと入り込むのであった。

「やれやれ。やっとワタクシを中にいれてくれましたワ。この寒い季節に1週間以上も外で待ち続けるのは、さすがに老体のワタクシには厳しかったワヨ?」

 まだら模様の鳩が姫の居室の床に着地するや否や、ヒトが理解できる言葉をその口から紡ぎ出す。アイリス=クレープスは眼をまん丸に剥き、驚いたという表情を顔にありありと映し出す。そんな彼女を置いてけぼりにしたまま、鳩は光り輝きだしつつ、元の姿へと戻る。身体に纏う黒を基調としたローブから零れ落ちそうなほどのおっぱいを持つ女性は、頭から被っていたフードを右手で払いのける。

 すると、これまた見事なまでに美しく長い黒髪がフードの中からあふれ出す。アイリス=クレープスは彼女のどこが老体なのか? と文句を言いたくなるほどの美貌をその女性は全身から醸し出していた。

「初めまして。アイリス=クレープス様。ワタクシの名はヒルデ=スヴァーン。貴女の願いを叶えにきた悪い魔女ですワヨ」
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