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第12章:陽が沈む地へ

第4話:4人娘の思惑

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「まあ、なんと言いますか。不確定な情報の上に、さらに自分なりの憶測を重ねることになるんですが……」

 フィルフェン=クレープスがこう前置きした後、一度、ごほんと咳払いをする。次にフィルフェン=クレープスが言う言葉に宿屋の2階にあるリビングに集まる面々はゴクリと唾を喉奥へと押下する。

「オールドヨークから西の国々にまたがる五大湖のどこかに紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴンは現れるはずなのです」

「いや、ちょっと待ってください……。五大湖のどこかって、それはどこに現れるかわかってないと言っているのと同じなんですが……」

「はい。ここまでが情報提供者からの話なんですよ。そして、先生なりの憶測を交えるとですね……。五大湖の西も西。ミシガン王国のデートロイドからさに北西に向かった先にある首都:ジカーゴだと思っています」

「思っていますって……。それを鵜呑みにして、ここから2000キュロミャートル以上も離れている場所へ行けと言うんですか!? 北ラメリア大陸の東岸から西岸に行けという話なんですよ!?」

 レオナルト=ヴィッダーは非難めいた台詞を吐くが、誰しもがフィルフェン王子にツッコミたいところであり、無礼千万と叱られそうなレオナルト=ヴィッダーを止める者は誰ひとりとしていなかった。フィルフェン=クレープスは困った困ったという表情を作るが、真に困るのはレオナルト=ヴィッダーたちである。

「チュッチュッチュ。フィルフェン=クレープスよ。さすがにその話で、はい行ってきますと言える奴はただのバカなんでッチュウ。本当はそうだと言える何かがあるからこそ、そこに行けと言っているんでッチュウよね?」

 フィルフェン=クレープスに助け舟を出したのは意外にも蝙蝠羽付きの白いネズミであった。彼はクルス=サンティーモの蒼髪オカッパの頂点に乗ったままで、フィルフェン=クレープスから言葉を引き出そうとする。フィルフェン=クレープスはふぅ……とひとつ嘆息した後

「やれやれ、コッシローくんはさすがに聡いですね。先生が先ほど、言ったじゃないですか。紅玉眼の蒼き竜ルビーアイズ・ブルードラゴン神力ちからを求めていると。その神力ちからを手っ取り早く手に入れるにはどうしたら良いのかという話になるわけです」

「なるほどでッチュウ。確かにあいつの居場所ならば、他のに比べれば遥かに特定しやすいでッチュウ。おい、レオナルト。『騙されたと思って食ってみろ』という言葉通りに騙されてみるのも一興なのでッチュウ」

 レオナルト=ヴィッダーは、ああ!? としか言いようが無かった。フィルフェン王子の話は当てずっぽうよりかはいくらかマシ程度の情報提供であり、それを鵜呑みにしろとコッシロー=ネヅが言うのである。文句をもっと言ってやろうかとさえ思ってしまうレオナルト=ヴィッダーであるが、文句を言う前に一考してみることにする。

「あの……、レオン様。さしでがましいのは重々承知なのですけどォ。フィルフェン様も嘘を言っているわけでは無いのですゥ……。ただ単に確証が無いだけだと思うのですゥ……」

 クルス=サンティーモはおどおどとしながら、レオナルト=ヴィッダーに意見する。それを受けて、レオナルト=ヴィッダーはう~~~んと唸り、胸の前で組んでいる腕に力を込め始める。

「あたしもコッシローちゃんに賛成なのです~~~。あたし、新婚旅行は北ラメリア大陸の西海岸に行ってみたいと思っていたのです~~~」

「西海岸はこっちと違って、冬でもわりかし温暖で、こっちで獲れる魚も違うって聞いてるなあ。おいらもコッシローの話に乗るぜ? 道中、食べ歩きでもしようぜ? な、な!?」

 エクレア=シューとデーブ=オクボーンも西行きに賛成する。しかしながら、レオナルト=ヴィッダーの身体の強張りがますます増していき、首級くびの角度もひん曲がっていく。

「あ、あのっ! あたいはレオン様となら、どこでもお供いたしますニャン! それこそ、冥府魔道だったとしても、レオン様の御側から離れることはしないニャン!」

 次に西行きを了承したのが、新参者のマリア=アコナイトであった。彼女はすっかりクルス=サンティーモたち3人娘の輪の中に溶け込んでいた。誰しもがレオナルト=ヴィッダーにどこまでも付いていくという姿勢を打ち出す。首級くびがねじ切れそうなほどにあらぬ方向に歪ませたレオナルト=ヴィッダーは最後にリリベル=ユーリィの意志を確認する。

「わたしはレオの盾であり、剣です。あなたが向かう先で降りかかるであろう困難からレオを護り、同時に打ち払ってみせます。でも……」

「でも? 何だ?」

「あの、その……。レオだけでなく、皆と一緒に北ラメリア大陸を東から西まで旅行が出来るのが嬉しいっていう気持ちも強いです……、すいません」

 レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィの言葉を受けた後、硬直しきっていた身体から力を一気に抜く。そして、丸テーブルに上半身を預けた姿勢のままで

「ああ、わかった……。お前ら、本当は秘宝探しよりも、皆で旅が出来ることのほうが嬉しいんだよな。いや、それで良いか。俺のわがままに皆が乗っかってくれてるんだ」

 レオナルト=ヴィッダーは上半身を一度、起こし直し、フィルフェン王子に向かって、ペコリと頭を下げる。

「情報提供をありがとうございました。俺はヒトとして、一番先に言わなきゃならないことを忘れてしました」

「いやいや、良いんですよ。先生もかな~~~り無茶振りだなって思ってますので。さて、旅費や滞在費については、もちろん、こちらで準備します。なんなら結婚式の費用もこちらで持ちましょうか?」

 フィルフェン=クレープスの気の利かせ方にエクレア=シューとマリア=アコナイトは驚きの表情を見せることとなる。1を聞いて10で答える人物だと、クルス=サンティーモから聞かされてはいたが、ここまで機転の利くヒトだとは思っていなかったからだ。そして、クルス=サンティーモとリリベル=ユーリィはどうせそう言うわよねと言った感じをありありと出している。

「エクレア姐さん、このヒト、とんでもない詐欺師か立派なヒトに思えるニャン!」

「マリアちゃんも同じことを思っているのね~~~。あたしもドン引きするくらい話が早くて、さすがに鵜呑みに出来ない~~~」

「ハハッ! 我が妹のアイリス=クレープスをレオナルト=ヴィッダーくんの正妻と認めてくれるのであれば、先生は一向に構わないんですよ。第二夫人の座については、皆さんで決めてください」

 フィルフェン=クレープスはそこの序列さえ間違わなければ、あとは好きにしてくれという態度を貫く。この彼の言葉を受けて、クルス=サンティーモ、エクレア=シュー、マリア=アコナイトの間にビキッ! という緊張の音が鳴り響くこととなる。

(この旅行で確実にライバルを蹴落とさないとダメなのですゥ……)

(う~~~ん。レオン様をおっぱい聖人に変える方法を見つけないとですね~~~)

(あちきの貧相なおっぱいだとエクレア姐さんに勝てないニャン! 旅行の間におっぱいを育てるしかないニャン!!)
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