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第6章:宮廷騒乱
3:暗殺者
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宮廷の明かりは30分を経過した後も、未だ復旧していなかった。宮廷内の各地で悲鳴と怒号が響き渡り、剣戟の音がそこら中で響き渡っていた。そして、剣戟の音がひとつ響くと共に、宮廷内には血の匂いが充満していくのである。
「各隊、炎の照らしを使用して、灯り代わりとせよっ! 帝に仇名す者たちを必ず討てっ!!」
ボサツ家の当主であるエヌル=ボサツが蒼色の金属鎧を着こんだ兵士たち20人に火の魔術を使うようにと命令を飛ばす。彼らはボサツ家に属する騎士団である。
(ハジュンめ……。帝の守りは任せたと言っていたが、宮廷内の明かりが全て消えるなぞ、言ってなかったではないかっ!)
エヌル=ボサツは苦虫を噛み潰した表情に変わっていた。それもそうだろう。ハジュン=ド・レイから前もって聞かされていた敵の人数がこちらの用意した兵士たちの2倍以上だった。しかも、それだけでなく宮廷内の照明のことごとくが落とされている状況で2倍の相手と戦わなければならないのだ。多勢に無勢とはまさにこのことである。
エヌル=ボサツは考える。このまま、陛下の自室に繋がる廊下を死守したところで、相手の人数に圧されて全滅してしまうのは時間の問題なのだ。それならばいっそ、自分の率いてきた部下を全て見殺しにして、自分だけは陛下の下に行き、陛下と共に落ち延びるしかないのでは?
エヌル=ボサツはこの思案を実行に移すべく、自分の部下たちに新たな命令を送る。
「おいっ。ここの守りは任せたぞっ! 自分は陛下の自室へと一足先に向かっておく! お前たちは自分たちの命を盾にしてでも時間を稼げっ!」
蒼色の鎧に身を包んだ兵士たちは、エヌル=ボサツに向かって、はっ! と力強く応える。彼らが対峙するのは菜の花色の金属鎧に身を包んだ兵士たちであった。菜の花色の鎧の兵士たちは土の魔術を使用して、石畳の廊下を引っぺがし、その正方形の石を次々と蒼色の鎧の兵士めがけて投げ飛ばしてくるのであった。
蒼色の鎧の兵士たちは次々と飛んでくる石を左手に持つ大きな長方形の金属盾で防ぐ。横一列に5人が並び、それが4列を成し、シヴァ帝の自室へ続く道を完全に塞ぐための壁となる。
「ぶひっ! ファランクスをこんな手狭な廊下で展開するとは思わなかったんだブヒッ!」
菜の花色の鎧の兵士50人を指揮していたのはオレンジ=フォゲット自身であった。彼女もまた、ナギッサ=フランダールの暗殺計画に加担していたのである。彼女もエヌル=ボサツと同様に歯がみしていた。宰相:ツナ=ヨッシーがナギッサ=フランダールの暗殺を担当し、オレンジ=フォゲットがシヴァ帝を捕らえる計画となっていたのだ。
ナギッサ=フランダールの暗殺計画だけでなく、シヴァ帝の身柄確保までもが妨害される事態に陥るなど、宰相派には予定外であった。
「ぶひっ! 宰相:ツナ=ヨッシーに報告するんだブヒッ! シヴァ帝の身柄確保に手間取っていると! 最悪、シヴァ帝の命の保証は出来ないと伝えてくるんだブヒッ!」
オレンジ=フォゲットは部下の騎士にそう告げる。その騎士は宰相が待つ政務室へとひた走るのであった。
「ぐぬぬ……。ハジュン=ド・レイめ……。どこまでマロの計画を知っていたのでおじゃる……」
政務室で矢継ぎ早に持たされる各地での報告を聞き、宰相:ツナ=ヨッシーは怒りに震えていた。このままではナギッサ=フランダールの暗殺はおろか、シヴァ帝の確保すら難しい状況に変わろうとしていた。どこで自分は間違ったのか。ツナ=ヨッシーは右手の親指の爪をガジガジとかじり、事態の進展に業を煮やしていたのである。
「……。そろそろ、我の出番であるか?」
政務室の一角にいきなり存在感を露わにする男が出現する。そこに今までいたはずなのに、一切、その存在を隠していたヴァンパイア族の男が。
「カ、カンタス……。貴様が動くというのでおじゃるか!?」
