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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
37 腕試し
しおりを挟む没頭する。久々の戦闘に体も熱を帯びていく。
熟達した魔族にも匹敵をするこの男に、オレの技や動きがどこまで通用するか試したくてウズウズする。
短剣を振るい、斜めに構えられた剣の上を滑り落ちていく。小刻みな金音のあとの崩れた体勢のまま足払いをしようとして──
「そら。どうします?」
横蹴りに回した足に刀が刺しこまれていた。
地面と縫われる形で動きが強制終了。
「っ普通、無理な速度だろうが……!!」
が、左足を止めただけでなんだ。
逆に重心をそちらに預けて、もう片方を振り上げる。左足の筋肉が男の刀に侵食される悲鳴が聞こえるが、知ったことか。
「只人がしない動きを平然と……」
右足は空いていた手によって掴まれ、オレは男の前で股をかっ開いている状態に。
乙女なら怖くて泣いてしまうな。出会ってすぐの男の目の前で股を開くなんて。
「──両手、使ったな?」
沈み込んでいた体を反動で起こして、短剣を突きつける。
鎌の刃をなぞるような攻撃に男は足に刺していた剣を振り上げ弾いた。
「器用な人だッ!!」
「それがオレの武器だからなァ!!」
二人の顔に鮮血がかかる。拭うことすらせずに足運びをして、間合いを取る。
足元すらも血液塗れだ。そこに二人で鞘に武器を仕舞い、同じ動作を行う。
抜刀だ。どちらが先に武器を振るうかを伺う。だが、これは目で追うことのできない攻撃。
ならば、長さに執着していないこの短剣のほうが有利だ。
「…………」
「…………」
構えたまま振り抜こうとして──目の前に男の剣が届く。
「え」
停止できないオレの体は、男の剣に吸い込まれるように向かっていき──喉仏を男の剣が貫いた。
「──ッ~!?」
血の泡を吹き出すと、男は刀を振り抜くと同時に蹴りを捩じ込み、豪快なスイングでも食らったかのような勢いでオレの体は後方へ吹き飛んでいく。
廃棄された瓦礫が体に刺さり、至るところの痛覚が同時に刺激され、行き場の失った血液が背中から臀部にかけて伝っていく。
「ゴホッ、ガハッ……ハ、ッ」
「マナによって攻撃をするならば、マナの動きを追えばいい。単純なことだ」
一度でソレを読み切るとは。いや、その前にマナを感じ取れるなんて戦士のできることではない。
オレの読み違いだ。想像以上に各分野に精通をしている。
──この男、底が知れない。
その時、奥に揺らめいていた男の体がブレて瓦礫にもたれかかっていたオレに切りかかってきた。
背中の肉が引きちぎられながら必死に横に移動するが、その先にはのびてる冒険者どもがいる。巻き添えになったら死んでしまうだろう。
──キンッ!
追いかけてきた男の刀を姿勢を屈めて避け、短剣で打ち上げた。
普通ならば手から武器を離れさせれるんだが、握力も強いと。
打ち上げた勢いを利用し、刃を翻した男の振り下ろしにオレは《ことば》をぶつける。
「刃弾ッ!」
ぶわ、とオレを中心に広がる円状のソレによって刃は流される。
だが、男の連撃は止まらない。こちらとしてもやられっぱなしは癪だ。
自分の血液が広がる動きにくい足場で、二人の剣戟が始まった。
建物の影が落ちる路地裏に盛大に火花が咲く。
《ことば》で弾いて、隙を狙うが──重心が段々と上体の方へ移動していっていた。
それに気づくとやはり想像していた攻撃がオレの頬を掠めた。
空いていた片手や足により肉弾戦。
「刃がついていないなら、弾けれないでしょう」
「適応能力が高すぎるだろ──ったく!!」
そうなれば《ことば》を使わずとも打ち合える重さになってきた。
悲しきかな、オレの武器は敵の攻撃を防ぐほどの太さはないのだ。相手の攻撃の一撃が重たければ重たいほど、オレは《ことば》か避けでしか受けられない。やりようはあるが、これほどまでに早い連撃や熟達した相手に合わせてやれる訳もない。
としても、武器を振る速度はオレの方がさすがに早い。小回りが効く武器の特権だな。
「もう体が全快した、か。便利な体ですね。痛くはないんですか?」
「痛ぇが一々顔を歪めるほど乙女じゃあねぇさ」
「女の子らしい顔つきですのにね」
「お前はオレを逆撫でするのが得意だな」
刀を弾いたまま、地面に落ちていた剣を足で蹴り上げて握った。
逆手だが、これで二本。オレの血液をふんだんに浴びた武器だが、他人の血じゃないだけマシ。
「移動先に──が、二刀は扱いにくいでしょう」
「残念だな。元、二刀流だ」
連撃の速度が上がっていき、今度は男を壁に押し込んでいく。
武器が二つになると戦いの型も増える。昔の山賊の長と戦った時の自由な動きから、順手に持ち替えての基本型へ。
刀を弾き、短剣で上体部を狙う。振り回しは読まれることを考慮して小さな動きを繰り返した。
そうして繰り返している内、
(…………おかしい)
二刀流になってから、速度が上がったはず。
だが、コイツの涼しい顔が崩れなくなった。
なにか、まだあるのか?
