19 / 68
第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
18 布団の中で
しおりを挟む這い寄る手。
白雪のような手が喉元まで、蛇のように近づいてくる。
「――っ」
藻掻こうにも、胸元にのしかかる重みで身動きが取れない。
じんわりと染み渡るのは、温かくも冷たい液体で。
体を啄むのは大きな口で、服の上から食らおうとしてくる。
手を動かそうとして――手が絡みついてくる。
脚を動かそうとして――足が絡みついてくる。
――どうして、こうなった。
最大限の注意を払っていたつもりだった。
武器は確かに身に着けてはいなかったが。
それでも、奇襲は最も警戒していたのだ。
「エレ~……むにゃむにゃ」
「……………寝相が悪いってもんじゃないぞ、こいつ」
胸上でアレッタは、気持ちよさそうに寝ていた。
その日の昼。
オレは交代で見張りをする練習をした方が良いと提案をした。
目的地まではそれなりに長い旅となる。オレも多少なりとも馬の走らせ方を学んでいるから、と。
すると、マルコはポンッと手を打ってこう言った。
「じゃあ、私が夜中に起きるようにしますね」
「あぁ、そう──はっ?」
詳しく説明をした。誰にでも分かるように。
夜中の見張りはモンスターや野盗などが現れる可能性がある。
荷卸がある都合上、早めに移動距離を稼ぐ方が良い。
朝はマルコが馬を走らせ、夜はエレが馬を走らせる。
馬はその都度休憩をさせる形で……。
「では、私が夜中に起きておくので、エレさんも夜は寝てくださいね」
「あぁ、やっと話を分かって──ないな。……大丈夫か?」
マルコの目の前で手をブンブンッと振った。意識はある。
「いえね、といいますのも……アレッタさんからの要望で」
「ソウ!! ワタシ、ゆっくり旅したイ!」
「ですので、私が主に馬を走らせます。エレさんは、私が変わってほしいと思った時に変わっていただく程度で」
「……ソイツの話をまともに受けることはねぇぞ」
「私は上級行商人です。本業は本業にお任せを。護衛のお二人は、護衛をしていただくだけで宜しいのですよ。もしもの時は頼らせていただきますので」
そんなこんな押し切られ、今。
「むにゃむにゃ……」
確かに離れては眠っていなかった。毛布は一つしかないのだ。それでも、できる限り距離をとっていたはず……っていうか、なぜ、上に乗っかっている? そんなことあるのか?
「……おもい」
なんとか体を動かし、左手を拘束から抜け出させた。むにゃむにゃと居心地が悪そうに唸るアレッタを睨みつけた。もちろん、効果はない。
「はぁ……子どもってこんなだったか?」
今度は体勢を変えつつアレッタを多少強引に床に下ろすと、オレの寝間着を着こなす少女は、少しばかり不機嫌そうに唸った。
「寒くねぇのかオマエは」
その額を指を突く。眉間にシワを寄せて無意識下の抵抗をしてきた。
アレッタに取っ払われて遠くでぐちゃぐちゃになっていた毛布を手繰り寄せ、自分用にして頭から被って背中を向けた。
「さむ、よく毛布なしで寝れるよ」
「エレ……ぇ」
言葉が聞こえ、背中にぬくもりを感じた。抱きついて来たのだ。
「起きたか。とりあえず、離れて──」
「おねえちゃんが、まもってあげる、から……ヘヘヘ。たよって、もっと、ほめテ……ウヒヒヒ」
「おねえちゃん、ってもしかして、寝言……」
確認しようと振り返ってみたら、自分にだけかけていた毛布に潜り込んでいたアレッタの寝顔がそこにあった。
「ゥ」
鼻先が触れる。
長い睫毛に目が向かった。
むにゃ、と艷やかな唇が畳まれ、戻り、色濃い紅色になる。
「……だまってりゃあ、可愛げがあるのに」
それを見て、くす、と笑う。
毛布の中は、まるで二人だけの世界だった。毛布が二人を外界から隔絶し、温かい空間が二人の首元に汗を垂らせている。
幌馬車の端に吊るされている角灯の明かりを毛布が濾し、うすぼんやりとした明かりで二人を照らす。吐息の当たる距離で密着をしている二人の間は、秘密ごとを共有しているような特別な雰囲気となっていた。
「ほめろ……がんばってマス、ので……よくばります、ウヘヘ」
「……どういう生活してたら、そんな寝言が出るんだよ」
毛布をアレッタの方にも伸ばすと、再び手を伸ばして来た。
「エレ……まもってあげるから……あんしんし、テ」
「おまえに頼る予定は今んとこないから安心して寝やがれ」
毛布よりも温かいアレッタの体温に触れ、睡魔が走ってやってきた。
アレッタの腹部、腕、胸に囲われた空間が温められていって……。
瞳を閉じようとして、少し堪えた。睫毛がぼんやりとした橋となって、周囲を暗く染めようとしている。
「……たまには……」
意識が落ちるようになくなっていき──最後に瞳を開くと、
「エヘ」
蜜柑色の瞳を開いてエレを見つめている満面の笑みの彼女がいた。
「エレ、寝顔かわいい」
「──~っ!?」
幌馬車から聞こえたドンッという物音にマルコが駆け寄ってきて、角灯を幌馬車内に向けた。
「どうしまし、た……って」
照らされたのは、戦闘体勢になっているオレと毛布を肩からかけて笑ってるアレッタの姿。二人とも息を荒くして、かなりの汗をかいている。
「若いっていいですね」
「勘違いすんな!! コイツが」
「エレと寝てただけだよネ。顔近づけて、温かくしテ、汗かきながら」
「オレの毛布に入ってきただけだ!」
「エレさん、毛布は一つしかないのでは」
マルコの指摘に、アレッタと毛布とマルコを見つめて、髪の毛を掻いた。
「……目が覚めた。白湯を用意してくれ」
やるせない気持ちで幌馬車から降りた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる