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第9章:海皇の娘
第8話:リリベルの記憶
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リリベル=ユーリィはとんと不思議に思った。緋喰い鳥もそうだが、今、目の前で不敵な笑みを零す蝙蝠羽付きの白いネズミはとてつもなく遠回りの言い方をするのが何故なのかがわからないと。直接的に聞きたいことを尋ねると、決まって、今聞きたいこととは関係無いことをまぜこぜにして答えてくる。それはどういう意味なの? と聞き返しても、自分の知恵の足らない頭で考えてみろとしか、後には続かない。
だからこそ、リリベル=ユーリィはコッシロー=ネヅとの会話自体が好かない。本質を上手くごまかされているように感じて仕方無いからだ。コッシロー=ネヅの語り口は頭の良い人物が陥りやすいしゃべり方の典型とも言えるものであった。
(コッシローが本当に言わんとしていることは理解しているわ。わたしの兄がそういうしゃべり方をしているせいもあって、慣れっこだし。でも、いくら自分なりの正解を見つけようが、コッシローとお兄様は絶対に正答を教えてくれることは無いでしょうね)
結局のところ、自分なりの正解を見つけたなら、それを信じるしかないのである。もしかすると、コッシローも兄も正しい答えを持っていない可能性すらありえるのだ。それならば、自分が信じた道を行くしか無い。自分の人生は自分で決める。ただただ当たり前の言葉であるが、これを成し遂げる難しさは冒険者ギルドに持ち込まれるどんな依頼よりも遥かに高いものであろうとリリベル=ユーリィは思ってしまう。
(わたしはいつでもいかなる時でもレオと一緒に居たい。レオの盾となり、レオの剣となる……)
リリベル=ユーリィがそう思い詰めることで、自然と箸の動きが止まってしまう。クルス=サンティーモは一体、どうしたのだろうとリリベル=ユーリィに調子が悪いのかと尋ねてしまう。リリベル=ユーリィはフルフルと軽く頭を左右に振り
「いえ、なんでもないの。ただ、魚スープの味付けが少しもの足りない気がしただけよ」
「そう……なんです? ぼくにはちょうど良い塩加減だと思うん……ですけど」
「欲を言えば、魚そのものから出る味だけじゃなくて、もう一味工夫がほしいってとこかしら?」
北ラメリア大陸では一般的に肉料理や魚料理において、素材そのものから染み出る汁を下地にソースやスープを作る。それゆえに、どうしても味の変化を求めるのであれば、それに合わせた調味料が必要となってくる。しかし、王侯貴族たちのように調味料に金をかけれるほど、一般庶民は裕福では無い。そのことから、クルス=サンティーモはリリベル様はやはりどこかの国の立派な騎士の家柄なんだろうなと想像してしまう。
「あ、あの。良ければリリベル様の生まれ故郷の話をしてくれませんかァ? あんまりリリベル様の出自について、詳しく聞くのは憚れる気がして、聞きそびれていましたのでェ……」
クルス=サンティーモは自分から問いかけておきながら、段々と尻すぼみな声となってしまう。そもそもリリベル=ユーリィは姿そのままから判断するに、禁忌の存在とされているダークエルフだ。ウィーゼ王国の第一王子であるフィルフェン=クレープス王子から、リリベル様を紹介してもらったことから、信頼を置ける人物であることは間違いない。
だが、それは置いておいてだ。リリベル=ユーリィが自分語りをなんとなく避けているのはクルス=サンティーモでも気づいている。存在自体が何かしらの秘密を持っているのだ、リリベル=ユーリィは。しかし、聞けるのは今しか無いと思い、クルス=サンティーモはリリベル=ユーリィに自分語りをしてほしいと願い出る。
「そんなにたいしたことは覚えてないの。ただ、魔力溢れる森で産まれ、その森で生きて、ふと旅に出たいと思って北ラメリア大陸をさまよってきたの」
「な、なるほどなのですゥ。旅に出たいと思ったのは、やっぱり大きな失恋を体験したとかなんですゥ?」
リリベル=ユーリィはクルス=サンティーモの返しに、思わずブフッと噴き出してしまう。リリベル=ユーリィの記憶の糸を辿ると、おぼろげながらに、自分には大切なヒトがいたような気がする。しかし、リリベル=ユーリィとしての記憶にはいつも白い霞がかかっており、はっきりと見ることが出来ないでいたのだ、彼女自身も。だからこそ、ふわっとしたことしかクルス=サンティーモに答えることが出来ないだけなのである。
「たぶんだけど、わたしには大切なヒトが昔、いたような気がするわ。でも、それはずっと昔の記憶の中のヒトだと思う。今はレオのほうがよっぽど大切なヒトよ」
