30 / 81
第3章:コッシローとの邂逅
7:承諾
しおりを挟む
苦悩が顔の表情としてあからさまに出てしまっているロージーを追い詰めるようにさらにコッシローはからし色の双眸を鋭く光らせて続けて言いのける。
「キミのお父上を救う機会がついに訪れたのでッチュウ。ロージーちゃんは無実の罪を被せられたお父上を救いたいと思わないのでッチュウ?」
(汚いっ。本当に汚いわねっ。体毛は真っ白な癖に、腹の中はドブネズミのように汚いやつだわっ!)
ロージーはギリギリと歯ぎしりする。しかしながら、怒りの感情を腹に全て飲み込むかのように、顎から力を抜き、スーハースーハーと二度、深呼吸をする。そして、背筋をピンっと伸ばし、蒼穹の双眸でコッシローをまっすぐに見つめる。彼女の表情からは怒りは既に消えていた。しかし、能面のような無表情というわけではなく、何かを成し遂げようという意思が籠った表情であった。
「わかったわ……。コッシロー、あなたの思惑に乗せられるのは癪に障るけど、あなたの提案を承諾するわ。クロードがよくわかってないって顔をしているから、追加で説明をお願いするわ」
「えっ!? 俺はただ、ロージーとカルドリアさまの件だから、あまり口を出さない方が良いと思って……」
クロードが会話に混ざってこなかったことに関して弁明を始めようとするのだが、ロージーは右手で『それは良いから、コッシローの話を聞きましょう?』とジェスチャーでクロードの言いをストップさせる。クロードはむむむと唸りながら、浮いた腰をドスンと椅子に置くのであった。
そんな2人を見ながら、コッシローはやはり可笑しそうにちゅっちゅっちゅと口ずさむ。
「クロードはなかなかに見どころがある忠犬なのでッチュウ。というわけで、サービスとして、ボクたちの計画の一端を教えるのでッチュウ」
(ボクたち? 計画の一端? わたしのパパを救うのはほんのついでということかしら? コッシローとハジュンさまが宰相派を宮中から一掃する計画は、まだまだほんの手始めってことを指している?)
ロージーはコッシローの一言から色々と推測を立てるが、如何せん、ロージーはヤオヨロズ=ゴッドの手のひらで踊らされている状況なのだ。そんなロージーがコッシローの言う計画の全体像など掴めるわけがない。
「宮中で宰相派が大事件を起こそうとしているんでッチュウけど、まあ、何をするかはハジュンの小僧に説明してもらったほうが良いでッチュウね。ここでそれを口にするのは危険を伴うでッチュウし。肝心なのは、ロージーちゃんとクロードにその大事件を解決するための補助を頼みたいことでッチュウ」
「ああ、なるほど……。やっと、カルドリアさまや俺たちと、その宮中での大事件とがどう繋がるかが理解できたわ。要は帝の前で、俺たちが事件を起こした宰相派をとっ捕まえて、それの功で、カルドリアさまの罪を赦してもらうわけだな?」
「やっとわかったでッチュウか。ロージーちゃんとは違って、クロードは察しが悪いでッチュウね……。武人は筋肉に血と栄養を取られる分、脳みそに栄養が回らないから仕方がないかもしれないでッチュウね?」
こ、この野郎! そのキレイな顔を右こぶしでぶっとばしてやろうか! とクロードは右こぶしを振り上げそうになるのだが、ロージーがまたしても左手を突き出してクロードを静止させるのであった。
振り上げた右こぶしをクロードは、ふうううとため息をつきながら、黙って降ろすことになる。そして、コッシローがまたもや、やらしく、ちゅっちゅっちゅと笑うのである。いちいち挑発しないと気がすまねえのか、こいつは! と思うクロードであるが、ロージーがよしなさいと視線を飛ばしてくるので大人しくすることになる。
「話はわかったわ。それで? わたしたちはいったい、これからどうすればいいわけ? わたしとしては、3日後から町や村で開かれる収穫祭で、生花売りをして日銭を稼ぎたいんだけど?」
ロージーが顎をクイッと横に向けて、花畑にて咲き誇る花たちを見るようにコッシローを促すのであった。
「宮中で大事件が起きるのはこれから約3か月後でッチュウ。だから、収穫祭で生花を売ってきても問題はないでッチュウ。でも、ハジュンの小僧の屋敷で色々と準備をしなければならないから、収穫祭が終わったら、浮島に昇ってきてほしいでッチュウ」
「浮島に昇ってきてほしいと言われてもね……。わたしは流刑の身よ? 大神殿で転移門を使わせてもらえるとは到底、思えないけど?」
「そこは、ボクに任せてほしいでッチュウ。えっと……。収穫祭はいつ頃終わるでッチュウ? ボクがまたここにやってくるでッチュウ。その時までにボクが大神殿の高司祭と話をつけておくでッチュウ」
(高司祭と話をつける? コッシローはネズミのくせに存外に顔が広いのね……。こんなヒトを挑発するようなネズミがあたりかまわず誰とでも友好関係を結んでいるなんて、到底、想像もつかないんだけど?)
