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第12章:陽が沈む地へ
第3話:国民性
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クルス=サンティーモ、エクレア=シュー、マリア=アコナイトの3名はレオナルト=ヴィッダーが大粒の涙を零すものだから、つい、もらい泣きしてしまいそうになる。しかしながら、リリベル=ユーリィはまったくもってそんな気分にはなれなかった。それもそうだろう。自分の兄の演技臭さがどうしても鼻についてしょうがないのだ。
(お兄様があんな風にレオを諭しているのは、きっと理由があってのことよ……。でも、困ったわね。ここでわたしももらい泣きしておかないと、あとで皆に薄情者だと言われそうだし……)
レオナルト=ヴィッダーの周りに女性が増えたことで、必然的に女性社会が生まれることとなる。男は本能的な動物であり、女は感情的な動物と言われることが多い。もちろん、男がそう言われるのは、おちんこさんに脳みそがついているからだ。そして、女性がそう言われるのは、共感性の高さからと言えよう。
そして、リリベル=ユーリィの気持ちを察したのか、フィルフェン=クレープスは視線をレオナルト=ヴィッダーから、リリベル=ユーリィの方へと向ける。そして、レオナルト=ヴィッダーに向けていた優しさの3倍以上の菩薩の顔でリリベル=ユーリィに声をかけてくる。
「リリベルくん。レオナルトくんのことをよくよく頼みます。貴女に預けた薔薇乙女の細剣はどんなイバラの道であろうが、切り開くほどの力を持っていますので」
「そ、そうなんですか? 預かったこの剣がどれほどまでにすごいかは自覚していますけど……」
リリベル=ユーリィは『地上の楽園』での出来事を思い出す。レオナルト=ヴィッダーが素戔嗚に心と身体を奪われた時に放った八つの頭を持つ黒い大蛇を次々と屠ったことをだ。あの時、リリベル=ユーリィは薔薇乙女の細剣がただの切れ味が良すぎる剣だという認識を改めることとなる。腰の左側に佩いている薔薇乙女の細剣は『神器』であろうという確信めいたものがある。
エクレア=シューにも、それがそういうシロモノであることを指摘されている。世の中には伝説に謳われる英雄たちが扱ったと言われている武具、そして、神話に登場する『神器』というものが存在する。『神器』とはまさしく神が用いた武具であり、元はヒトである英雄たちが身にまとった伝説の武具よりも、格が上の存在である。それを何故、ウィーダ王国の第1王子にしかすぎない兄が所有しているかはわからない。
父であるロータス国王ですら、伝説クラスの武具を所持しているのみだ。ちなみにロータス国王が所持している伝説の武具は戦斧であり、その名は『双子紅月』。戦斧の両刃が光輝くと同時に、その三日月が紅く染まるからだ。もちろん、赤く染まる理由は、斬り伏せた相手の血で白刃が真っ赤に濡れるからだ。
そして、神話クラスの武器、要は『神器』となれば、真っ先に思いつくのは『海皇の三叉槍』となる。そんなたいそれたものをロータス国王は持ってこいと言うのだ、娘と結婚したいならばと。こんなふざけた話はそうそうないのだが、アイリス=クレープスはウィーゼ王国の国民たちから非常に人気がある。その女性を自分のおちんこさんで穢すチャンスがあるのならば、自分の身の危険を顧みずにチャレンジするものだ。
ウィーゼ王国の男たちははっきり言って『バカ』なのだ。自国の3倍の領土を有するバルト帝国と正面切って戦うくらいである。そうであるのに、2年間も戦い、さらには痛み分けまでもっていっている。元々、ウィーゼ王国の兵士はバルト帝国の兵士3人分として換算される。亜人族で構成されているバルト帝国の兵士が弱いわけがない。ウィーゼ王国の兵士が強すぎるのだ。
先の戦では、ウィーゼ王国の国王であるロータス=クレープス直々に参戦したわけではないが、その国王に代わり、総指揮を任された総軍団長:ゼンダー=ラウディスは今や他国でも『軍神』と称されている。
ゼンダー=ラウディスは機に聡く、拙速を厭うことなく、軍を動かす。相手が体勢を整える前に攻撃を仕掛け、余計な戦果を求めずに、退く時となれば、速やかに退く。これは言葉で言えば簡単だが、実際にやろうとして出来るのはゼンダー=ラウディスのみであろう。
