【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

文字の大きさ
95 / 261
第10章:災厄の兆し

第4話:兵法の基本

しおりを挟む
 デーブ=オクボーンは傭兵上がりで、さらにはウィーゼ王国とバルト帝国間で起きた2年間の厳しいいくさに従事しつづけた男である。暴走する手前まで達しているレオナルト=ヴィッダーの傍らに、クルス=サンティーモと常に居た戦士である。敵に四方八方を囲まれる経験など、今回が初めてではなかった。

 デーブ=オクボーンは自分に向かって、凶刃を振るってくるコボルトたちを片腕一本で投げ飛ばし続けた。コボルトが右腕をその手に持つ武器と共に振り上げるや否や、デーブ=オクボーンはそのコボルトとの距離を一気に詰めて、さらには自分の左腕をコボルトの右わきに刺し込み、豪快に左上手投げを繰り出す。最初に襲い掛かったコボルトAが地面に叩きつけられたのを見せつけられるが、それでも相手は丸腰ということもあり、ワオオオン! と吠えながら、コボルトB~Dはデーブ=オクボーンに次々と襲い掛かる。

 しかし、デーブ=オクボーンは動ける豚だ。連続で振り回される凶刃の雨を軽い身のこなしで避けつつ、ぶん投げるを繰り返す。さすがに襲い掛かってくるコボルトたちにトドメまでは取れぬものの、コボルトたちの勢いを削ぐことは出来ていた。地面に向かってぶん投げられたコボルト10匹の群れは、勢いに任せて突っ込むのをやめてしまう。

 もし、コボルトたちが長剣ロング・ソードやメイスといった短物ばかりでなく、長物の部類である槍や斧槍ハルバードを装備していたなら、もっと結果は変わっていたかもしれない。長物系を装備していた者たちは、直接、荷馬車を襲う方に回ってしまっていたのだ。

 明らかに相手の戦力を見誤っていたのはコボルト側であった。豚ニンゲンオークに対して、コボルト10匹をあてがうこと自体は間違っては無い。しかしデーブ=オクボーンは2年間の厳しい戦地を生き残った動ける豚である。コボルトたちは『敵を知り、己を知る』という、兵法の基本も基本を忘れていたのであった……。

 荷馬車とデーブ=オクボーンを取り囲んだコボルト30匹の群れが壊滅するまで、30分も時間は要さなかった。20匹のコボルトが荷馬車を取り囲んだは良いが、リリベル=ユーリィとエクレア=シューのコンビがものの10数分程度で壊滅させしまう。

 荷馬車から物資を奪うのが目的のために、コボルトたちは基本、火を使わなかった。それゆえに、群れとしての破壊力はそれほど高くなく、結局のところ、個人個人の力量で荷馬車を護るリリベル=ユーリィたちと対峙せねばならなかった。

 リリベル=ユーリィはコボルト10匹を右手に持つ薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアで散々に切り刻んだ後、エクレア=シューが展開する魔術障壁マジック・バリアを突破出来ずにいるコボルト10匹に横から襲い掛かる。

 コボルトの一群は相手の戦力を推し量ることに失敗し、さらには戦力配置を間違えていたのだ。丸腰のデーブ=オクボーンが豚ニンゲンオークのように醜く太っていたし、丸腰であったために、確実に仕留めるためにも3分の1の戦力を割いてしまった。

 豚ニンゲンオークのような豚を殺した後、紅を基調とした部分鎧に身を包む騎士然とした女性を取り囲む10匹のコボルトたちに加勢すれば、勝ち確だと思い込んでいた。実際には、豚ニンゲンオークのような面をした豚にてこずり、さらには騎士然とした女性に瞬く間にコボルトB群があっさりと壊滅してしまっただけである。

 この時点でコボルトの群れは撤退しなければならなかった。しかし、騎士然とした女性に仲間を切り刻まれたことで、コボルトの群れはわれを見失う。デーブ=オクボーンを取り囲んでいたコボルトA群はそれを止めて、一斉にリリベル=ユーリィに襲い掛かろうとする。

魔術障壁マジック・バリアを縦横に展開するのです~~~」

 エクレア=シューは自分に向かってきていたコボルトC群がリリベル=ユーリィに屠殺とさつされていくのを視認しつつ、自分と荷馬車を護っていた魔術障壁マジック・バリアを解き、デーブ=オクボーンの居る地点から、リリベル=ユーリィの背中へと襲いかかってくるコボルトA群の侵攻を防ぐための水で出来た厚い壁を創り出す。

横に20ミャートル、縦に3ミャートルの水壁が眼の前に展開されたことで、コボルトA群は足止めさせられてしまう。さらにエクレア=シューは魔術障壁マジック・バリアを歪曲させていき、円形に変えてしまう。コボルトA群はすっかり水壁に囲まれ、リリベル=ユーリィに襲い掛かるどころか、デーブ=オクボーン側にも戻れなくなってしまう。

 リリベル=ユーリィはコボルトC群を屠殺とさつし終えると、最後のしめとばかりに、エクレア=シューに水壁の一部を開くようにと願い出る。エクレア=シューは額から鈍い汗を流しつつも、ニッコリとリリベル=ユーリィに微笑みかける。そして、水壁の一部に穴を開け、リリベル=ユーリィがその穴の中から水壁の内側に入るや否や、その穴を再び閉じてしまう。

「さてと……。兵法に照らし合わせるなら、窮鼠、ニャン・シャンを噛むって点から、逃げ道を準備しておくことが正しいのだけれど……。あなたたち程度の腕前なら、そんな心配なんてしなくていいわよね?」

 リリベル=ユーリィの言う通り、いくら勝ちがほぼ確定している相手だからといって、完全にその相手の逃げ道を塞いでしまうのは悪手である。手負いの虎ほど怖いモノは無いと言われている由縁は、相手が死に物狂いで反抗してきた場合、こちらも手傷を負わされてしまう可能性が非常に高まるからだ。

 だからこそ、相手に逃げを打つことが出来るちょっとした心の油断を作っておかなければならない。リリベル=ユーリィは水壁で取り囲まれた逃げ場の無い闘技場で次々とコボルトA群を切り刻み続けた。コボルトA群は半狂乱に陥りながら、リリベル=ユーリィに対して凶刃を振るってくる。リリベル=ユーリィは振り下ろされてくる凶刃を部分鎧の表面部分で受け流しつつ、コボルトたちの喉元を薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアで切り裂き続けた。

 逃げ場が無いのはリリベル=ユーリィも同じであった。兄から与えられた赤を基調とした部分鎧をさらに傷だらけにしつつ、リリベル=ユーリィはコボルトA群を屠殺とさつし続ける。そして、コボルトが残り3匹となった時、リリベル=ユーリィはついに身体全体が麻痺してしまうこととなる。

「チッ! さすがにコボルトね。戦いの美学なんてあったものじゃないっ!」

 リリベル=ユーリィはギリッ! と歯ぎしりする。動きが明らかに鈍った自分に対して、コボルトたちがあからさまに喜びの感情を含めた雄叫びをあげる。残り3匹となったコボルトたちは自分たちの仲間を殺しまくった憎き女騎士をしとめ損なわないようにと、熱くなってしまった心を落ち着かせ、無理やりに冷静さを取り戻していく……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...