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第17章:襲来
第9話:マリアの抗い
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「とんでもねえことをしやがるっ! まるでヒトの命など、虫ケラと同様だと言いたいのかっ!」
レオナルト=ヴィッダーは心の奥底から怒りが込み上がっていた。蒼き山の頂上が動いたかと思った瞬間、そこからとんでもないサイズのツララが飛んできて、前方にある建物群を吹き飛ばしたからである。建物が吹き飛ばされると同時に、氷の彫像と化していた人々の残滓が宙を舞う。レオナルト=ヴィッダーたちの脚元に、かつてはヒトであった欠片が転がってくる。
「ひどいのですゥ……。ぼくよりも年端もいかない子たちが死んでいくのですゥ……」
クルス=サンティーモは両目からボロボロと涙を流す。彼女は足元に転がってきた、幼子たちの欠片を拾い集め、両腕で抱えこんでいた。抱え込んだヒトであった者たちの欠片にクルス=サンティーモの熱い涙がポタポタとかかる。だが、その熱い涙をもってしても、彼らを元のヒトの形に戻すことは出来なかった。
「あちきは許せないですニャン! 立ちんぼ生活に追いやられはしたものの、ここまで命を無下にもてあそぶ存在に出会ったことはなかったのですニャン!!」
立ちんぼを護ってくれる存在など、この世のどこにも存在しない。自己責任を強要され、明日もわからぬ生活を強いられる身分だ。しかし、それでも積み上げたブリキのおもちゃを破壊するが如くに暴威を振るう蒼き山に対して、マリア=アコナイトは心の奥底から沸き起こる怒りで、目力を強めていく。彼女の心の怒りに感化されたのか、彼女が両手に一本づつ持つ蝶の短刀紅と蒼の刃が、紅色と蒼色を強めていく。
蒼き山から巨大なツララがまたしても発射される。これ以上、命を消し飛ばされてたまるものかと、マリア=アコナイトは地面を蹴り、自分たちに接近してくる巨大なツララの一本に斜めから突っ込んでいく。マリア=アコナイトの心は怒りの炎で燃えていた。両手に一本づつ持つ蝶の短刀を振り回し、巨大なツララを切り刻んでいく。
「あちきの眼の前で命が散っていくのを許せないニャン!!」
マリア=アコナイトが吼える。蝶の短刀をデタラメに振り回し、巨大なツララを削りに削る。巨大なツララはその表面を削られようが、なおも地表に接近し続ける。マリア=アコナイトはギリッ! と奥歯を噛みしめ、蝶の短刀・紅と蒼を揃えて、上から下へと振り下ろす。2本の刃が亀裂が走り始めていた巨大なツララの横っ腹に大きな衝撃を与え、ついに真っ二つに割れる。だが、それでも破砕までには至らず、2個に分かれた巨大なツララが建物にぶち当たり、またしてもその建物内に避難していたのであろうかつてはヒトであったものたちの欠片が宙へと舞い上がっていく。
「ゆるぜないですニャン! あいつはあちきが絶対にたおじてやるニャン!!」
マリア=アコナイトは虎眼石の双眸から血の色の涙を流していた。救おうと思っていた命を救えない。これほど、歯がゆいことなどありえはしない。しかしながら、マリア=アコナイトはそれでも、次にレオナルト=ヴィッダーたちの近くに飛んできている巨大なツララに向かって、地面を蹴り、大空へと舞い上がる。
「マリア! 下がれっ! お前の気持ちはわかった! 俺がなんとかするっ!!」
レオナルト=ヴィッダーは右腕に前腕固定型杖を装着しつつ、左手を真っ直ぐに巨大なツララに向かって突き出す。レオナルト=ヴィッダーの左手の先に直径Ⅰミャートルの黒い球体が生み出され、マリア=アコナイトが立ち向かっていた巨大なツララへ曲線を描きながら飛んでいく。黒い球体は地表に近づいてきている巨大なツララに斜め下から当たるや否や、白い紙に筆の先から墨汁をぼたぼたと落としたかのように、巨大なツララに黒い染みを浮かび上がらせる。