「うゥ……。上手いことまとめてきたのですゥ。ここはエクレアさんの力を頼らざるをえないのですゥ……。エクレアさん、びしっと何かお願いしますゥ!」
口で叶わないと見たクルス=サンティーモが、自分のライバルのひとりであるエクレア=シューを頼ることとなる。彼女ならば、なんとか上手い切り返しが出来ると踏んだからだ。かなり打算的でもあるが、知恵の足りぬ自分を補佐してくれるのはエクレアさんのみだと思っての言動だ。
「ママが言っていたのです~~~。子はかすがいだって~~~。あなたが無事で居る限り、パパはいつでも私たちのことを思ってくださるのよ~って。だから、あたしは今夜、レオンを押し倒すつもりなのです~~~」
「ちょっと待ってくださいィ!? レオン様はぼくと同じテントで寝るんですよォ!? ぼくの寝ている横でおっぱじめる気だったんですゥ!?」
「そこまであたしは意地悪い女じゃありません~~~。クルスちゃんも一緒にどう? ってお誘いするつもりだったのです~~~」
リリベル=ユーリィの次に箸が止まってしまったのはクルス=サンティーモの方であった。リリベル=ユーリィは寝言は寝て言ってろとばかりにお椀に盛られた魚スープを食べるのを再開してしまっていた。微笑みかけてくるエクレア=シューの顔をあわわ……といった慌てふためいて見つつ、今度はリリベル=ユーリィに助け舟を出してもらおうと、クルス=サンティーモはリリベル=ユーリィの方に顔を向ける。
「一晩、抱いてもらったところで、はい出来ましたってのなら、だ~れも苦労しないわよ」
リリベル=ユーリィは魚スープに口を付けつつ、妙に納得してしまう台詞を吐く。何かそういう体験があったことを匂わせてくる言葉である。クルス=サンティーモはますます頭の中が混乱していってしまう。そして、クルス=サンティーモが次に口走ったことで、野営地に居るレオナルト=ヴィッダー以外の皆が、口からスープをぶぶぶっ! と強く噴き出してしまう。
「じ、人類皆穴兄妹なのですゥ! レオン様のおちんこさんは共有財産にするべきなのですゥ! だから、今晩は皆でレオン様を押し倒すのですゥ!?」
「ちょっと待てよ! おいらも含まれてんのか!? 俺は男の娘に興味はあっても、レオンは守備範囲外だぞ!?」
「デーブさん、違いますゥ! あくまでも竿役はレオン様だけなのですゥ! デーブさんは掘られる側に徹してくださいッ!」
「おい、リリベル嬢ちゃん、エクレア嬢ちゃん、おめえらふたりがクルスを壊したんだぞ!? おめえらふたりが責任取れっ! おいらはレオンに掘られる気はこれっぽちも無いってんだっ!!」
だからこそ、リリベル=ユーリィはコッシロー=ネヅとの会話自体が好かない。本質を上手くごまかされているように感じて仕方無いからだ。コッシロー=ネヅの語り口は頭の良い人物が陥りやすいしゃべり方の典型とも言えるものであった。
(コッシローが本当に言わんとしていることは理解しているわ。わたしの兄がそういうしゃべり方をしているせいもあって、慣れっこだし。でも、いくら自分なりの正解を見つけようが、コッシローとお兄様は絶対に正答を教えてくれることは無いでしょうね)
結局のところ、自分なりの正解を見つけたなら、それを信じるしかないのである。もしかすると、コッシローも兄も正しい答えを持っていない可能性すらありえるのだ。それならば、自分が信じた道を行くしか無い。自分の人生は自分で決める。ただただ当たり前の言葉であるが、これを成し遂げる難しさは冒険者ギルドに持ち込まれるどんな依頼よりも遥かに高いものであろうとリリベル=ユーリィは思ってしまう。
(わたしはいつでもいかなる時でもレオと一緒に居たい。レオの盾となり、レオの剣となる……)
リリベル=ユーリィがそう思い詰めることで、自然と箸の動きが止まってしまう。クルス=サンティーモは一体、どうしたのだろうとリリベル=ユーリィに調子が悪いのかと尋ねてしまう。リリベル=ユーリィはフルフルと軽く頭を左右に振り
「いえ、なんでもないの。ただ、魚スープの味付けが少しもの足りない気がしただけよ」
「そう……なんです? ぼくにはちょうど良い塩加減だと思うん……ですけど」
「欲を言えば、魚そのものから出る味だけじゃなくて、もう一味工夫がほしいってとこかしら?」
北ラメリア大陸では一般的に肉料理や魚料理において、素材そのものから染み出る汁を下地にソースやスープを作る。それゆえに、どうしても味の変化を求めるのであれば、それに合わせた調味料が必要となってくる。しかし、王侯貴族たちのように調味料に金をかけれるほど、一般庶民は裕福では無い。そのことから、クルス=サンティーモはリリベル様はやはりどこかの国の立派な騎士の家柄なんだろうなと想像してしまう。