そして、今の状況で肝心なことは、そのゼンダー=ラウディスが教師を務めていた相手が自分の兄であるフィルフェン=クレープスなのだ。策略家の一面を併せ持つゼンダー=ラウディスの一番弟子がフィルフェン=クレープスである。元々、策謀自体を忌避するどころか、好む性格であるフィルフェン=クレープスはゼンダー=ラウディスと馬が合った。
しかし、アイリス=クレープスはゼンダー=ラウディスからの師事は受けず、首席騎士であるゴーマ=タールタルに剣技を叩きこんでもらった。真っ直ぐに生きることを信条とするアイリス=クレープスは同じく頑固で正直者のゴーマ=タールタルと馬が合ったのである。
それゆえに、アイリス=クレープスは兄の仕草がいちいち演技臭いと思ってしまうのである。しかし、こちらに菩薩の笑みを顔にたたえている兄に口答えするのは、自分の立場を危うくする。そのことを重々承知のアイリス=クレープスである。彼女は十数秒ほど逡巡したが、姿勢を正し、騎士の礼をする。その礼を受け取ったフィルフェン=クレープスはホッと胸を撫でおろし、再び、レオナルト=ヴィッダーの方に顔を向ける。
「さてと、だいぶ話が脱線してしまいましたが……。かの紅玉眼の蒼き竜は、新たな竜皇となるために、神力を欲しているらしいのです」
「神力を欲している? 竜皇の珠玉を所持しているだけでは物足りないということですか?」
レオナルト=ヴィッダーはよく事情がわからないと言った感情をそのまま顔の表情として映し出す。しかしながら、問われた側のフィルフェン=クレープスは難しい顔つきになり、胸の前で腕を組むこととなる。
「そこはまだはっきりとはわからないのですが、先生に情報提供を行っている人物がそう言うのですよ。急がなければ、かの紅玉眼の蒼き竜は現竜皇であるサンダーラボルトを弑してしまうと……」
いつも自信たっぷりに皮肉を込めつつ物を言うフィルフェン=クレープスが妙に歯に何かが詰まったようなしゃべり方をするので、リリベル=ユーリィは眉間にシワを寄せてしまうこととなる。
(お兄様への情報提供を行っているヒトって、誰なのかしら? お姉様なわけがないし……)
リリベル=ユーリィは何故か、姉である第1王女:フローラ=クレープスの顔を思い浮かべるが、お姉様が全ての黒幕とはどうしても思えず、姉の顔を頭の中からかき消すように頭を左右に振るのであった……。
(お兄様があんな風にレオを諭しているのは、きっと理由があってのことよ……。でも、困ったわね。ここでわたしももらい泣きしておかないと、あとで皆に薄情者だと言われそうだし……)
レオナルト=ヴィッダーの周りに女性が増えたことで、必然的に女性社会が生まれることとなる。男は本能的な動物であり、女は感情的な動物と言われることが多い。もちろん、男がそう言われるのは、おちんこさんに脳みそがついているからだ。そして、女性がそう言われるのは、共感性の高さからと言えよう。
そして、リリベル=ユーリィの気持ちを察したのか、フィルフェン=クレープスは視線をレオナルト=ヴィッダーから、リリベル=ユーリィの方へと向ける。そして、レオナルト=ヴィッダーに向けていた優しさの3倍以上の菩薩の顔でリリベル=ユーリィに声をかけてくる。
「リリベルくん。レオナルトくんのことをよくよく頼みます。貴女に預けた薔薇乙女の細剣はどんなイバラの道であろうが、切り開くほどの力を持っていますので」
「そ、そうなんですか? 預かったこの剣がどれほどまでにすごいかは自覚していますけど……」
リリベル=ユーリィは『地上の楽園』での出来事を思い出す。レオナルト=ヴィッダーが素戔嗚に心と身体を奪われた時に放った八つの頭を持つ黒い大蛇を次々と屠ったことをだ。あの時、リリベル=ユーリィは薔薇乙女の細剣がただの切れ味が良すぎる剣だという認識を改めることとなる。腰の左側に佩いている薔薇乙女の細剣は『神器』であろうという確信めいたものがある。
エクレア=シューにも、それがそういうシロモノであることを指摘されている。世の中には伝説に謳われる英雄たちが扱ったと言われている武具、そして、神話に登場する『神器』というものが存在する。『神器』とはまさしく神が用いた武具であり、元はヒトである英雄たちが身にまとった伝説の武具よりも、格が上の存在である。それを何故、ウィーダ王国の第1王子にしかすぎない兄が所有しているかはわからない。