とロージーは色々考えてしまうが、そこは自分の領分ではないので、コッシローに任せることにする。何かトラブルが起きても、その責任の全てをコッシローに押し付けて、高司祭に串刺しからの火炙りの刑にでもあえば良いのよと、なかなかに物騒なことを考えるロージーであった。
「じゃあ、収穫祭が始まるのが3日後で、それが終わるのが10日後前後かしら? うーーーん。クロに生花を売ってきてもらって、その間に菊、竜胆、秋桜の育成に集中しようかしら。でも、それでも開花までにもっていけるか難しいわね……」
ロージーが花を育成する魔術を駆使して育てた秋の花は萩、ススキ、葛、女郎花、藤袴であった。これらは満開寸前まで来ている。そして撫子と桔梗は予定としては2日後に開花となっている。
しかし、これは、あと2日、良い天気であればということだ。下手に大雨が降ったりすれば、せっかく咲き誇った花たちはその花びらを無残に散らしてしまう。そして、気温も大切だ。火の国:イズモは9月から10月において、気温が上下しやすい。
そのため、火の国:イズモでの季節の変わり目における生花の育成はその道のプロでも難しい。だからこそ、そこに商売の契機があるのだが……。
ロージーは花の育成を促す魔術を母親のオルタンシア=オベールから受け継いでいた。その魔術により、花の育成が難しいと言われている火の国:イズモで、他者よりは有利に花の育成が出来るのであった。
「キミのお父上を救う機会がついに訪れたのでッチュウ。ロージーちゃんは無実の罪を被せられたお父上を救いたいと思わないのでッチュウ?」
(汚いっ。本当に汚いわねっ。体毛は真っ白な癖に、腹の中はドブネズミのように汚いやつだわっ!)
ロージーはギリギリと歯ぎしりする。しかしながら、怒りの感情を腹に全て飲み込むかのように、顎から力を抜き、スーハースーハーと二度、深呼吸をする。そして、背筋をピンっと伸ばし、蒼穹の双眸でコッシローをまっすぐに見つめる。彼女の表情からは怒りは既に消えていた。しかし、能面のような無表情というわけではなく、何かを成し遂げようという意思が籠った表情であった。
「わかったわ……。コッシロー、あなたの思惑に乗せられるのは癪に障るけど、あなたの提案を承諾するわ。クロードがよくわかってないって顔をしているから、追加で説明をお願いするわ」
「えっ!? 俺はただ、ロージーとカルドリアさまの件だから、あまり口を出さない方が良いと思って……」
クロードが会話に混ざってこなかったことに関して弁明を始めようとするのだが、ロージーは右手で『それは良いから、コッシローの話を聞きましょう?』とジェスチャーでクロードの言いをストップさせる。クロードはむむむと唸りながら、浮いた腰をドスンと椅子に置くのであった。
そんな2人を見ながら、コッシローはやはり可笑しそうにちゅっちゅっちゅと口ずさむ。
「クロードはなかなかに見どころがある忠犬なのでッチュウ。というわけで、サービスとして、ボクたちの計画の一端を教えるのでッチュウ」
(ボクたち? 計画の一端? わたしのパパを救うのはほんのついでということかしら? コッシローとハジュンさまが宰相派を宮中から一掃する計画は、まだまだほんの手始めってことを指している?)
