【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第6章:東の海へ

第7話:お義父さん

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 なにはともあれ、娘が無事に帰還したことで大喜びの海皇である。その海皇は抱きかかえていた娘を地面に立たせ、歌を唄うように促す。エクレア=シューは、皆に向かってぺこりと頭を下げた後、時化しける海に身体を向け直す。そして、この世に存在する歌手たちが裸足で逃げ出すレベルの歌声をその喉から発する。

 彼女の歌声は天と海に響き渡る。今の今まで時化しけっていた海は落ち着きを段々と取り戻していく。天を覆っていた雲から降り注いでいた雨は止む。そしてその雲の間から太陽の光が差し込み、それは幻想的な景色となる。その様子を見ていたクルス=サンティーモとリリベル=ユーリィはおおお……と感嘆の声をあげる他無かった。

「いつも以上に美しい歌声也。エクレアよ。ついに恋の味を知ったのか?」

「さすがパパなのです~~~。あたしは運命のヒトに出会ったのです~~~。その方の名はレオナルト=ヴィッダーと言うのです~~~」

 談笑しあう親子であったが、気が気でなくなったのはクルス=サンティーモやリリベル=ユーリィだけでなく、レオナルト=ヴィッダーも同様であった。1時間ほど前に出会ったばかりの女性に、自分が運命のヒトだと言われて、戸惑わない男がいないはずが無い。レオナルト=ヴィッダーは眉間にシワを寄せた顔のままに、エクレア=シューの言葉を否定する。しかし、海皇はガハハッ! と豪快に笑い

「山や海のおとこに惚れると火傷するのは知っているな? そんなおとこたちの娘が惚れやすい性質たちなのはごく自然の成り行きであろう?」

 なにが自然なのかと聞き返したくてしょうがないレオナルト=ヴィッダーであった。眉間に出来たシワがますます深くなってしまう彼であったが、そんな彼を放っておき、海皇は娘をレオナルト=ヴィッダーに託すと言ってくる始末であった。

「いや、どこの馬の骨とも知れぬ男に、自分の娘をそんな簡単に託していいのか? 俺には理解できない」

「理解しようとするな。ただそのままを受け入れれば良い也。われは我が愛娘の目利きを信じている也。娘が『運命』だと言うのであれば、われは娘に『自由』を与えるだけ也」

 まったくもって、海皇と話がかみ合わないことにレオナルト=ヴィッダーはますます渋面となっていく。レオナルト=ヴィッダーにはアイリス=クレープスとの苦い経験がある。海皇はウィーダ王国の国王とは真逆の対応をしてくる。その苦い経験は、レオナルト=ヴィッダーが海皇の言葉をそのままに受け入れられぬ下地を作ったと言っても過言ではなかった。

「チュッチュッチュ。レオン、エクレア=シューを受け入れてやれば良いでッチュウ。『旅は道連れ。ベッドの上では情けない』って言葉を知らないでッチュウか?」

 コッシロー=ネヅが迷言を放つことで、レオナルト=ヴィッダーはうぐっ……と口を閉ざしてしまう。レオナルト=ヴィッダーとしては女性を邪険に扱う性癖を持ち合わせていなかった。しかし、レオナルト=ヴィッダーが一番に危惧しているのは、エクレア=シューの吸い込まれそうなターコイズブルーの瞳の存在である。彼女にまっすぐに見つめられると、彼女のGカップの胸に顔を埋もれさせてしまいたいという不思議な感覚に襲われてしまうのだ。

 自分にはアイリス=クレープスというかけがえのない存在がいる。その信条を根本から折ってしまいそうな包容力を醸し出しているのだ、エクレア=シューは。レオナルト=ヴィッダーは努めて、エクレア=シューとまともに眼を合わせないように注意を払っていた。そんな彼女と同じ船に閉じ込められるような時間を過ごすことは危険すぎたのだ。

「ぼくとしては納得いかないですけどォ……。レオン様。エクレアさんを同行させても良いんじゃないですゥ? 海皇様の機嫌が悪くなる前に決断しちゃったほうが良いと思うのですゥ……」

 クルス=サンティーモがいつも通りにド正論を展開する。せっかく海が穏やかになったというのに、ここで色々と海皇に対して文句を言えば、さきほどまでのように時化しけがやってくるのは自明の理であった。レオナルト=ヴィッダーは、はぁぁぁと大きなため息をつき、がっくりと肩を落とした後、エクレア=シューの同行を許可することにした。

「やりました~~~。パパ、次に会う時は、あたしのお腹が大きくなっている可能性があるので、パパに名前を考えておいてほしいのです~~~」

「ガハハッ! たっぷりと可愛がってもらうが良い也。レオナルト=ヴィッダー……」

「はい? なんです?」

 レオナルト=ヴィッダーは何もかもを諦めた表情で、勝手に言ってろとばかりの態度を取る。そんな彼の左肩にポンと大きな右手を置いた海皇は右眼でウインクし

「お義父さんと呼んでくれても良いぞ?」

「もうどうとでもしてください……」

 海皇とその娘とのやりとりを毛嫌いしたレオナルト=ヴィッダーはまともに受け答えすることすら拒否してみせる。うなだれるレオナルト=ヴィッダーとは対照的に海皇は終始上機嫌であった。エンダーラー・プライズ号に乗り込んだレオナルト=ヴィッダーたち一行を海皇は手を大きく左右に振りながら見送ってくれる。それに応えるようにエクレア=シューが船の船尾楼甲板で父親に向かって手を振り返す。

「ねえ、レオ。あの子をどうするつもりなの?」

「う~~~ん。クルスに相手させておくよ……。何かの役に立つかもしれないし」

 リリベル=ユーリィはあの子をレオナルト=ヴィッダーの中にある順位付けにおいて、どの位置に置くのかとという質問をしたのだが、レオナルト=ヴィッダーは徒党パーティとしての役割についての答えをする。リリベル=ユーリィは唇をアヒルのクチバシのように尖らせるが、レオナルト=ヴィッダーは何故、彼女がそんな所作をするのかが理解できないでいた。

(リリベルがまた不機嫌になってるな……。俺の護衛役はリリベルだけなんだけどなあ……)

 レオナルト=ヴィッダーは鈍感もすぎるといった男であった。リリベル=ユーリィは何故にここまでレオナルト=ヴィッダーが他者からの好意に鈍感なのだろうかと、不満気な表情でレオナルト=ヴィッダーを観察することとなる。アイリス=クレープスという大切な女性が居るからこそ、レオナルト=ヴィッダーは他の女性とは一線を画していると思っていたのだが、実のところはそうではなさそうなのだ。

 エンダーラー・プライズ号は大海原を東に向かって進み続けていた。1日、2日、3日と時間が過ぎていく。その間、リリベル=ユーリィはやることもなく、ただ、レオナルト=ヴィッダーを観察しつづけていた。レオナルト=ヴィッダーは左足がまともに動かない。それを補うように右腕には前腕固定型杖ロフストランドクラッチを装着し、なんとか甲板上でのろのろと動けるくらいであった。船自体が波で大きく揺れた場合には、その辺の縁に左手で掴み、どうにかこうにか体勢を維持する。

 それでも倒れそうな時はリリベル=ユーリィが彼の身体を支えていた。そんな恋人とも言えぬ奇妙な間柄に割ってはいってくるのがクルス=サンティーモでは無く、エクレア=シューであった……。
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