刀を剣で弾き、短剣で傷を付けていく。
けれど、もう一歩足りない。
まだ、もう少し──
だが、とうとう、傷をつけれなくなっていった。
「っ……!? オマエ」
最小限の動きで、短剣を避けられている。
「二刀流と言えども、左右差や扱いの違いがあるでしょう」
金属音が路地裏に響き、壊された剣の破片が壁に刺さる。
──脆い武器を狙って壊しやがった……!!
咄嗟に構えようとするが、その遅れは相手にとっての好機でしかない。
「前代勇者のような短剣と大槍の達人では無い限り、隙はあるんですよ」
短剣を刃先で誘導し、開いた上体に蹴りが飛んでくる。
体を反らして避けるが、それはオレの体がもっと隙だらけになったことを意味していた。
「貴方は両方が短剣だったようですね。剣を防御に使う回数が多すぎる」
後ろに手を突いて、そのまま腕を伸展させて後ろに距離を取る。
だが、ぐわん、と視界の端に黒い物体が見えた。
「はっ──」
その勢いに乗せられる形でオレの体は横に飛んでいく。
「ガッ!?」
視えた最後の光景は、男の足がオレの横っ腹を捉えている光景。
蹴りにしちゃあ、威力が高すぎるだろ──ッ!?
体勢を立て直そうとして、男がすぐ近くに見えた。
「──早すぎだろっ」
絶望の声もそこまで。
「これで──」
刀の振り下げを腕で防ぐが、腹部に蹴りが飛んできた。
臓器が弾け飛び、肋骨が何本か逝かれた音が耳の奥を刺激した。
「──ッウ……!??」
早く、体を起こせ、相手は待ってくれないぞ。
不味い。これは……呼吸が、頭が──……。外傷ならば堪えることができるが、内側は難しい。
痛みが脳みそを揺らし、刺激し、目の前の光景を左右に揺らして見せてくる。
「っっっ──?」
吐き気を堪え、ふら、と立ち上がる。不格好なりとも短剣を構えた。
「はあっ……はぁっ……!!」
よく立ち上がったと褒めてやりたい。なんで立てているのかも分からない。
目からも口端からも鼻からも、頭部からも液体が溢れ出して居る。顔の輪郭をなぞるそれがむず痒くてたまらない。
「どうした……はやく、こいよ……!」
「…………」
「情けのつもりかよ。敵の体勢が整うまで待つなんて……」
じわと黒い服を錆色に染めるのは古傷から漏れ出てくる血液。
追撃に備えるために身構えたのだが、男が沈黙をして動かないことを不思議に思う。
「? オイ、なんだよ」
「……終わりにしましょう。もう十分戦った」
刀を鞘に仕舞い、背筋を正す男を訝しげに見つめる。
自分の体を見てみると、なるほど、よく分かった。
「包帯だらけの体でよく、そこまで動けるものです」
戦闘中のどこかで服が引っかかり、鎖骨から腹部までが外の空気にさらされていたのだ。
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