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第20章:東への帰路
第7話:白鳥騎士団
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水夫たちは五大湖の西岸に碇を降ろして停泊しているホワイトウルフ号に、レオナルト=ヴィッダーたちが持ち込んできた荷物を次々と船内に運び込む。忙しく水夫が陸地とホワイトウルフ号を行ったり来たりしている間、レオナルト=ヴィッダーたちの相手を務めるのがこの船の船長であるルイ=マッケンドーであった。
「この船の船首を見てくれよっ。白銀の獣皇様の加護にあやかろうと、白銀の獣皇様の彫像をくくりつけてんだっ。白銀の獣皇様は陸路の安全だけじゃなく、五大湖でもその加護を示してくれてるんだぜ? どうだ、すごいだろ!?」
「そんなに俺っちを持ち上げなくて良いっスワン。湖の魔女に嫉妬されて、船を沈められてしまうッスワン」
「カハッ! 湖の魔女と言えども、白銀の獣皇様がひと吠えすれば、裸足で逃げ出しましょうぜっ!」
なんともあっけらかんとした性格のルイ=マッケンドーに、レオナルト=ヴィッダーは鼻白む気持ちとなってしまう。基本的にルイ=マッケンドーはホワイトウルフ号をまるで自分の妻や恋人かのように自慢してくる。どんな嵐に見舞われようと、ホワイトウルフ号は波に洗われて沈んだことはないんだぜ!? と言い切ってみせる。
しかしながら、五大湖は基本的に穏やかな波しか立たない。それこそ、台風がやってきた時くらいにしか、そういう心配をする必要が無いのだ。そして、ここ数年、五大湖で船が沈むという心配は、時化よりも湖賊に襲われた時のほうがよっぽど多いのである。
それを温泉宿から、この港町にやってくる間に白銀の獣皇ことシロちゃんと、蝙蝠羽付きの白いネズミことコッシロー=ネヅが解説してくれていたのだ。だからこそ、一度も嵐で大損害を被ったことは無いと言われても、そもそもその嵐がいつやってきたんだ? とツッコミを入れたくてうずうずしてしまうレオナルト=ヴィッダーたちである。
しかしながら、これからお世話になるホワイトウルフ号の船長やその水夫たちにそういったことを言うほど、性格が捻じ曲がっているレオナルト=ヴィッダーたちではない。一行はルイ=マッケンドー船長の恋人自慢を心の中で辟易しながらも、大人しく黙って聞くに務める。
ようやく荷物の全てをホワイトウルフ号の船内に全て運ばれた後、最後の積み荷として、レオナルト=ヴィッダーたちがルイ=マッケンドーのエスコートで甲板上に案内されることとなる。リリベル=ユーリィがレオナルト=ヴィッダーの身体の左側を支えつつ、細い板をおっかなびっくり歩きながら、船上へと足を踏み入れる。
ホワイトウルフ号は水夫が10人、船長がひとりと、レオナルト=ヴィッダーたちが地上の楽園に向かった際に乗ったエンダーラー・プライズ号に比べれば、ひとまわり以上、小さな船であった。船が小さくなれば、それに比例して横波に弱くなってしまう。しかし、天候が大きく変わりやすい大海原を行く船ではなく、基本、穏やかな波である五大湖を往来するには十分な大きさを誇っているホワイトウルフ号である。
甲板上から船内に案内されたレオナルト=ヴィッダーたちは船室のひとつにたどり着く。
「お客人には悪いが、荷馬車の荷台とあまり変わりない広さの部屋しか、ご用意出来ないんだ。ひとり一部屋を準備できるような豪華客船じゃないんでねぇ」
「身体を伸ばして寝れるだけのスペースがあれば十分。でも、デーブはさすがにベッドの上で寝るスペースはなさそうだな」
「まあ、おいらは立ったままでも寝れるっていう特技があるから、レオンは俺の心配なんざしなくて良いぞ」
客人が寝泊まりする船室には二段ベッドがふたつ設置されている。デーブの体格では、二段ベッドの下に入り込むにも難儀しそうな狭さであった。ルイ=マッケンドー船長はふむ……とひとつ息を吐き、デーブ=オクボーン殿には船倉で寝てもらったほうが、まだ身体を伸ばせるだろうと、そちらの方を勧めるのであった。
結局のところ、部屋割りとしては4人娘が同室で、レオナルト=ヴィッダー、白銀の獣皇、蝙蝠羽付きの白いネズミがもうひとつの船室、デーブ=オクボーンは船倉でということで落ち着くことになる。
「俺っちはマリアちゃんとふたりっきりが良かったッスけど、贅沢は言ってられないッスね」