そして、次の瞬間には巨大なツララのあちこちが黒死病に喰われたかのように、球体状の穴だらけのボロボロの姿へと変わる。マリア=アコナイトはそうなった巨大なツララに向かって、デタラメに蝶の短刀を振り回す。巨大なツララは幾千の欠片へと生まれ変わり、地表にある建物を穿つことは出来ずじまいとなる。
マリア=アコナイトは空中で身を翻しながら、安堵の息を吐く。自分が破砕した巨大なツララは次々と広範囲に降り注ぐそれらの内の1本に過ぎなかったが、それでも、眼の前でヒトが死ぬのを防げたゆえに、胸を撫でおろしたのだ。それが自己満足の産物なのは、マリア=アコナイトだってわかっている。しかしながら、救えるはずの命を眼の前で蹂躙されっぱなしにされるよりかは遥かにマシだった。
それほどの惨状がミシガン王国の首都であるジカーゴで起きていた。街の4分の1に当たる区画が紅玉眼の蒼き竜によって破壊され尽くされている。既に3万以上の住人が紅玉眼の蒼き竜が吐き出した巨大な氷柱で命を散らされていることは間違いない状況であった。さらに建物を貫き、その中に避難していたかつてはヒトであったものを粉砕した氷柱からは強い冷気があふれ出していた。
紅玉眼の蒼き竜はただ、巨大な氷柱を口から吐き出していたわけではない。自分の領域を増やすためでもあったのだ。建物だけでなく、石畳の地面を穿った巨大な氷柱を中心として、冷気が噴き出し、ジカーゴの街をさらに死と静寂で出来ている氷の世界へと変えていく。その氷の世界が一気に広がりを見せ、ついにジカーゴの街の3分の2までもが氷漬けとなる。ジカーゴの街の住人は迫りくる死にパニックを起こし、我先に、ジカーゴの街をグルっと囲んでいる壁の南側にある外へと続く門へと殺到する。
その黒い蟻の群れを遠目に見ていた紅玉眼の蒼き竜はニタリと口の端を歪ませる。あの群衆に向かって巨大な氷柱をぶつけようとすれば、必ず、彼奴が現れるはずだとういう確信めいたモノがあった。それゆえに紅玉眼の蒼き竜は一切、躊躇せずに背中を海老ぞりにしていき、肺の中に空気を貯め込んでいく。
肺に送り込まれた空気は紅玉眼の蒼き竜の身体を流れる冷たすぎる血液に振れることで、一気に氷のつぶてへと変化する。その氷のつぶてひとつひとつが紅玉眼の蒼き竜の胃の中で凝縮され、やがて直径10ミャートルの真円の氷の塊となる……。
レオナルト=ヴィッダーは心の奥底から怒りが込み上がっていた。蒼き山の頂上が動いたかと思った瞬間、そこからとんでもないサイズのツララが飛んできて、前方にある建物群を吹き飛ばしたからである。建物が吹き飛ばされると同時に、氷の彫像と化していた人々の残滓が宙を舞う。レオナルト=ヴィッダーたちの脚元に、かつてはヒトであった欠片が転がってくる。
「ひどいのですゥ……。ぼくよりも年端もいかない子たちが死んでいくのですゥ……」
クルス=サンティーモは両目からボロボロと涙を流す。彼女は足元に転がってきた、幼子たちの欠片を拾い集め、両腕で抱えこんでいた。抱え込んだヒトであった者たちの欠片にクルス=サンティーモの熱い涙がポタポタとかかる。だが、その熱い涙をもってしても、彼らを元のヒトの形に戻すことは出来なかった。
「あちきは許せないですニャン! 立ちんぼ生活に追いやられはしたものの、ここまで命を無下にもてあそぶ存在に出会ったことはなかったのですニャン!!」
立ちんぼを護ってくれる存在など、この世のどこにも存在しない。自己責任を強要され、明日もわからぬ生活を強いられる身分だ。しかし、それでも積み上げたブリキのおもちゃを破壊するが如くに暴威を振るう蒼き山に対して、マリア=アコナイトは心の奥底から沸き起こる怒りで、目力を強めていく。彼女の心の怒りに感化されたのか、彼女が両手に一本づつ持つ蝶の短刀紅と蒼の刃が、紅色と蒼色を強めていく。
蒼き山から巨大なツララがまたしても発射される。これ以上、命を消し飛ばされてたまるものかと、マリア=アコナイトは地面を蹴り、自分たちに接近してくる巨大なツララの一本に斜めから突っ込んでいく。マリア=アコナイトの心は怒りの炎で燃えていた。両手に一本づつ持つ蝶の短刀を振り回し、巨大なツララを切り刻んでいく。
「あちきの眼の前で命が散っていくのを許せないニャン!!」
