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第25章:七人の天使
第7話:酸い拳
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幻惑の天使であるジュレミエルは何故、レオナルト=ヴィッダーだけが深い眠りに堕ちないのかと、訝しむことになる。魔皇ですらこの幻惑術から逃れることが出来ないというのに、たかだかニンゲンにすぎないこの男のどこに自分が繰り出す幻惑術の抵抗力が高い理由を見つけ出そうとする。しかし、ジュレミエルには皆目、見当がつかなかった。レオナルト=ヴィッダーはふらふらと千鳥足であり、今にも麗しの眠り姫に完全に屈しそうになっている。
「つかぬことをお聞きしますが、キミは幻惑術の抵抗力を高める訓練を積んでいたりするノカ?」
ジュレミエルは返事など期待せずに、レオナルト=ヴィッダーに質問してみせる。しかし、意外なことにレオナルト=ヴィッダーから真正直な返答が返って来たことで、ほくそ笑むことになる。
「何がおかしいんだ、てめぇっ!」
「いや失礼。まさか、真っ当に答えてくれるなど思いもしませんでしたノデ。いやはや、コッシローが日常的にキミに幻惑術をかけていたとは。しかもキミをおちょくるためだけに」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーがただの馬鹿だと結論づける。馬鹿ほど幻惑術に対しての抵抗力は低い。しかしながら、コッシロー=ネヅ曰く、レオナルト=ヴィッダーは北ラメリアで1、2位を争う馬鹿だと吹聴していたことを思い出す。馬鹿も10周すれば、とてつもない馬鹿となり、翻って、自分の繰り出す高等魔術に対する抵抗力を手に入れたのだと推測するに至る。
「キミのような馬鹿には初歩的な幻惑術のほうが効果が高いというわけデスカ。よろしい。手合わせしようではナイカ」
ジュレミエルは余裕を取り戻し、先ほどのように右手の人差し指をチョイチョイと動かし、レオナルト=ヴィッダーを挑発してみせる。とある一点に意識を集中させることで、レオナルト=ヴィッダーが幻惑術にかかりやすくなるように仕向ける。
ジュレミエルはこの初歩的な幻惑術と産まれながらに持っている体術をもってして、レオナルト=ヴィッダーを圧倒してみせようとする。レオナルト=ヴィッダーは左腕を大きく振りかぶり、今からお前をぶん殴るという姿勢をジュレミエルに見せつける。安い挑発だとジュレミエルは思う。
レオナルト=ヴィッダーは考えも無しに左腕を大きく振りかぶり、口の端をニヤリと歪ませるジュレミエルの右頬へ、左の拳を叩きこもうとする。レオナルト=ヴィッダーは大きく右足を踏み込み、見え見えの左フックをジュレミエルにお見舞いしようとする。ジュレミエルはますます口の端を歪ませながら、レオナルト=ヴィッダーの左の拳に右手の人差し指を添えようとする。
ジュレミエルの誤算はここから始まることになる。レオナルト=ヴィッダーは足がもつれ、グラっと体勢を大きく崩す。さらには斜め前へと倒れ込みながら、グルっと一回転し、なんとジュレミエルの頭頂部にレオナルト=ヴィッダーの左の踵がぶち込まれることになる。
「ぐあぁぁぁ!」
ジュレミエルは頭頂部を両手で抑えながら、その場で膝から崩れ落ちることになる。レオナルト=ヴィッダーは今、自分が何をしたのかわかっていないという表情で、甲板上に寝っ転がっていた。レオナルト=ヴィッダーがわかることと言えば、何か理由はわからないがジュレミエルが非常に痛がっているという事実である。
ここで畳みかけねば、いつそれをするのだと言わんばかりにレオナルト=ヴィッダーはジュレミエルとの距離を詰める。すぐに立ち上がったレオナルト=ヴィッダーはジュレミエルの銀色の髪の毛を掴もうと右手を伸ばす。ジュレミエルは髪の毛を掴まれれば、レオナルト=ヴィッダーのやりたい放題になってしまうと感じ、レオナルト=ヴィッダーに向けて、右手を大きく開いて突き出す。
ジュレミエルは一瞬でも良いから、レオナルト=ヴィッダーの動きを止めるためにレオナルト=ヴィッダーの視線を塞ぐために右手を力いっぱい開き、手のひらへと注目させようとした。そうすることで、レオナルト=ヴィッダーの右膝がガクッと折れて、レオナルト=ヴィッダーはその場で姿勢を崩す。
「うぐぉぉぉ!」
ジュレミエルにとって誤算だったことは、力が抜け落ちてしまったレオナルト=ヴィッダーが右肘をジュレミエルの頭頂部に添えたまま、崩れ落ちたことである。ジュレミエルは頭部にレオナルト=ヴィッダーの体重を乗せられながら、顎から甲板へと叩きつけられることになる。ジュレミエルは顎の骨が外れてしまったかのような衝撃を受け、甲板上をゴロゴロと左右に転げ回ることになる。
