【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第8章:地上の楽園

第8話:緋喰い鳥とコッシロー

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 今の今まで身体全体をこわばらせていたレオナルト=ヴィッダーがフッと息を吐き、肩をがっくしと落とす。そして、頭の上に乗っている柔らかい物体に押しつぶされるかのように背中を曲げて行き

「ああ、そうだな。皆の言う通りだ。俺は自分の身を犠牲にしても良いとは考えているが、誰かに犠牲になってほしいとは思わない。帰って、腹いっぱい飯でも食べて、朱鷺のことはすっかり忘れちまおう」

 レオナルト=ヴィッダーを心配そうに見つめていた他の4人もまた、ほっと安堵することとなる。レオナルト=ヴィッダーが間違った道を歩まずにすんだことに心底、安心感を覚えるのであった。そして、そんな殊勝な彼を祝福するかのように、またしても春の訪れを感じさせる風が辺りから吹き込んでくる。

 今度は風だけではなかった。池の水面から上へ10メートル行った空間が歪み始める。その歪みは直径10メートルほどの歪な円となり、その円の内側から、緋喰い鳥が現れたのであった。レオナルト=ヴィッダーたちは、春を告げる風がどこから吹いてくるのかを知る。緋喰い鳥の羽ばたきがそれを生んでいたのだ。緋喰い鳥は池の水面に着地し、身体の8分の1ほどを水中に沈めさせる。

「汝、朱鷺を求めて『地上の楽園』へやってきていたのは勘づいてイタ。しかし、力づくで奪おうとしなかったことを褒めヨウ。一戦交えるも仕方なしと踏んでいたが、それも気苦労で終わったことは今となっては微笑まシイ」

 レオナルト=ヴィッダーたちは緋喰い鳥の声を直接脳内で聞いていた。耳から拾う音はさざ波のようであったが、鼓膜を通り、耳の中、耳の神経、脳内に伝達されるや否や、その信号は声となり、レオナルト=ヴィッダーたちは緋喰い鳥の言っていることを正しく認識するに至る。

「チュッチュッチュ。『神の翼』とも讃えられたヤタガラスも、歳を取れば、戦闘を避けるようになったのでッチュウ? 昔のお前は暴れん坊で手もつけられなかったというのにでッチュウ」

「フンッ。汚いネズミに姿を変えられたと聞いていたが、まさか、コッシロー=ネヅ。お前がこの若造をこの地に導いてきたノカ。これも何かの因縁。若造よ、やはりワレと戦え。ワレはお前のあるじにされたことを1日たりとも忘れたことはナイ……」

 コッシロー=ネヅはレオナルト=ヴィッダーの左腕にはめている紅い模様が走る黒を基調とした手甲ナックル・カバーから飛び出すや否や、緋喰い鳥に向かって喧嘩を吹っ掛ける。それを受けて、緋喰い鳥はならば戦おうと受けてしまう。レオナルト=ヴィッダーは何がどういう話の流れでそうなってしまったのか、まったくもって理解不能であった。しかし、池の周囲に居た朱鷺を含む水鳥たちは、巻き込まれてはたまらないとばかりにその場から一斉に飛び立ってしまう。

 水鳥たちが退散したのを確認した緋喰い鳥は紅い翼を大きく羽ばたかせ、池を波立たせる。今までの春の気持ち良い風など、どこにも存在しなかった。緋喰い鳥が生み出す風は紅いオーラを存分に発散させつつ、竜巻状になる。その竜巻はレオナルト=ヴィッダーに向かって真っすぐに池の水面と地面を穿ちながら突き進んでいった。

 レオナルト=ヴィッダーは急いで頭を左右に振り、前腕固定型杖ロフストランドクラッチがどこに転がっているのかと探し始める。そして自分のすぐそばにあることを知るや否や、それに体重を預けつつ、一気に立ち上がる。しかし、緋喰い鳥の竜巻攻撃はレオナルト=ヴィッダーが完全に体勢を整えることを待ってくれはしなかった。レオナルト=ヴィッダーは左腕で顔だけは防御しようとする。

