薔薇の令嬢と守護騎士の福音歌(ゴスペル)

ももちく

文字の大きさ
51 / 81
第5章:ハジュン=ド・レイ

5:パイプ煙草

しおりを挟む
 箱馬車を降りたロージーとクロードはセイ=ゲンドーの案内に従い、いよいよハジュン=ド・レイの屋敷に足を踏み入れることになる。その屋敷は外から見れば赤や白、そして黒色のレンガが積み立てられた比較的新しい建築方法の屋敷であった。

 しかし彼女たちが一歩、その屋敷に踏み入れるとだ……

「うわっ……。白を基調とした玄関エントランスホールのところどころを金箔で飾っているわ……。しかも天井からぶら下がっているのって最新式の照明灯シャンデリアよね?」

「おゥ? ロージーのお嬢ちゃん。眼のつけどころが良いねェ? あれは火の国:イズモの職人たちに無理を言って、付け替えたものらしいよォ?」

 ロージーは一軒家の暮らしで時間が空いた時にはよく書物に眼を通していた。その書物の中には屋敷の家具を収録したカタログも含まれていた。なんといっても、そういうカタログ類は訪問販売のニンゲンが無料ただでくれるモノである。

 質素な生活を強いられていたロージーたちにとって、無料ただでもらえる書物はありがたいモノであった。クロードはもっぱら、近くの町の総合食品店のチラシをじっくり読む役目ではあったが……。

 とにもかくにも、ハジュンの屋敷内は白と金を基調として装飾が施されていた。白い壁、白い柱、白い階段。そこに金色の糸で刺繍された赤の絨毯がしかれることにより、絨毯の模様が一層、映えるように工夫されている。

 この絨毯を土足で踏んでいいものなのかと躊躇せざるをえないロージーとクロードであるが、セイ=ゲンドーはたいして気にもせずに玄関エントランス・ホールの中を土足でずかずかと歩いていく。そして、ロージーたちに遅れないようにちゃんとついてきてくれよォ? と声をかける。

 ロージーたちは階段を登っていこうとしているセイ=ゲンドーに少し足早になって、黙ってついていくことにする。彼女らが登って行こうとする階段の手すりは金箔が押されており、べたべたと触っていいのかと戸惑ってしまうのだが、セイ=ゲンドーはその金箔押しの手すりを左手でゴンゴンッと叩いていくのである。

(なんだか、セイさまに全てを見透かされている気分だわ……。絨毯の上は土足でずかずか歩いていくし、階段の手すりを荒っぽく扱っているし。これはわたしたちに気にするなって言いたいことなんだろうけど……)

 ロージーは少し迷った後、階段の手すりを左手でしっかりと掴み、やや急こう配である階段を登っていくのであった。セイ=ゲンドーは少しだけ後方を確認し、ちょっとだけニヤリと笑みを浮かべて、また前を向いて階段を登っていくのであった。

 セイ=ゲンドーに連れられて、ロージーとクロードが屋敷の2階にたどり着くと、白と金で統一されていた1階とは対照的に、赤と黒を基調としたモノに変わっていたのである。

 ロージーとクロードは何故、1階部分と2階部分でこれほどまでに変えているのだろうかと不思議に思っていると、それを察したセイ=ゲンドーが口を開く。

「1階はお客さま用に『昼』をイメージした色調にしているって話だよォ? んで、2階はハジュンさまのプライベート空間だから、ヴァンパイア族らしく『夜』をイメージしているってわけだァ。まあ、僕ちゃん、そんなところに金をかけるんじゃないって一喝してやりたい気分なんだけどねェ?」

「ちゅっちゅっちゅ。テーマを持つのは悪いことではないでッチュウけど、5~6年ごとに屋敷の色調を替えるのはやめて良いと思うでッチュウけどね?」

「それだけ金を持っているってあかしだけどねェ? ハジュンさまは言っていたぜェ? 『金は持っているだけでは駄目なんです。庶民のために上がバンバン、金を落とさないと、富が分配されなくなってしまいますからね?』ってさァ。何を言ってんだコイツって僕ちゃんは思っちゃうんだけどォ?」

 ロージーとクロードは、セイ=ゲンドーの軽口に対して、はぁ……としか言いようがなかった。確かに富を持っているモノが蓄財ばかりすれば、金の流れは滞ることは確かだが、だからと言って、5~6年に一度、屋敷全体の色調を一変させるのもどうなのだろうかと思わざるをえないのであった。

(ハジュンさまって、わたしにはよくわからない矜持を持っているのかしら? だけど……。わたしには金持ちの道楽のような気がしてならないんだけど……)

 ロージーは、うーーーん? と悩みながら歩を進めることになる。やがて、セイ=ゲンドーはとある部屋の前で足を止めて、コンコンッと軽快にその部屋のドアをノックするのであった。

「おーーーい、ハジュンさま。例の2人を連れてきたんだよォ? 中に入って良いかィ? まあ、嫌だと言われても勝手に入っちゃうんだけどねェ?」

 セイ=ゲンドーがそう言うと、部屋の主に確認も取らずにドアのノブをガチャリと回して、ドアを開いてしまうのである。ロージーとクロードはそんなことをしても良いのか!? と驚いてしまうが、セイ=ゲンドーはドアを開いたあと、部屋の中にズカズカと入っていってしまう。

 ロージーとクロードは互いの顔を一度、見合ったあと、意を決して、セイ=ゲンドーが入っていった部屋に緊張を伴いながら入っていくのであった。2人が入った部屋はどうやら、執務室のようで、装飾の施された本棚が壁にくっついた状態でいくつか並び、大きな仕事用の机がドア側から見て、真正面に配置されていたのである。

 その仕事机の椅子に座っているのがヴァンパイア族のハジュン=ド・レイであった。彼は木製のパイプを口に咥えて、そのパイプの先から紫色の煙をたゆされていた。

 ハジュンはそのパイプを右手に取り、いきなりゲホッゲホッと咳込むのである。

「あーーー。ちょっと格好つけて、ローズマリーくんとクロードくんを出迎えようとしたのですが、パイプの煙を誤って吸い込んでしまって、咳込んでしまいました……。だいたい、何が美味しくて、皆さんはパイプで煙草を吸うんでしょうね? 馬鹿か何かなんですか?」

(えっと……。何かよくわからないけど、煙草に対して八つ当たりしはじめたんだけど……? てか、今、恰好つけてって言ってたわよね? もしかして、吸えもしない煙草を吸ってたわけなの!?)

 ロージーは、このヒト、いったい何をしているのかしら? と不思議に思う気持ちでいっぱいである。ちょっと背伸びをしたい年頃の男性が煙草に手を出して、激しく吸い込むことを、眼の前のれっきとした大人の男性がやっているのである。

 しかも、どうにも煙草が合わないのか、未だにハジュンは涙目になりながらゲホンゲホンッ! と咳込むのである。ロージーに一抹の不安がよぎるのは仕方なかったのかもしれない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...