【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

文字の大きさ
29 / 261
第3章:石造りの楽園

第8話:虚無と痛みが産み落とした正義

しおりを挟む
 アイリス=クレープスは自己紹介をおこなう眼の前の女性に対して、警戒心を最大限にまで高めることとなる。しかしながら、それでも彼女の声が自分の耳に突き刺さり、彼女が続けて何を言うのかに関心を示してしまう。

「あ、あなたは誰? なんの目的があって、わたしに近づいてきたの!?」

「いえ、ですから、ワタクシは悪い魔女だと申し上げおりますワ。どれほど悪いかと問われれば、あなたの兄上であるフィルフェン=クレープス様より少し上といったところでしょうカ?」

 悪い魔女だと名乗るヒルデ=スヴァーンは努めて笑顔を作り、貴女の敵では無いとアイリス=クレープスに主張する。だが、アイリス=クレープスは眉間にシワを寄せ、彼女をまったくもって信じる気にはなれなかった。

「自分を良いひとだと自己主張するひとを信じるなとよく言われますけど、だからといって、自分を悪い魔女だと言うひとも同じように信じられませんわっ!」

「確かにその通りですわネ……。では、アイリス様に信じてもらえるようなことをご覧いただきますわネ?」

 ヒルデ=スヴァーンは顎に右手を添えて、考えごとをしているような所作をした後、またもやパッとした笑顔になり、アイリス=クレープスにこれを見てほしいと、ローブの中に右手を突っ込む。そして、再び右手をアイリス=クレープスの眼の前に差し出すと、その手のひらには直径10センチュミャートルほどの水晶玉が乗せられていた。その後、ヒルデ=スヴァーンはキョロキョロと当たりを見まわし、ベッドの上の枕を左手で持ち上げる。

 さらにはその枕をベッドの脇にある引き出しつきの棚の上に起き、続いて枕の上に水晶玉を置くのであった。そして、アイリス=クレープスにその水晶玉に穴が開くほどに注目してほしいと言ってのける。アイリス=クレープスは眉間にシワを寄せつつも、ヒルデ=スヴァーンの言う通り、水晶玉をじっくりと見つめ始める。

 するとだ、水晶玉の中に自分の意識が入り込んでしまったかのように感じたアイリス=クレープスは上下左右に頭を振り出す。そんな彼女の背中側にいつの間にか回り込んでいたヒルデ=スヴァーンが両腕を用いて、アイリス=クレープスを後ろから優しく包み込む。

「安心してくださいマシ? ここではないどこかの場所に、あなたの意識だけを転移させていただいているノ。さあ、アイリス=クレープス様。貴女が恋焦がれる相手をその脳裏にしっかりと想い描いてくださいマシ?」

 ヒルデ=スヴァーンはこれ以上ないほどの優しい声色でアイリス=クレープスを導いていく。それは司祭プリーストが厳かに述べるありがたい御言葉のようでもあり、アイリス=クレープスは段々と平静を取り戻し始める。すると、今まで霧がかかっていた脳内がクリアになっていく。それと同時にアイリス=クレープスの青碧玉ブルー・サファイアの両目は車椅子に座っている人物を捉えることとなる。

 アイリス=クレープスはその人物が誰なのかを一瞬で理解する。髪はボサボサで、口周りの髭もちゃんと処理していな男であったが、彼が自分の想い人であることを瞬く間に見抜く。

「レオ、レオ、レオーーー!!」

 アイリス=クレープスは青碧玉ブルー・サファイアの双眸からボロボロと大粒の涙を流しながら、愛しの彼の名前を呼ぶ。だが、車椅子に身体を預けきっている彼は生気の抜けた眼とぼんやりとした表情で、力なくキョロキョロと辺りを見回し始める。そんな彼らしくない姿をまざまざと見せつけられたアイリス=クレープスはますます眉間のシワが彫り深くなっていく。いったい、誰がレオをこのような姿にしたのか? と自分以外の誰かに問い詰めたい気分であった。

「レオナルト=ヴィッダーをあそこまで追い詰めたのは、アイリス=クレープス様。あなた自身なのデス。貴女は貴女自身が犯した罪の重さを知るべきですワヨ」

 ヒルデ=スヴァーンは両目の焦点が合っていないアイリス=クレープスがゆっくりと自分の方に顔を向けてこようとしているが、それでもまるで聖母のように彼女を後ろから抱きしめたままに、言葉を繋げていく。

「レオナルト=ヴィッダーは、貴女の願いを叶えるために、身を粉にして、高くそびえる困難に立ち向かっていきましタノ。そして、貴女の身体をがんじがらめに縛っている鎖の1本を斬り飛ばすことには成功したのですワ。でも、彼の身体は自分自身が生み出す暴力に蝕まれてしまいましたノ」

「レオはわたしのせいで、ああなっちゃったの……? わたしはレオに何か出来ないの??」

 アイリス=クレープスは身体全体から力が抜け落ちそうになっていた。しかし、それでも両膝を石畳の床につけなかったのは、ヒルデ=スヴァーンが彼女の身体を後ろから支えていたからだ。そして、ヒルデ=スヴァーンはこれ以上ない悪魔の微笑みを称えて、これまた天使以上に甘い悪魔の言葉をアイリス=クレープスに送る。

「『ZGMF-X19A』。貴女の兄が所長を務めている研究所ラボでの呼称は『奇稲田姫クシナダヒメ』。神話で素戔嗚スサノオの妻とされていますワ。でも、貴女の兄は『虚無と痛みが産み落とした正義』と呼んでいますノ。ワタクシ、この謎めいた言葉が大変気に入っておりますノ」

 ヒルデ=スヴァーンはそう言った後、アイリス=クレープスから身体を離す。そうしたため、アイリス=クレープスは膝から崩れ落ち、床の上で膝立ち状態となる。そんな彼女の前に右手をローブに突っ込みながら、ヒルデ=スヴァーンは彼女の身体正面へと回り込み、まるで聖女が神に祈りを捧げるかのようにアイリス=クレープスと同じように膝立ち状態になる。そして、右手をローブから引っこ抜くと、その右手には紅を基調とした黒い波模様が走る手甲ナックル・カバーが握られていた。それをアイリス=クレープスにしっかりと抱きかかえさせた後、彼女はこう告げる。

「もう十数分後には貴女の兄がこの牢獄とも呼べぬ楽園から貴女を追い出してくれるワ。貴女はそれを使い、遥か遠い昔に己の正義に殉じた女性に成り代わるといいワ」

 アイリス=クレープスはヒルデ=スヴァーンが何を言っているのか、ほとんど理解できなかった。それでも、彼女から手渡されたモノを自分の身に装着することで、何かが変わろうとしてることだけは、なんとなく察することが出来た。それゆえに、ほとんど思考の回らぬ頭であるのに、アイリス=クレープスは彼女に促されるままに右腕にその紅を基調とした手甲ナックル・カバーを装着した。

 その途端、彼女のシルクのような白い肌は黒が強い褐色の肌へと変わっていく。アイリス=クレープスの身体の変化は肌だけでは収まらず、髪の色まで変えてしまう。元は姉や母と同じ銀髪であったのに、紫金剛石パープル・ダイヤへと変貌してしまった。彼女はヒルデ=スヴァーンの言う通り、この世には既に存在しないダークエルフへと生まれ変わる……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...