ロージーはコッシローの一言から色々と推測を立てるが、如何せん、ロージーはヤオヨロズ=ゴッドの手のひらで踊らされている状況なのだ。そんなロージーがコッシローの言う計画の全体像など掴めるわけがない。
「宮中で宰相派が大事件を起こそうとしているんでッチュウけど、まあ、何をするかはハジュンの小僧に説明してもらったほうが良いでッチュウね。ここでそれを口にするのは危険を伴うでッチュウし。肝心なのは、ロージーちゃんとクロードにその大事件を解決するための補助を頼みたいことでッチュウ」
「ああ、なるほど……。やっと、カルドリアさまや俺たちと、その宮中での大事件とがどう繋がるかが理解できたわ。要は帝の前で、俺たちが事件を起こした宰相派をとっ捕まえて、それの功で、カルドリアさまの罪を赦してもらうわけだな?」
「やっとわかったでッチュウか。ロージーちゃんとは違って、クロードは察しが悪いでッチュウね……。武人は筋肉に血と栄養を取られる分、脳みそに栄養が回らないから仕方がないかもしれないでッチュウね?」
こ、この野郎! そのキレイな顔を右こぶしでぶっとばしてやろうか! とクロードは右こぶしを振り上げそうになるのだが、ロージーがまたしても左手を突き出してクロードを静止させるのであった。
振り上げた右こぶしをクロードは、ふうううとため息をつきながら、黙って降ろすことになる。そして、コッシローがまたもや、やらしく、ちゅっちゅっちゅと笑うのである。いちいち挑発しないと気がすまねえのか、こいつは! と思うクロードであるが、ロージーがよしなさいと視線を飛ばしてくるので大人しくすることになる。
「話はわかったわ。それで? わたしたちはいったい、これからどうすればいいわけ? わたしとしては、3日後から町や村で開かれる収穫祭で、生花売りをして日銭を稼ぎたいんだけど?」
ロージーが顎をクイッと横に向けて、花畑にて咲き誇る花たちを見るようにコッシローを促すのであった。
「宮中で大事件が起きるのはこれから約3か月後でッチュウ。だから、収穫祭で生花を売ってきても問題はないでッチュウ。でも、ハジュンの小僧の屋敷で色々と準備をしなければならないから、収穫祭が終わったら、浮島に昇ってきてほしいでッチュウ」
「浮島に昇ってきてほしいと言われてもね……。わたしは流刑の身よ? 大神殿で転移門を使わせてもらえるとは到底、思えないけど?」
「そこは、ボクに任せてほしいでッチュウ。えっと……。収穫祭はいつ頃終わるでッチュウ? ボクがまたここにやってくるでッチュウ。その時までにボクが大神殿の高司祭と話をつけておくでッチュウ」
(高司祭と話をつける? コッシローはネズミのくせに存外に顔が広いのね……。こんなヒトを挑発するようなネズミがあたりかまわず誰とでも友好関係を結んでいるなんて、到底、想像もつかないんだけど?)
とロージーは色々考えてしまうが、そこは自分の領分ではないので、コッシローに任せることにする。何かトラブルが起きても、その責任の全てをコッシローに押し付けて、高司祭に串刺しからの火炙りの刑にでもあえば良いのよと、なかなかに物騒なことを考えるロージーであった。
「じゃあ、収穫祭が始まるのが3日後で、それが終わるのが10日後前後かしら? うーーーん。クロに生花を売ってきてもらって、その間に菊、竜胆、秋桜の育成に集中しようかしら。でも、それでも開花までにもっていけるか難しいわね……」
ロージーが花を育成する魔術を駆使して育てた秋の花は萩、ススキ、葛、女郎花、藤袴であった。これらは満開寸前まで来ている。そして撫子と桔梗は予定としては2日後に開花となっている。
しかし、これは、あと2日、良い天気であればということだ。下手に大雨が降ったりすれば、せっかく咲き誇った花たちはその花びらを無残に散らしてしまう。そして、気温も大切だ。火の国:イズモは9月から10月において、気温が上下しやすい。
そのため、火の国:イズモでの季節の変わり目における生花の育成はその道のプロでも難しい。だからこそ、そこに商売の契機があるのだが……。
ロージーは花の育成を促す魔術を母親のオルタンシア=オベールから受け継いでいた。その魔術により、花の育成が難しいと言われている火の国:イズモで、他者よりは有利に花の育成が出来るのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる