【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第12章:陽が沈む地へ

第2話:レオナルトの実績

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 レオナルト=ヴィッダーの揺るぎない意志が宿った言葉を受けて、フィルフェン=クレープスは口の端をニヤリと歪ませる。自分の飼っている猟犬が牙を剥き出しにして、吼える姿はなんとも頼もしい限りであった。つくづく、自分は運が良いと思わざるをえないフィルフェン=クレープスであった。

(普通のニンゲンなら、とっくの昔に絶命していておかしくないというのに、レオナルトくんは生き延びてくれています。きっと、最終的には先生とフローラくんに幸福をもたらせてくれるでしょう……)

 フィルフェン=クレープスはレオナルト=ヴィッダーに嫌みを込めつつ、説教っぽい語り口で、彼の節操無しのおちんこさんを諫めはしたものの、彼への評価自体は存外に高かった。国王:ロータス=クレープスが示した5つの秘宝を実際に手に入れた者は誰一人いない状況下、フィルフェン=クレープスが知る限りの上では、レオナルト=ヴィッダーはそのうち、ふたつをギリギリのところで手に入れそびれている。

 何かあと一押しあれば、レオナルト=ヴィッダーが秘宝を手に入れることが出来るはずである。その一押しをするのがスポンサーであるフィルフェン=クレープスの役目だと自負する彼である。

「レオン様……。蒸し返して悪いんですけどォ。やっぱり、エクレアさんのお父様から槍をもらっておけばよかったんじゃァ……」

「おい、クルス。その話をするのはやめろっ! フィルフェン様の心象が悪くなるだろ!?」

 レオナルト=ヴィッダーとクルス=サンティーモのやりとりに、フィルフェン=クレープスは頭の中に『?』を3つ浮かべてしまう。エクレア=シューの父親の話を今、この場に出す必要性があるのでしょうか? と思わざるをえないフィルフェン=クレープスである。しかしながら、フィルフェン=クレープスはその疑問が氷解したことで、椅子ごと後ろに倒れそうになってしまう。

 フィルフェン=クレープスは丸いテーブルの端に両腕を絡ませて、なんとか体勢を維持することになる。クルス=サンティーモからエクレア=シューが海皇の73番目の娘であることを告げられたせいもある。

「えっ……と。レオナルトくんは『海皇の三叉槍』を手に入れるきっかけを持っていながら、それを棒に振ったん……です!?」

「チュッチュッチュ。こいつは真正のバカ正直者でッチュウ。エクレアの父は海皇そのものでッチュウ。僕が実際にモンドロールで会ったから、奴が本物の海皇であることは保証してやるのでッチュウ」

 蝙蝠羽付きの白いネズミがクルス=サンティーモの蒼髪オカッパの上にちょこんと乗った状態で、チュッチュッチュと不敵に笑ってみせる。レオナルト=ヴィッダーはバツが悪そうな表情を浮かべつつ、右手で自分の後頭部をボリボリと掻く。対して、フィルフェン=クレープスは開いた口が塞がらないと言った感じだ。それもそうだろう。フィルフェン=クレープスが掴んでいる情報は、天使の嬉し涙と失われた朱鷺を手に入れ損なったという2件を所持しているのみなのだ。

 そこにいきなり『海皇の三叉槍』に関しての報告をぶっこまれたのである。フィルフェン=クレープスはククク……フフフ……ハーハハッ! と大笑いしてしまうしかなかった。しかしながら、それは呆れからの大笑いではない。

「レオナルトくん、やるじゃないですかっ! 先生は痛く感動していますっ! ええ、これは嫌みを一切含んでいませんっ! やはり我が妹を幸せに出来る可能性が一番高いのはレオナルト=ヴィッダーくん、あなたなのでしょうっ!!」

 大喜びのフィルフェン=クレープスに対して、ますます渋い顔になってしまうのがレオナルト=ヴィッダーであった。自分はあと一歩と言うところまで行ってはいるが、実際にロータス国王が示す5つの秘宝のうち、ひとつも手に入れられていない。実績が無いとはまさにこのことであり、フィルフェン第1王子がどれほど喜ぼうが、自分の気持ちは一切晴れぬままであった。

「俺は何一つ、手に入れていないっ。俺は俺を許せないっ!」

 レオナルト=ヴィッダーが自分で自分を責めているのに対して、フィルフェン=クレープスは努めて朗らかな口調で彼を宥め始める。

「そんな暗い表情をしているほうがおかしいのですよ。数多くの挑戦者が5つの秘宝を手に入れようとウィーゼ王国を飛び出している状況ですが、レオナルトくんほどに秘宝がその手に届く位置にまで接近できた人物はいなかったと断言しましょう」

「だが、俺は手に入れれなかった。手が届く位置まで迫っていながら、俺はダメだったんだっ!!」

 レオナルト=ヴィッダーは悔しさをそのまま握りこぶしに乗せて、丸テーブルをガンッ! と一度叩いてみせる。自傷行為が自分の心を癒してくれるとも言いたげな態度を取るレオナルト=ヴィッダーである。そんな憤りを隠せないレオナルト=ヴィッダーの右手を両手で優しく包み込んだフィルフェン=クレープスが、まるで悪魔の囁きが如くに甘くて優しい言葉をレオナルト=ヴィッダーに投げかける。

「先生は常々、結果こそ全てだという連中の首を叩き斬ってやりたいと思っています。過程などどうでも良いと思っている連中とは、先生は反りが合いません」

「お、俺も苦労をわかってもらえないのは歯がゆい気持ちになる側のニンゲンです……。でも、結局、世の中というのは結果こそが全てでは無いのですか?」

 レオナルト=ヴィッダーは渋面を獣面と言えるほどに顔中にシワを浮かび上がらせていた。フィルフェン=クレープスの甘くて優しい言葉を絶対に受け入れてはいけないと思ってしまう。しかし、フィルフェン=クレープスの言葉は心まで強張らせたレオナルト=ヴィッダーに鐘が鳴り響くように浸透していく……。

「違います、レオナルトくん。『失敗は成功の母』なのです。ヒトは幾千幾万幾億の失敗を重ねて、最後は成功するのです。『歴史を学ぶ』とは『結果』を学ぶことではありません。歴史からは『失敗』をこそ学ぶべきなのです」

「言っている意味がわかりませんっ! 俺は失敗だらけなんですっ!!」

 レオナルト=ヴィッダーは右手を優しく包みこんでくるフィルフェン=クレープスの両手を振りほどく。だが、そうされてもフィルフェン=クレープスは彼の右手をもう一度、これ以上なく優しく包み込む。

「いいですか? ヒトは『失敗』してもいいんです。『諦めることが大罪』なのです。レオナルトくんは諦めることが大嫌いなんでしょ? じゃあ、後は『成功するまで失敗する』だけなんですよ」

 レオナルト=ヴィッダーはこの言葉を受けて、黒金剛石ブラック・ダイヤの双眸から大きな涙をボロボロと零す。いくら失敗しようが構わないと言ってくれるフィルフェン=クレープスの存在がありがたく、同時に自分が情けない人物に思えてしょうがなかったからだ。

「クルスくん、リリベルくん、アイリスくん、そしてマリアくん。レオナルトくんが失敗した時は、優しく抱いてあげてください。男は女性よりもセンチメンタルなんです……」
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