 そんなレオナルト=ヴィッダーと紅い竜巻の間に割ってはいる人物が居た。それはリリベル=ユーリィであった。彼女は腰の左側に佩いた鞘から素早く薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアを抜き、居合のように迫りくる紅い竜巻を横から一刀両断する。

「わたしの名はリリベル=ユーリィ。レオナルト=ヴィッダーの盾であり、同時に剣でもあるっ! レオナルト=ヴィッダーに危害を加えるつもりならば、まずはわたしをどうにかしなさいっ!!」

 リリベル=ユーリィは紅い竜巻をかき消した後に、薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアの切っ先を真っ直ぐに緋喰い鳥の顔へと向ける。しかしながら、何かおかしなものを見つけたという感じで緋喰い鳥はクックック……と不気味に笑い始める。

「ダークエルフの女騎士……。コッシロー=ネヅ。そして、若造の左腕に装着されているのは『自由を得るための暴力』とキタカ。コッシロー=ネヅよ。この台本を書いたのは、お前自身ナノカ?」

「チュッチュッチュ。僕が台本を書いているわけでは無いでッチュウ。僕もまた、その台本に書かれた役者の一人にすぎないのでッチュウ。しかし、この台本には足りないものがあるのでッチュウ」

「ホウ……。足りないものトハ? 念のために聞かせてモラオウカ?」

 ようやく体勢を整え終えたレオナルト=ヴィッダーの頭の上にちょこんと乗っている蝙蝠羽付きの白いネズミがえっへんとばかりに胸を張り、緋喰い鳥に向かって高らかに宣言してみせる。

「筋書という清流を奴は好むかもしれないでっちゅうが、僕はその清流を濁流に変えてやるつもりなのでッチュウ。忌み嫌われる者たちによる『反撃のテーゼ』。これこそが、僕が台本に書き足してやるストーリーなのでッチュウ」

「クックック! さすがはコッシロー=ネヅでアル。ワレもそれに助力してやろうと思うが、まずはお前の従者の実力を推し量らってカラダ!!」

 緋喰い鳥はコッシロー=ネヅとの会話が終わるや否や、またもや紅い竜巻による攻撃を繰り出す。先ほどはひとつだけの紅い竜巻であったが、今度のは5つあり、さらには蛇行させつつ、竜巻同士をぶつけ、リリベル=ユーリィに軌道を読ませないように工夫したのであった。リリベル=ユーリィはクッ! と唸り、ひとつでも多くの紅い竜巻を霧散させようと動く。

 エクレア=シューの実力のほどをリリベル=ユーリィは彼女が青銅製の戦士と戦った時に知った。だからこそ、この周囲に展開されている竜巻のいくつかを自分の手で切り刻めば、後はエクレア=シューが皆を護ってくれると信じていた。リリベル=ユーリィは蛇行しつつ、互いの身をぶつけ合う紅い竜巻群に向かって、斬り込んでいく。ひとつ、ふたつと紅い竜巻を切り刻んで霧散させる。そして、残りの三つをエクレア=シューの水属性防御魔術に頼ることとなる。

 エクレア=シューもリリベル=ユーリィの考えを察知しており、自分の身から海色の魔力を溢れ出させ、地面に出来た水たまりから先端にターコイズブルーの宝石が付いている魔法の杖マジック・ステッキを取り出す。そして、それを両手で握り、レオナルト=ヴィッダー、クルス=サンティーモ、デーブ=オクボーンを護るための魔術障壁マジック・バリアを展開する。

 紅い竜巻群はうねうねと蛇行しながら、エクレア=シューが展開した魔術障壁マジック・バリアを削り取らんとばかりにその身を激しくぶつけていく……。
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