【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第8章:地上の楽園

第9話:レオナルトの逡巡

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 リリベル=ユーリィとエクレア=シューの誤算は、魔術障壁マジック・バリアと紅い竜巻群がぶつかり合えば、ものの数秒でその赤い竜巻は宙に霧散していくと考えていたことだ。しかし、三つの紅い竜巻は魔術障壁マジック・バリアとぶつかると同時に、1本の巨大な紅い竜巻へと変貌してしまう……。

 エクレア=シューは熱操作の魔術が得意では無い。そのため、魔術障壁マジック・バリア内の気温がどんどん上昇し、エクレア=シューは魔術障壁マジック・バリアを展開するための体力すらも急激に消耗させられることとなる。そんな窮状に陥ったエクレア=シューに対し、レオナルト=ヴィッダーは彼女に代われと言い出す。

「だ、ダメです~~~。レオン様はその呪物から呪力ちからを引き出すと、身体に異変が起きちゃうのです~~~」

「いいから、代われ。このまま全員、蒸し焼きにされるよりかは遥かにマシだっ!」

 レオナルト=ヴィッダーはそう言うと、エクレア=シューが両手で握っている魔法の杖マジック・ステッキに左手を添える。そうすることにより、エクレア=シューが放出している魔力に素戔嗚スサノオから引き出した呪力ちからを上乗せするのであった。

 その途端、海色であった魔術障壁マジック・バリアが汚い紫色へと変貌していく。次の瞬間にはその汚い紫色のドームから無数の棘が飛び出し、さらにはドームの表面を縦横無尽に走り回る。その鋭く長い棘が纏わりつく紅い竜巻を内側から散々に切り刻む。

 どうにかこうにか難を逃れることに成功したエクレア=シューたちであったが、自分の魔力に呪力ちからを上乗せされたことで、エクレア=シューはその呪力ちからの一部を体内に逆流させることとなる。エクレア=シューは身体の表面だけでなく内側までをもミミズがのたうち回っている感触に捕らわれ、思わず両目をギュッと閉じ、その場で尻餅をつき、失禁してしまった。

 レオナルト=ヴィッダーはそんな彼女を見て、チッ……と小さく舌打ちしてしまう。エクレア=シューに対して、自分の呪力ちからを注ぎ込んだのは今回が初めてのことである。その気持ち悪さに耐えきれずにエクレア=シューは戦闘不能になってしまったのだ。レオナルト=ヴィッダーは自分の不手際に対して舌打ちをする他無かった。

「デーブ。エクレアを頼む。素戔嗚スサノオ呪力ちからに飲み込まれかけている」

「お、おう……。てか、レオン、お前はどうする気なんだよ!?」

 デーブ=オクボーンはエクレア=シューを頼むと言われても、具体的にどうすればいいのかわからない。だが、そんな自分を置いてけぼりにして、レオナルト=ヴィッダーは一歩一歩、緋喰い鳥の方へと歩を進めていく。デーブ=オクボーンはゴクリと唾を喉奥に押し込み、何をすればいいのかを察知する。要するにエクレア=シューを抱きかかえて、この場から出来るだけ離れろとレオナルト=ヴィッダーは言っているのである。

素戔嗚スサノオ。俺に緋喰い鳥を屈服させる呪力ちからを寄こしやがれっ!」

 レオナルト=ヴィッダーはまっすぐに左腕を緋喰い鳥に向かって突き出す。めいいっぱいに開いたレオナルト=ヴィッダーの左手の先から直径1ミャートルの黒い球体が生み出されることとなる。レオナルト=ヴィッダーがハァァァ! と叫び声をあげると同時に、その黒い球体はまっすぐに緋喰い鳥の顔面目掛けて飛んでいく。

「ククッ! ワレが何故、『緋喰い鳥』と呼称されているのかを、コッシロー=ネヅから聞いてオラヌノカッ!」

 緋喰い鳥は不敵な笑みを浮かべた後、クチバシを上下に大きく開き、自分の顔面に向かって飛んできた黒い球体を文字通りに食べてしまう。クチバシの上下で2度、3度とお手玉のように黒い球体を扱い、ついには口から喉を通して、腹の中にレオナルト=ヴィッダーが放った黒い球体全てを飲み込んでしまうのであった。

「なん……だと!? 俺の渾身の一撃をいとも簡単に喰らった!?」

「ゲフゥ……。美味ナリ。貴様の怨念、執念、悲哀全てが込められた一撃でアッタゾ。だが、まだ足りぬ。お前には絶望が足リヌ。これではお前は台本通りにしか動けぬ駒ダ。さあ、もっと絶望し、怒りの呪力ちからのみで、一撃を放テ」

 緋喰い鳥はまるで諭すかのように、レオナルト=ヴィッダーに向かって、言葉を放つ。レオナルト=ヴィッダーは思わず逡巡してしまう。レオナルト=ヴィッダーは緋喰い鳥の言わんとしていることは、心のリミッターを外さなければならないのだと理解した。しかし、今の身体の状態で、先ほど放った一撃以上のものを生み出そうとすれば、自分の意識は素戔嗚スサノオに持っていかれる可能性が非常に高かった。

 レオナルト=ヴィッダーは心に迷いをもったまま、2個目の黒い球体を左の手のひらから生み出す。先ほどと同様に直径1ミャートルの黒い球体であった。しかし、心に迷いを生じさせているぶんだけ、その黒い球体は歪みを持っていた。

「ダメだ。そんな迷った心で想いを放つのはヤメロ。もっと純粋な怒りに身を投じるノダ!」
 緋喰い鳥はレオナルト=ヴィッダーにダメ出ししながら、身体の両脇にある緋色の翼をバッサバッサと大きく揺らす。緋喰い鳥の動きに合わせ、赤い竜巻がどんどん増えていく。レオナルト=ヴィッダーは迫りくる紅い竜巻群を見て、ますます心に余裕が無くなっていく。

(くそっ! 俺はどうしたらいいんだっ! ここで素戔嗚スサノオから呪力ちからを引き出しすぎたら、今度こそ、皆を巻きこんじまう!)

 レオナルト=ヴィッダーは2年間の兵役のことを思い起こしていた。幾度もの死線をかいくぐり、その度に素戔嗚スサノオ呪力ちからに飲み込まれかけた。だが、すんでのところで、クルス=サンティーモやデーブ=オクボーンがどん底へと堕ちかけた自分の両手を取ってくれた。

 だが、超然とした存在である緋喰い鳥と対峙することになり、レオナルト=ヴィッダーは素戔嗚スサノオが早くオマエの全てをよこせと言ってくる声から耳を塞ぎ続けるのは難しい状況へと陥っていた。

「レオ! わたしが向かってくる竜巻全部を蹴散らすわっ! そして、あのわけのわからないことをのたまう緋喰い鳥の首級くびを叩き落として見せるっ!!」

 リリベル=ユーリィは迷うレオナルト=ヴィッダーを置き去りにして、自分たちの身を切り刻もうとしている紅い竜巻群に向かって、ひとり、駆け足で走っていく。リリベル=ユーリィはその言葉通りに右手に持つ薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアで紅い竜巻群を切り刻んでいく。しかしながら、ひとつ、薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアで掻き斬れば、他の紅い竜巻がリリベル=ユーリィの背中を切り刻む。それを幾度ともなく繰り返すことで、リリベル=ユーリィの紅を基調とした部分鎧は鎧下の服ごと、傷だらけになっていく……。
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