「左様……。このままでは計画の全てが海の泡のように消えるは必然。ならば、全てを殺し尽くしてくれるのである」
カンタスは有無を言わせぬ重圧を言葉に乗せて、ツナ=ヨッシーに言い放つ。ツナ=ヨッシーはカンタスに気圧されてごくりと唾を飲み込む。
(カンタスが動けば、確実にナギッサ=フランダールの命を散らすことは出来るのおじゃる……。しかし、こやつに任せれば、シヴァ帝の命までも……)
「……。早く決めろ。このまま、手をこまねいて、全てが失敗で終わるか、かろうじて失敗で終わるかを……」
ツナ=ヨッシーはボロボロになった右の親指の爪をさらにかじる。かじりすぎて、肉まで歯で噛むことになり、彼の親指からは血が流れ出る。その血を舌ですくいとり、チュパチュパと口の中に含み、ごくりと喉に通す。
「わかったのでおじゃる……。ただし、帝に危害を加えてはならないのでおじゃる!」
「……。承知したのである。では、行ってくるのである……」
カンタスがそう言うなり、彼の存在感が政務室からかき消える。まるで元からそこに居なかったが如くだ。
(恐ろしい奴なのでおじゃる、カンタス=ミケーン。ポメラニア帝国随一の暗殺者と裏社会で呼ばれているだけはあるのでおじゃる……。奴に任せておけば……。いやしかし……)
ツナ=ヨッシーは背に腹はかえらぬ状況に陥った今の状況に切歯扼腕となる。その怒りの矛先は全て、政敵であるハジュン=ド・レイに向かっていた。ハジュンはツナ=ヨッシーの策略のことごとくを防いできたニンゲン、いや、ヴァンパイアである。
そのハジュンという立ちはだかる強固な壁に穴を開けるためならば、暗殺者:カンタスに全てを預けることをもいとわぬとツナ=ヨッシーは考えたのである。
それが例え、自滅になることをツナ=ヨッシーは感じてはいたが、ことここに至って、彼は腹をくくるのであった……。
そして、ツナ=ヨッシーの一縷の望みは実を結ぶこととなる。
「……。御免。我の雇い主である頼みにより、貴殿の命をもらい受けに来たのである……」
ナギッサ=フランダールはハジュンの手により、宮廷のとある隠し部屋に匿われていた。ハジュンの息がかかった紅い鎧に身を包んだ兵士5人により、その隠し部屋の入り口は守られていた。
だが、その兵士たち5人はカンタスの存在に気づくことも無く、彼らの首級は全て石畳の床に転がることとなる。力なく倒れ込む紅い鎧の兵士たちはその場で崩れ落ち、首級の付け根から大量に血を噴き出していた。
その兵士たちの血が隠し部屋に流れ込み、隠し部屋の床は血の海と化していた。
「へへっ。失敗したッス。俺っちの暗殺計画を逆手にとるつもりが、こんな伏兵を用意されていたなんて……。ハジュンっち。力になれなくて申し訳ないッス……」
ザシュッグチュッブツンッという肉と骨を断つ音が隠し部屋に鈍く響く。そして、ナギッサ=フランダールの首級は彼の胴と切り離されたのであった。
「……。これでひとつ。さて、次は帝の首級なのである……」
彼の右手に持つ蝶の短刀が赤黒い血で染まり切っていたのであった。カンタスは血がしたたる蝶の短刀を舐めながら、不敵に笑っていた。
「各隊、炎の照らしを使用して、灯り代わりとせよっ! 帝に仇名す者たちを必ず討てっ!!」
ボサツ家の当主であるエヌル=ボサツが蒼色の金属鎧を着こんだ兵士たち20人に火の魔術を使うようにと命令を飛ばす。彼らはボサツ家に属する騎士団である。
(ハジュンめ……。帝の守りは任せたと言っていたが、宮廷内の明かりが全て消えるなぞ、言ってなかったではないかっ!)
エヌル=ボサツは苦虫を噛み潰した表情に変わっていた。それもそうだろう。ハジュン=ド・レイから前もって聞かされていた敵の人数がこちらの用意した兵士たちの2倍以上だった。しかも、それだけでなく宮廷内の照明のことごとくが落とされている状況で2倍の相手と戦わなければならないのだ。多勢に無勢とはまさにこのことである。
エヌル=ボサツは考える。このまま、陛下の自室に繋がる廊下を死守したところで、相手の人数に圧されて全滅してしまうのは時間の問題なのだ。それならばいっそ、自分の率いてきた部下を全て見殺しにして、自分だけは陛下の下に行き、陛下と共に落ち延びるしかないのでは?