「そこは我慢してほしいところですぜ。俺様も水夫たちと同伴しなきゃならないほどに、船室に余裕が無い船ですからなあ」
ルイ=マッケンドーのその言いに、ハテナマークを浮かべたのは白銀の獣皇こと、シロちゃんであった。いくら狭い狭いと言えども、船長用の部屋があるのだ。そこに寝泊まりすれば良いはずなのに、ルイ=マッケンドーは水夫たちと同じ船室で寝泊まりしなければならない状況に陥っている。
「いやあ、まあ……。さる高貴なお方が客人として、ホワイトウルフ号に乗っていてですな。そちらの方を狭い船室に追いやるのは、いくら湖の上では船長の命令は絶対と言えども、言いづらい相手なんですわ」
ルイ=マッケンドーにしては、歯切れの悪い言い方をするので、白銀の獣皇ことシロちゃんは頭の上のハテナマークの数をますます増やしてしまうことになる。シロちゃんはカッツエ=マルベール女王からは、ホワイトウルフ号に同乗するさる高貴な方の話は聞かされていなかった。それゆえにその人物が誰なのかをルイ=マッケンドー船長に問いただすことになる。
「あんまり大きな声では言えませんが……。白鳥騎士団の団長とその副長がお忍びでミシガン王国にやってきていてですな。かの国の使者として、カッツエ=マルベール女王と謁見しようとしていたのですが、この騒ぎゆえに、船外へと出ることも出来ずに、またかの国へと帰るわけですよ」
「へ!? 白鳥騎士団の団長と副長ッスか!? これまた大物の名前が出てきたッスワン」
「ちょっと、白銀の獣皇様、声が大きいですぜっ! お忍びって言葉を知ってますかい!?」
次に頭の上にハテナマークを浮かべたのは、レオナルト=ヴィッダーであった。白鳥騎士団と言えば、北ラメリア大陸の国のひとつであるバージニア王国が誇る三大騎士団のひとつである。泣く子も黙ると言われる戦場の死神こと黒鳥騎士団。対する敵にも慈悲を与えると言われるホトケの白鳥騎士団。そして、汚れ仕事を厭わない黄鳥騎士団。その三大騎士団のひとつである白鳥騎士団の副長がホワイトウルフ号に同乗していることに、妙な縁を感じて仕方がないレオナルト=ヴィッダーであった。
「チュッチュッチュ。フィルフェンの小僧がきな臭い話が出てきたので、レオンに本国へと戻ってこいと言っていたのと繋がりそうな話でッチュウ。これは面白い、失敬、なかなかに不安な旅になりそうなんでッチュウ」
「そうなのか? 俺はどちらかというと、何か新しい局面が起きそうで、少しだけだけど、心が浮き立つけどな?」
「この船の船首を見てくれよっ。白銀の獣皇様の加護にあやかろうと、白銀の獣皇様の彫像をくくりつけてんだっ。白銀の獣皇様は陸路の安全だけじゃなく、五大湖でもその加護を示してくれてるんだぜ? どうだ、すごいだろ!?」
「そんなに俺っちを持ち上げなくて良いっスワン。湖の魔女に嫉妬されて、船を沈められてしまうッスワン」
「カハッ! 湖の魔女と言えども、白銀の獣皇様がひと吠えすれば、裸足で逃げ出しましょうぜっ!」
なんともあっけらかんとした性格のルイ=マッケンドーに、レオナルト=ヴィッダーは鼻白む気持ちとなってしまう。基本的にルイ=マッケンドーはホワイトウルフ号をまるで自分の妻や恋人かのように自慢してくる。どんな嵐に見舞われようと、ホワイトウルフ号は波に洗われて沈んだことはないんだぜ!? と言い切ってみせる。
しかしながら、五大湖は基本的に穏やかな波しか立たない。それこそ、台風がやってきた時くらいにしか、そういう心配をする必要が無いのだ。そして、ここ数年、五大湖で船が沈むという心配は、時化よりも湖賊に襲われた時のほうがよっぽど多いのである。
それを温泉宿から、この港町にやってくる間に白銀の獣皇ことシロちゃんと、蝙蝠羽付きの白いネズミことコッシロー=ネヅが解説してくれていたのだ。だからこそ、一度も嵐で大損害を被ったことは無いと言われても、そもそもその嵐がいつやってきたんだ? とツッコミを入れたくてうずうずしてしまうレオナルト=ヴィッダーたちである。
しかしながら、これからお世話になるホワイトウルフ号の船長やその水夫たちにそういったことを言うほど、性格が捻じ曲がっているレオナルト=ヴィッダーたちではない。一行はルイ=マッケンドー船長の恋人自慢を心の中で辟易しながらも、大人しく黙って聞くに務める。