「貴様っ! わざとやっているノカ!?」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーを叱責するが、レオナルト=ヴィッダーは頭を強めに左右に振り、意識を保とうとしている。ジュレミエルは愕然とする他無かった。今の2撃はレオナルト=ヴィッダーが計算してやったことではないことは一目瞭然であった。レオナルト=ヴィッダーは自分が繰り出す幻惑術にギリギリ耐えているだけなのである。
だからこそ、レオナルト=ヴィッダーは自身を思うように動かすことが出来ない。そして、そうであるがゆえに、ジュレミエルが思い描く戦闘とはならず、ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーの奇策に近い形の攻撃を受けることになる。
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーの攻撃方法があるモノに近いことを無理やりにでも認めざるをえなくなる。レオナルト=ヴィッダーが繰り出している攻撃方法とは『酸い拳』であった。酔えば酔うほど、動きに統一性をもたらすことが出来ず、本人ですら預かり知らぬ攻撃を生み出すことになる。
ジュレミエルは幻惑術でレオナルト=ヴィッダーを嵌めたはずが、レオナルト=ヴィッダーは『酸い拳』で対応してきたことになる。いくら、自分への攻撃が当たったことがまぐれだとしても、2度も続けて、同じようなことが起きるはずがない。そして、3度目の正直だとばかりにジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーに初歩的な幻惑術を行う。
ジュレミエルは右手にレオナルト=ヴィッダーの意識を集中させた次の瞬間、親指と中指でパチンッ! と軽快な音を立ててみせる。自分の身体に執拗に纏わりついてこようとするレオナルト=ヴィッダーの意識を天界へと飛ばしてみせる。そして、ジュレミエルが危惧していた通りのことが起きる。
「ぬぐぉぉぉ!!」
レオナルト=ヴィッダーが背中から甲板へとバターンッ! と倒れたと思いきや、その衝撃を右足に乗せて、上へと振り上げる。ジュレミエルは股間を思いっ切り蹴り上げられる。天界の3本の指に入ると言われる美男子とも言えども、股間には子宝袋と竿が付いており、ジュレミエルは股間を両手で抑えながら、その場で崩れ落ちることなる。
「貴様っ! わざとでは無いと、こちらも認識しているが、度が過ぎてイルゾォォォ」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーに向かって吼えるが、その姿は無様と言って過言では無かった。ジュレミエルは右手で股間を抑えつつ、腹の奥へと入り込んだ子宝玉が袋の方に戻すために、左手でドンドンッ! と強めに腰を叩く。ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーを呪い殺さんとするギラギラとした視線で睨みつける。
「いってって……。しこたま頭を打っちまった。って、あれ? てめえはなんでそんな間抜けな恰好をしてんだ?」
「つかぬことをお聞きしますが、キミは幻惑術の抵抗力を高める訓練を積んでいたりするノカ?」
ジュレミエルは返事など期待せずに、レオナルト=ヴィッダーに質問してみせる。しかし、意外なことにレオナルト=ヴィッダーから真正直な返答が返って来たことで、ほくそ笑むことになる。
「何がおかしいんだ、てめぇっ!」
「いや失礼。まさか、真っ当に答えてくれるなど思いもしませんでしたノデ。いやはや、コッシローが日常的にキミに幻惑術をかけていたとは。しかもキミをおちょくるためだけに」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーがただの馬鹿だと結論づける。馬鹿ほど幻惑術に対しての抵抗力は低い。しかしながら、コッシロー=ネヅ曰く、レオナルト=ヴィッダーは北ラメリアで1、2位を争う馬鹿だと吹聴していたことを思い出す。馬鹿も10周すれば、とてつもない馬鹿となり、翻って、自分の繰り出す高等魔術に対する抵抗力を手に入れたのだと推測するに至る。
「キミのような馬鹿には初歩的な幻惑術のほうが効果が高いというわけデスカ。よろしい。手合わせしようではナイカ」
ジュレミエルは余裕を取り戻し、先ほどのように右手の人差し指をチョイチョイと動かし、レオナルト=ヴィッダーを挑発してみせる。とある一点に意識を集中させることで、レオナルト=ヴィッダーが幻惑術にかかりやすくなるように仕向ける。
ジュレミエルはこの初歩的な幻惑術と産まれながらに持っている体術をもってして、レオナルト=ヴィッダーを圧倒してみせようとする。レオナルト=ヴィッダーは左腕を大きく振りかぶり、今からお前をぶん殴るという姿勢をジュレミエルに見せつける。安い挑発だとジュレミエルは思う。
レオナルト=ヴィッダーは考えも無しに左腕を大きく振りかぶり、口の端をニヤリと歪ませるジュレミエルの右頬へ、左の拳を叩きこもうとする。レオナルト=ヴィッダーは大きく右足を踏み込み、見え見えの左フックをジュレミエルにお見舞いしようとする。ジュレミエルはますます口の端を歪ませながら、レオナルト=ヴィッダーの左の拳に右手の人差し指を添えようとする。