マリア=アコナイトが吼える。蝶の短刀をデタラメに振り回し、巨大なツララを削りに削る。巨大なツララはその表面を削られようが、なおも地表に接近し続ける。マリア=アコナイトはギリッ! と奥歯を噛みしめ、蝶の短刀・紅と蒼を揃えて、上から下へと振り下ろす。2本の刃が亀裂が走り始めていた巨大なツララの横っ腹に大きな衝撃を与え、ついに真っ二つに割れる。だが、それでも破砕までには至らず、2個に分かれた巨大なツララが建物にぶち当たり、またしてもその建物内に避難していたのであろうかつてはヒトであったものたちの欠片が宙へと舞い上がっていく。
「ゆるぜないですニャン! あいつはあちきが絶対にたおじてやるニャン!!」
マリア=アコナイトは虎眼石の双眸から血の色の涙を流していた。救おうと思っていた命を救えない。これほど、歯がゆいことなどありえはしない。しかしながら、マリア=アコナイトはそれでも、次にレオナルト=ヴィッダーたちの近くに飛んできている巨大なツララに向かって、地面を蹴り、大空へと舞い上がる。
「マリア! 下がれっ! お前の気持ちはわかった! 俺がなんとかするっ!!」
レオナルト=ヴィッダーは右腕に前腕固定型杖を装着しつつ、左手を真っ直ぐに巨大なツララに向かって突き出す。レオナルト=ヴィッダーの左手の先に直径Ⅰミャートルの黒い球体が生み出され、マリア=アコナイトが立ち向かっていた巨大なツララへ曲線を描きながら飛んでいく。黒い球体は地表に近づいてきている巨大なツララに斜め下から当たるや否や、白い紙に筆の先から墨汁をぼたぼたと落としたかのように、巨大なツララに黒い染みを浮かび上がらせる。
そして、次の瞬間には巨大なツララのあちこちが黒死病に喰われたかのように、球体状の穴だらけのボロボロの姿へと変わる。マリア=アコナイトはそうなった巨大なツララに向かって、デタラメに蝶の短刀を振り回す。巨大なツララは幾千の欠片へと生まれ変わり、地表にある建物を穿つことは出来ずじまいとなる。
マリア=アコナイトは空中で身を翻しながら、安堵の息を吐く。自分が破砕した巨大なツララは次々と広範囲に降り注ぐそれらの内の1本に過ぎなかったが、それでも、眼の前でヒトが死ぬのを防げたゆえに、胸を撫でおろしたのだ。それが自己満足の産物なのは、マリア=アコナイトだってわかっている。しかしながら、救えるはずの命を眼の前で蹂躙されっぱなしにされるよりかは遥かにマシだった。
それほどの惨状がミシガン王国の首都であるジカーゴで起きていた。街の4分の1に当たる区画が紅玉眼の蒼き竜によって破壊され尽くされている。既に3万以上の住人が紅玉眼の蒼き竜が吐き出した巨大な氷柱で命を散らされていることは間違いない状況であった。さらに建物を貫き、その中に避難していたかつてはヒトであったものを粉砕した氷柱からは強い冷気があふれ出していた。
紅玉眼の蒼き竜はただ、巨大な氷柱を口から吐き出していたわけではない。自分の領域を増やすためでもあったのだ。建物だけでなく、石畳の地面を穿った巨大な氷柱を中心として、冷気が噴き出し、ジカーゴの街をさらに死と静寂で出来ている氷の世界へと変えていく。その氷の世界が一気に広がりを見せ、ついにジカーゴの街の3分の2までもが氷漬けとなる。ジカーゴの街の住人は迫りくる死にパニックを起こし、我先に、ジカーゴの街をグルっと囲んでいる壁の南側にある外へと続く門へと殺到する。
その黒い蟻の群れを遠目に見ていた紅玉眼の蒼き竜はニタリと口の端を歪ませる。あの群衆に向かって巨大な氷柱をぶつけようとすれば、必ず、彼奴が現れるはずだとういう確信めいたモノがあった。それゆえに紅玉眼の蒼き竜は一切、躊躇せずに背中を海老ぞりにしていき、肺の中に空気を貯め込んでいく。
肺に送り込まれた空気は紅玉眼の蒼き竜の身体を流れる冷たすぎる血液に振れることで、一気に氷のつぶてへと変化する。その氷のつぶてひとつひとつが紅玉眼の蒼き竜の胃の中で凝縮され、やがて直径10ミャートルの真円の氷の塊となる……。
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