ようやく荷物の全てをホワイトウルフ号の船内に全て運ばれた後、最後の積み荷として、レオナルト=ヴィッダーたちがルイ=マッケンドーのエスコートで甲板上に案内されることとなる。リリベル=ユーリィがレオナルト=ヴィッダーの身体の左側を支えつつ、細い板をおっかなびっくり歩きながら、船上へと足を踏み入れる。
ホワイトウルフ号は水夫が10人、船長がひとりと、レオナルト=ヴィッダーたちが地上の楽園に向かった際に乗ったエンダーラー・プライズ号に比べれば、ひとまわり以上、小さな船であった。船が小さくなれば、それに比例して横波に弱くなってしまう。しかし、天候が大きく変わりやすい大海原を行く船ではなく、基本、穏やかな波である五大湖を往来するには十分な大きさを誇っているホワイトウルフ号である。
甲板上から船内に案内されたレオナルト=ヴィッダーたちは船室のひとつにたどり着く。
「お客人には悪いが、荷馬車の荷台とあまり変わりない広さの部屋しか、ご用意出来ないんだ。ひとり一部屋を準備できるような豪華客船じゃないんでねぇ」
「身体を伸ばして寝れるだけのスペースがあれば十分。でも、デーブはさすがにベッドの上で寝るスペースはなさそうだな」
「まあ、おいらは立ったままでも寝れるっていう特技があるから、レオンは俺の心配なんざしなくて良いぞ」
客人が寝泊まりする船室には二段ベッドがふたつ設置されている。デーブの体格では、二段ベッドの下に入り込むにも難儀しそうな狭さであった。ルイ=マッケンドー船長はふむ……とひとつ息を吐き、デーブ=オクボーン殿には船倉で寝てもらったほうが、まだ身体を伸ばせるだろうと、そちらの方を勧めるのであった。
結局のところ、部屋割りとしては4人娘が同室で、レオナルト=ヴィッダー、白銀の獣皇、蝙蝠羽付きの白いネズミがもうひとつの船室、デーブ=オクボーンは船倉でということで落ち着くことになる。
「俺っちはマリアちゃんとふたりっきりが良かったッスけど、贅沢は言ってられないッスね」
「そこは我慢してほしいところですぜ。俺様も水夫たちと同伴しなきゃならないほどに、船室に余裕が無い船ですからなあ」
ルイ=マッケンドーのその言いに、ハテナマークを浮かべたのは白銀の獣皇こと、シロちゃんであった。いくら狭い狭いと言えども、船長用の部屋があるのだ。そこに寝泊まりすれば良いはずなのに、ルイ=マッケンドーは水夫たちと同じ船室で寝泊まりしなければならない状況に陥っている。
「いやあ、まあ……。さる高貴なお方が客人として、ホワイトウルフ号に乗っていてですな。そちらの方を狭い船室に追いやるのは、いくら湖の上では船長の命令は絶対と言えども、言いづらい相手なんですわ」
ルイ=マッケンドーにしては、歯切れの悪い言い方をするので、白銀の獣皇ことシロちゃんは頭の上のハテナマークの数をますます増やしてしまうことになる。シロちゃんはカッツエ=マルベール女王からは、ホワイトウルフ号に同乗するさる高貴な方の話は聞かされていなかった。それゆえにその人物が誰なのかをルイ=マッケンドー船長に問いただすことになる。
「あんまり大きな声では言えませんが……。白鳥騎士団の団長とその副長がお忍びでミシガン王国にやってきていてですな。かの国の使者として、カッツエ=マルベール女王と謁見しようとしていたのですが、この騒ぎゆえに、船外へと出ることも出来ずに、またかの国へと帰るわけですよ」
「へ!? 白鳥騎士団の団長と副長ッスか!? これまた大物の名前が出てきたッスワン」
「ちょっと、白銀の獣皇様、声が大きいですぜっ! お忍びって言葉を知ってますかい!?」
次に頭の上にハテナマークを浮かべたのは、レオナルト=ヴィッダーであった。白鳥騎士団と言えば、北ラメリア大陸の国のひとつであるバージニア王国が誇る三大騎士団のひとつである。泣く子も黙ると言われる戦場の死神こと黒鳥騎士団。対する敵にも慈悲を与えると言われるホトケの白鳥騎士団。そして、汚れ仕事を厭わない黄鳥騎士団。その三大騎士団のひとつである白鳥騎士団の副長がホワイトウルフ号に同乗していることに、妙な縁を感じて仕方がないレオナルト=ヴィッダーであった。
「チュッチュッチュ。フィルフェンの小僧がきな臭い話が出てきたので、レオンに本国へと戻ってこいと言っていたのと繋がりそうな話でッチュウ。これは面白い、失敬、なかなかに不安な旅になりそうなんでッチュウ」
「そうなのか? 俺はどちらかというと、何か新しい局面が起きそうで、少しだけだけど、心が浮き立つけどな?」
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