ジュレミエルの誤算はここから始まることになる。レオナルト=ヴィッダーは足がもつれ、グラっと体勢を大きく崩す。さらには斜め前へと倒れ込みながら、グルっと一回転し、なんとジュレミエルの頭頂部にレオナルト=ヴィッダーの左の踵がぶち込まれることになる。
「ぐあぁぁぁ!」
ジュレミエルは頭頂部を両手で抑えながら、その場で膝から崩れ落ちることになる。レオナルト=ヴィッダーは今、自分が何をしたのかわかっていないという表情で、甲板上に寝っ転がっていた。レオナルト=ヴィッダーがわかることと言えば、何か理由はわからないがジュレミエルが非常に痛がっているという事実である。
ここで畳みかけねば、いつそれをするのだと言わんばかりにレオナルト=ヴィッダーはジュレミエルとの距離を詰める。すぐに立ち上がったレオナルト=ヴィッダーはジュレミエルの銀色の髪の毛を掴もうと右手を伸ばす。ジュレミエルは髪の毛を掴まれれば、レオナルト=ヴィッダーのやりたい放題になってしまうと感じ、レオナルト=ヴィッダーに向けて、右手を大きく開いて突き出す。
ジュレミエルは一瞬でも良いから、レオナルト=ヴィッダーの動きを止めるためにレオナルト=ヴィッダーの視線を塞ぐために右手を力いっぱい開き、手のひらへと注目させようとした。そうすることで、レオナルト=ヴィッダーの右膝がガクッと折れて、レオナルト=ヴィッダーはその場で姿勢を崩す。
「うぐぉぉぉ!」
ジュレミエルにとって誤算だったことは、力が抜け落ちてしまったレオナルト=ヴィッダーが右肘をジュレミエルの頭頂部に添えたまま、崩れ落ちたことである。ジュレミエルは頭部にレオナルト=ヴィッダーの体重を乗せられながら、顎から甲板へと叩きつけられることになる。ジュレミエルは顎の骨が外れてしまったかのような衝撃を受け、甲板上をゴロゴロと左右に転げ回ることになる。
「貴様っ! わざとやっているノカ!?」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーを叱責するが、レオナルト=ヴィッダーは頭を強めに左右に振り、意識を保とうとしている。ジュレミエルは愕然とする他無かった。今の2撃はレオナルト=ヴィッダーが計算してやったことではないことは一目瞭然であった。レオナルト=ヴィッダーは自分が繰り出す幻惑術にギリギリ耐えているだけなのである。
だからこそ、レオナルト=ヴィッダーは自身を思うように動かすことが出来ない。そして、そうであるがゆえに、ジュレミエルが思い描く戦闘とはならず、ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーの奇策に近い形の攻撃を受けることになる。
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーの攻撃方法があるモノに近いことを無理やりにでも認めざるをえなくなる。レオナルト=ヴィッダーが繰り出している攻撃方法とは『酸い拳』であった。酔えば酔うほど、動きに統一性をもたらすことが出来ず、本人ですら預かり知らぬ攻撃を生み出すことになる。
ジュレミエルは幻惑術でレオナルト=ヴィッダーを嵌めたはずが、レオナルト=ヴィッダーは『酸い拳』で対応してきたことになる。いくら、自分への攻撃が当たったことがまぐれだとしても、2度も続けて、同じようなことが起きるはずがない。そして、3度目の正直だとばかりにジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーに初歩的な幻惑術を行う。
ジュレミエルは右手にレオナルト=ヴィッダーの意識を集中させた次の瞬間、親指と中指でパチンッ! と軽快な音を立ててみせる。自分の身体に執拗に纏わりついてこようとするレオナルト=ヴィッダーの意識を天界へと飛ばしてみせる。そして、ジュレミエルが危惧していた通りのことが起きる。
「ぬぐぉぉぉ!!」
レオナルト=ヴィッダーが背中から甲板へとバターンッ! と倒れたと思いきや、その衝撃を右足に乗せて、上へと振り上げる。ジュレミエルは股間を思いっ切り蹴り上げられる。天界の3本の指に入ると言われる美男子とも言えども、股間には子宝袋と竿が付いており、ジュレミエルは股間を両手で抑えながら、その場で崩れ落ちることなる。
「貴様っ! わざとでは無いと、こちらも認識しているが、度が過ぎてイルゾォォォ」
ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーに向かって吼えるが、その姿は無様と言って過言では無かった。ジュレミエルは右手で股間を抑えつつ、腹の奥へと入り込んだ子宝玉が袋の方に戻すために、左手でドンドンッ! と強めに腰を叩く。ジュレミエルはレオナルト=ヴィッダーを呪い殺さんとするギラギラとした視線で睨みつける。
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