父であるロータス国王ですら、伝説クラスの武具を所持しているのみだ。ちなみにロータス国王が所持している伝説の武具は戦斧であり、その名は『双子紅月』。戦斧の両刃が光輝くと同時に、その三日月が紅く染まるからだ。もちろん、赤く染まる理由は、斬り伏せた相手の血で白刃が真っ赤に濡れるからだ。
そして、神話クラスの武器、要は『神器』となれば、真っ先に思いつくのは『海皇の三叉槍』となる。そんなたいそれたものをロータス国王は持ってこいと言うのだ、娘と結婚したいならばと。こんなふざけた話はそうそうないのだが、アイリス=クレープスはウィーゼ王国の国民たちから非常に人気がある。その女性を自分のおちんこさんで穢すチャンスがあるのならば、自分の身の危険を顧みずにチャレンジするものだ。
ウィーゼ王国の男たちははっきり言って『バカ』なのだ。自国の3倍の領土を有するバルト帝国と正面切って戦うくらいである。そうであるのに、2年間も戦い、さらには痛み分けまでもっていっている。元々、ウィーゼ王国の兵士はバルト帝国の兵士3人分として換算される。亜人族で構成されているバルト帝国の兵士が弱いわけがない。ウィーゼ王国の兵士が強すぎるのだ。
先の戦では、ウィーゼ王国の国王であるロータス=クレープス直々に参戦したわけではないが、その国王に代わり、総指揮を任された総軍団長:ゼンダー=ラウディスは今や他国でも『軍神』と称されている。
ゼンダー=ラウディスは機に聡く、拙速を厭うことなく、軍を動かす。相手が体勢を整える前に攻撃を仕掛け、余計な戦果を求めずに、退く時となれば、速やかに退く。これは言葉で言えば簡単だが、実際にやろうとして出来るのはゼンダー=ラウディスのみであろう。
そして、今の状況で肝心なことは、そのゼンダー=ラウディスが教師を務めていた相手が自分の兄であるフィルフェン=クレープスなのだ。策略家の一面を併せ持つゼンダー=ラウディスの一番弟子がフィルフェン=クレープスである。元々、策謀自体を忌避するどころか、好む性格であるフィルフェン=クレープスはゼンダー=ラウディスと馬が合った。
しかし、アイリス=クレープスはゼンダー=ラウディスからの師事は受けず、首席騎士であるゴーマ=タールタルに剣技を叩きこんでもらった。真っ直ぐに生きることを信条とするアイリス=クレープスは同じく頑固で正直者のゴーマ=タールタルと馬が合ったのである。
それゆえに、アイリス=クレープスは兄の仕草がいちいち演技臭いと思ってしまうのである。しかし、こちらに菩薩の笑みを顔にたたえている兄に口答えするのは、自分の立場を危うくする。そのことを重々承知のアイリス=クレープスである。彼女は十数秒ほど逡巡したが、姿勢を正し、騎士の礼をする。その礼を受け取ったフィルフェン=クレープスはホッと胸を撫でおろし、再び、レオナルト=ヴィッダーの方に顔を向ける。
「さてと、だいぶ話が脱線してしまいましたが……。かの紅玉眼の蒼き竜は、新たな竜皇となるために、神力を欲しているらしいのです」
「神力を欲している? 竜皇の珠玉を所持しているだけでは物足りないということですか?」
レオナルト=ヴィッダーはよく事情がわからないと言った感情をそのまま顔の表情として映し出す。しかしながら、問われた側のフィルフェン=クレープスは難しい顔つきになり、胸の前で腕を組むこととなる。
「そこはまだはっきりとはわからないのですが、先生に情報提供を行っている人物がそう言うのですよ。急がなければ、かの紅玉眼の蒼き竜は現竜皇であるサンダーラボルトを弑してしまうと……」
いつも自信たっぷりに皮肉を込めつつ物を言うフィルフェン=クレープスが妙に歯に何かが詰まったようなしゃべり方をするので、リリベル=ユーリィは眉間にシワを寄せてしまうこととなる。
(お兄様への情報提供を行っているヒトって、誰なのかしら? お姉様なわけがないし……)
リリベル=ユーリィは何故か、姉である第1王女:フローラ=クレープスの顔を思い浮かべるが、お姉様が全ての黒幕とはどうしても思えず、姉の顔を頭の中からかき消すように頭を左右に振るのであった……。
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