「あ、あの。良ければリリベル様の生まれ故郷の話をしてくれませんかァ? あんまりリリベル様の出自について、詳しく聞くのは憚れる気がして、聞きそびれていましたのでェ……」
クルス=サンティーモは自分から問いかけておきながら、段々と尻すぼみな声となってしまう。そもそもリリベル=ユーリィは姿そのままから判断するに、禁忌の存在とされているダークエルフだ。ウィーゼ王国の第一王子であるフィルフェン=クレープス王子から、リリベル様を紹介してもらったことから、信頼を置ける人物であることは間違いない。
だが、それは置いておいてだ。リリベル=ユーリィが自分語りをなんとなく避けているのはクルス=サンティーモでも気づいている。存在自体が何かしらの秘密を持っているのだ、リリベル=ユーリィは。しかし、聞けるのは今しか無いと思い、クルス=サンティーモはリリベル=ユーリィに自分語りをしてほしいと願い出る。
「そんなにたいしたことは覚えてないの。ただ、魔力溢れる森で産まれ、その森で生きて、ふと旅に出たいと思って北ラメリア大陸をさまよってきたの」
「な、なるほどなのですゥ。旅に出たいと思ったのは、やっぱり大きな失恋を体験したとかなんですゥ?」
リリベル=ユーリィはクルス=サンティーモの返しに、思わずブフッと噴き出してしまう。リリベル=ユーリィの記憶の糸を辿ると、おぼろげながらに、自分には大切なヒトがいたような気がする。しかし、リリベル=ユーリィとしての記憶にはいつも白い霞がかかっており、はっきりと見ることが出来ないでいたのだ、彼女自身も。だからこそ、ふわっとしたことしかクルス=サンティーモに答えることが出来ないだけなのである。
「たぶんだけど、わたしには大切なヒトが昔、いたような気がするわ。でも、それはずっと昔の記憶の中のヒトだと思う。今はレオのほうがよっぽど大切なヒトよ」
「うゥ……。上手いことまとめてきたのですゥ。ここはエクレアさんの力を頼らざるをえないのですゥ……。エクレアさん、びしっと何かお願いしますゥ!」
口で叶わないと見たクルス=サンティーモが、自分のライバルのひとりであるエクレア=シューを頼ることとなる。彼女ならば、なんとか上手い切り返しが出来ると踏んだからだ。かなり打算的でもあるが、知恵の足りぬ自分を補佐してくれるのはエクレアさんのみだと思っての言動だ。
「ママが言っていたのです~~~。子はかすがいだって~~~。あなたが無事で居る限り、パパはいつでも私たちのことを思ってくださるのよ~って。だから、あたしは今夜、レオンを押し倒すつもりなのです~~~」
「ちょっと待ってくださいィ!? レオン様はぼくと同じテントで寝るんですよォ!? ぼくの寝ている横でおっぱじめる気だったんですゥ!?」
「そこまであたしは意地悪い女じゃありません~~~。クルスちゃんも一緒にどう? ってお誘いするつもりだったのです~~~」
リリベル=ユーリィの次に箸が止まってしまったのはクルス=サンティーモの方であった。リリベル=ユーリィは寝言は寝て言ってろとばかりにお椀に盛られた魚スープを食べるのを再開してしまっていた。微笑みかけてくるエクレア=シューの顔をあわわ……といった慌てふためいて見つつ、今度はリリベル=ユーリィに助け舟を出してもらおうと、クルス=サンティーモはリリベル=ユーリィの方に顔を向ける。
「一晩、抱いてもらったところで、はい出来ましたってのなら、だ~れも苦労しないわよ」
リリベル=ユーリィは魚スープに口を付けつつ、妙に納得してしまう台詞を吐く。何かそういう体験があったことを匂わせてくる言葉である。クルス=サンティーモはますます頭の中が混乱していってしまう。そして、クルス=サンティーモが次に口走ったことで、野営地に居るレオナルト=ヴィッダー以外の皆が、口からスープをぶぶぶっ! と強く噴き出してしまう。
「じ、人類皆穴兄妹なのですゥ! レオン様のおちんこさんは共有財産にするべきなのですゥ! だから、今晩は皆でレオン様を押し倒すのですゥ!?」
「ちょっと待てよ! おいらも含まれてんのか!? 俺は男の娘に興味はあっても、レオンは守備範囲外だぞ!?」
「デーブさん、違いますゥ! あくまでも竿役はレオン様だけなのですゥ! デーブさんは掘られる側に徹してくださいッ!」
「おい、リリベル嬢ちゃん、エクレア嬢ちゃん、おめえらふたりがクルスを壊したんだぞ!? おめえらふたりが責任取れっ! おいらはレオンに掘られる気はこれっぽちも無いってんだっ!!」
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