エヌル=ボサツはこの思案を実行に移すべく、自分の部下たちに新たな命令を送る。
「おいっ。ここの守りは任せたぞっ! 自分は陛下の自室へと一足先に向かっておく! お前たちは自分たちの命を盾にしてでも時間を稼げっ!」
蒼色の鎧に身を包んだ兵士たちは、エヌル=ボサツに向かって、はっ! と力強く応える。彼らが対峙するのは菜の花色の金属鎧に身を包んだ兵士たちであった。菜の花色の鎧の兵士たちは土の魔術を使用して、石畳の廊下を引っぺがし、その正方形の石を次々と蒼色の鎧の兵士めがけて投げ飛ばしてくるのであった。
蒼色の鎧の兵士たちは次々と飛んでくる石を左手に持つ大きな長方形の金属盾で防ぐ。横一列に5人が並び、それが4列を成し、シヴァ帝の自室へ続く道を完全に塞ぐための壁となる。
「ぶひっ! ファランクスをこんな手狭な廊下で展開するとは思わなかったんだブヒッ!」
菜の花色の鎧の兵士50人を指揮していたのはオレンジ=フォゲット自身であった。彼女もまた、ナギッサ=フランダールの暗殺計画に加担していたのである。彼女もエヌル=ボサツと同様に歯がみしていた。宰相:ツナ=ヨッシーがナギッサ=フランダールの暗殺を担当し、オレンジ=フォゲットがシヴァ帝を捕らえる計画となっていたのだ。
ナギッサ=フランダールの暗殺計画だけでなく、シヴァ帝の身柄確保までもが妨害される事態に陥るなど、宰相派には予定外であった。
「ぶひっ! 宰相:ツナ=ヨッシーに報告するんだブヒッ! シヴァ帝の身柄確保に手間取っていると! 最悪、シヴァ帝の命の保証は出来ないと伝えてくるんだブヒッ!」
オレンジ=フォゲットは部下の騎士にそう告げる。その騎士は宰相が待つ政務室へとひた走るのであった。
「ぐぬぬ……。ハジュン=ド・レイめ……。どこまでマロの計画を知っていたのでおじゃる……」
政務室で矢継ぎ早に持たされる各地での報告を聞き、宰相:ツナ=ヨッシーは怒りに震えていた。このままではナギッサ=フランダールの暗殺はおろか、シヴァ帝の確保すら難しい状況に変わろうとしていた。どこで自分は間違ったのか。ツナ=ヨッシーは右手の親指の爪をガジガジとかじり、事態の進展に業を煮やしていたのである。
「……。そろそろ、我の出番であるか?」
政務室の一角にいきなり存在感を露わにする男が出現する。そこに今までいたはずなのに、一切、その存在を隠していたヴァンパイア族の男が。
「カ、カンタス……。貴様が動くというのでおじゃるか!?」
「左様……。このままでは計画の全てが海の泡のように消えるは必然。ならば、全てを殺し尽くしてくれるのである」
カンタスは有無を言わせぬ重圧を言葉に乗せて、ツナ=ヨッシーに言い放つ。ツナ=ヨッシーはカンタスに気圧されてごくりと唾を飲み込む。
(カンタスが動けば、確実にナギッサ=フランダールの命を散らすことは出来るのおじゃる……。しかし、こやつに任せれば、シヴァ帝の命までも……)
「……。早く決めろ。このまま、手をこまねいて、全てが失敗で終わるか、かろうじて失敗で終わるかを……」
ツナ=ヨッシーはボロボロになった右の親指の爪をさらにかじる。かじりすぎて、肉まで歯で噛むことになり、彼の親指からは血が流れ出る。その血を舌ですくいとり、チュパチュパと口の中に含み、ごくりと喉に通す。
「わかったのでおじゃる……。ただし、帝に危害を加えてはならないのでおじゃる!」
「……。承知したのである。では、行ってくるのである……」
カンタスがそう言うなり、彼の存在感が政務室からかき消える。まるで元からそこに居なかったが如くだ。
(恐ろしい奴なのでおじゃる、カンタス=ミケーン。ポメラニア帝国随一の暗殺者と裏社会で呼ばれているだけはあるのでおじゃる……。奴に任せておけば……。いやしかし……)
ツナ=ヨッシーは背に腹はかえらぬ状況に陥った今の状況に切歯扼腕となる。その怒りの矛先は全て、政敵であるハジュン=ド・レイに向かっていた。ハジュンはツナ=ヨッシーの策略のことごとくを防いできたニンゲン、いや、ヴァンパイアである。
そのハジュンという立ちはだかる強固な壁に穴を開けるためならば、暗殺者:カンタスに全てを預けることをもいとわぬとツナ=ヨッシーは考えたのである。
それが例え、自滅になることをツナ=ヨッシーは感じてはいたが、ことここに至って、彼は腹をくくるのであった……。
そして、ツナ=ヨッシーの一縷の望みは実を結ぶこととなる。
「……。御免。我の雇い主である頼みにより、貴殿の命をもらい受けに来たのである……」
ナギッサ=フランダールはハジュンの手により、宮廷のとある隠し部屋に匿われていた。ハジュンの息がかかった紅い鎧に身を包んだ兵士5人により、その隠し部屋の入り口は守られていた。
だが、その兵士たち5人はカンタスの存在に気づくことも無く、彼らの首級は全て石畳の床に転がることとなる。力なく倒れ込む紅い鎧の兵士たちはその場で崩れ落ち、首級の付け根から大量に血を噴き出していた。
その兵士たちの血が隠し部屋に流れ込み、隠し部屋の床は血の海と化していた。
「へへっ。失敗したッス。俺っちの暗殺計画を逆手にとるつもりが、こんな伏兵を用意されていたなんて……。ハジュンっち。力になれなくて申し訳ないッス……」
ザシュッグチュッブツンッという肉と骨を断つ音が隠し部屋に鈍く響く。そして、ナギッサ=フランダールの首級は彼の胴と切り離されたのであった。
「……。これでひとつ。さて、次は帝の首級なのである……」
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