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第12章:陽が沈む地へ

第1話;スポンサーへの報告

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――北ラメリア大陸歴1495年2月10日 ウィーゼ王国:首都:オールドヨークにて――

「俺は悪くねえっっっ!!」

 レオナルト=ヴィッダーは背筋をピンと張りつつ、堂々とウィーゼ王国の第1王子であるフィルフェン=クレープスに否定の言葉を叩きつける。フィルフェン=クレープスはあからさまにハアヤレヤレと肩をすくめてみせる。

 レオナルト=ヴィッダーが『地上の楽園』からウィーゼ王国の首都であるオールドヨークに戻って来てから、早1週間が経とうとしていた。彼へ助力を与えているフィルフェン=クレープスが再びレオナルト=ヴィッダーと接触し、『地上の楽園』での成果について尋ねたのである。

 そして、レオナルト=ヴィッダーはフィルフェン=クレープスに朱鷺は手に入れられず、代わりに緋喰い鳥から、緋喰い鳥の羽根を何枚かもらってきたことを告げる。フィルフェン=クレープスはほうほう! と緋喰い鳥の羽根に深い興味を抱く。クルス=サンティーモは肩下げ魔法の荷物入れマジック・バッグから、緋喰い鳥の羽根を1枚取り出し、彼に手渡す。

 元々は長さ1ミャートル半もある緋喰い鳥の羽根であったが、コッシロー=ネヅの魔術により、今はその3分の1の50センチュミャートルほどの長さにまで縮んでいる。緋喰い鳥の羽根を手渡されたフィルフェン=クレープスが羽根の一端を左手に持ち、右手で感触を楽しむ。

「これは良いモノですね~~~。魔力というよりかは、神器から感じる神力ちからに似たモノを感じます。レオナルトくんの顔色が良いのは、クルスくん、リリベルくん、エクレアくん、そして……マリアくんとしっぽりずっぽり楽しんでいたからだというわけではなさそうですね?」

 レオナルト=ヴィッダーがフィルフェン=クレープスに逆切れ気味に否定の言葉を叩きつけたのは、嫌みを含んだフィルフェン=クレープスのこの一言に対してだ。レオナルト=ヴィッダーはクルス=サンティーモとリリベル=ユーリィの件については、言い逃れようは無いが、エクレア=シューとマリア=アコナイトは『流れ』がそうさせたと思っている。

 そして、レオナルト=ヴィッダーはその『流れ』に乗っただけだ。男どもの間だけで言われる言葉がある。『据え膳喰わぬは男の恥』という言葉だ。クルス=サンティーモは蒼髪オカッパの愛くるしい男の娘。リリベル=ユーリィは褐色のダークエルフ。このふたりに手を出さない男が居れば『インポかよっ!』と総ツッコミをもらってもおかしくはない。

 だからこそ、フィルフェン=クレープスとしては、このふたりとねんごろな関係になるのは構わないと思っていた。しかし、あとのふたりはどう言いつくろっても、レオナルト=ヴィッダーのおちんこさんの身持ちが柔らかすぎることが要因であることは、想像に難くなかった。だからこそ、フィルフェン=クレープスは嫌みを込めたのだ。

「英雄、色を好むとよく言われます。でも、レオナルトくんはまだまだ英雄になるには実績が足りてないと思いますよ?」

 フィルフェン=クレープスの嫌味は続く。彼の言葉には説教に似たモノが込められていた。きみに出資しているのは、自分に益があるからこそだと暗に言ってみせる。レオナルト=ヴィッダーはグッ! と唸りつつ、次の言葉を売り言葉に買い言葉と言った感じでに言い放つ。

「今度こそ、秘宝を手に入れてやるっ! さあ、次の秘宝の在り処を俺に教えてくれっ!」

 レオナルト=ヴィッダーは怒りをぶちまけたくてしょうがなかった。好き好んで、失われた朱鷺を諦めたわけではない。自分の信条と仲間の意向に従ったまでなのだ。だが、スポンサーは出資に見合う益を返せと言ってくる。慈善事業ではないことを前置きして、フィルフェン=クレープスは次の秘宝の在り処をレオナルト=ヴィッダーに告げる。

「『竜皇の珠玉』の在り処が判明しました。ウィーゼ王国とバルト帝国との戦いに介入した紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンが所持しているとのことです。彼奴は竜皇ことサンダーラボルト様から竜皇の珠玉を奪い取っていたようです」

 フィルフェン=クレープスのこの言葉に安宿の2階のリビングに集まっている面々が驚きを隠せない表情へと変わる。竜皇が竜皇と呼ばれる所以ゆえんともなっている『竜皇の珠玉』を奪われてしまっていたことは、バルト帝国の権威に直結する話である。

 北ラメリア大陸にはバルト帝国とウィーゼ王国。そして、ウィーゼ王国から西はバージニア王国とミシガン王国が存在する。その国それぞれに守護神がおり、その守護神が秘宝を奪われてしまったのだ。竜皇:サンダーラボルトが竜皇の珠玉を奪われた今、それに連動するようにバルト帝国の権威失墜は明らかであり、北ラメリア大陸全体がきな臭い空気に支配されてしまう。

「俺にどうしろと? かつて俺たちを襲った紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンから『竜皇の珠玉』を奪い返して、サンダーラボルト様に返せと言うのか!?」

「はい。出来るなら、先生の父であるロータス国王を介して、バルト帝国に返上するのがベストな選択ですね。そもそも、父が竜皇の珠玉を手に入れてこいと言ったのは、バルト帝国との戦後交渉で、こちら側が有利に展開できるようにとの策でしたので」

 レオナルト=ヴィッダーたちはなるほど……と思うしかなかった。竜皇の珠玉はロータス国王が宣言した5つの秘宝のうち、1番、所在がはっきりしていたモノである。しかし、それをどうやって手にいれるのか? という問題を差し置いての話である。どちらにしても、ロータス国王が示した5つの秘宝を入手するための難易度は高すぎる。

 『冒険者』と言われる職業に従事している者たちに言わせれば、入手難度『SSS』というふざけたシロモノばかりなのだ。所在がはっきりしないだけでなく、知っていたからと言って、実際に手に入れられるかと言われれば、はっきり言って『インポッシブル』なのだ。

 そして、レオナルト=ヴィッダーは3つの秘宝を手に入れかけていたが、その全てを手に入れられずじまいに終わっている。それでも、レオナルトの辞書に『諦める』という言葉は存在しなかった。秘宝を諦めるということは、アイリス=クレープスを諦めると同義なのだ。レオナルト=ヴィッダーはアイリス=クレープスと約束をした。ふたりで幸せな家庭を築こうと。

「俺は絶対にアイリス=クレープスを孕ませてみせる……。フィルフェン様。紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは今どこにいるんだ? 俺があいつを叩きのめしてやるっ!」

 レオナルト=ヴィッダーは黒金剛石ブラック・ダイヤの双眸にメラメラと燃え上がる炎を宿していた。自分とアイリス=クレープスとの仲を裂くのであれば、紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンと言えども、容赦はしないという硬い意志が宿っていた……。
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