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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
47 どこ見て歩いてんだ
しおりを挟む「……ナンダロ、アレ?」
何かのイベント事だろうか。人が多く、一定方向に流れているのが見える。
「まさか、兵隊サン……!?」
何度か通った通りだというのに、いつの間にか人が溢れんばかり――比喩ではない――の大人数になっていた。その正体を探ろうとして、警備をするように兵隊が駆り出されているのが見えた。
「アレ……」
兵隊の行進ではないらしい。前のめりだった姿勢を正し、今一度周りを見渡した。
「おまつり……とか?」
ガヤガヤと喧噪。
一つ一つの単語をくみ取ることはできないが……。
プラカード、大声、叫び声。
何かを訴えている?
――止めろ、止めさせろ、ふざけるな、有り得ない――
――殺せ、追い出せ、絶対反対だ、末代までの恥だぞ――
「……?」
見たことのない集団を目にしたことで、アレッタの中にほんのりと興味が湧いた。
もっと近づこうと思って、人垣の近くまで歩み寄っていく。
「ンゥ! くぅ……」
人の行進は人垣の中。残念ながらアレッタの大きさでは、背伸びをしても十分な高さにはなり得ない。掻き分けようとしても大の大人は木の幹のように固く、動かせれるようなモノじゃなかった。
「邪魔ぁ……!」
「毎回、元気だよなァ。俺はそこまでやる元気はないっての」
「ン」
アレッタの斜め前で行進を眺めていた男がそう言った。その言葉に耳をそばだてる。
「こんな西の国でデモしても意味なんてないだろうに」
「最近、穢れた血が主権を握る国が出来たんだろ?」
「その反対デモだと。ほんっと、すごい熱量だよなぁ……」
「ここでせず、そっちの国ですりゃあいいのによ」
「そっちで反対運動するのが恐いからだろうよ」
「それもそうか」
穢れた血。
反対デモ。
「フム?」
大きな通りを埋め尽くす人。
それを止めない兵隊。
行進を英雄の外旋を見るような目で見つめる子どもたち。
「デモ、とは、ナンゾヤ」
聞けば聞くほど知らない存在であることが分かると、アレッタは今一度、背伸びをしてみる。
「ン~! ンァ…………見れなイ」
結果は変わらない。
むすっとしたまま元の場所まで戻って、遠目に人の列を見た。やはり人の切れ目が見えないほど多い。
「――…………」
しかし、彼らが何のために列を成しているのかも分からないし、それを見る彼らの気持ちも分からない。
ただ、珍しいからという理由ではないのだろう。
「……ワカラナイ」
なんだか、別の世界に飛ばされて、アレッタだけが取り残されたような感覚だ。
アレッタはただただ立ち止まって、今までの達成感をどこかへ置いてきたような気分で見つめていた。
「ンム」
これは、まるで、楽しくない観光をしているようだ。
「もういいヤ」
アレッタは目を外し、通りとは反対の方向へ歩き出した。
「エレの仲間になれるんだから。どうでもいいことダ」
小さく呟くと、現実感がやっと追い付いてきた。
そうだ。
依頼が達成できたから、エレの仲間になることが出来るのだ。
やったぞ。
自分はやったんだ。
金等級の依頼を達成できたんだ。
そのような気分を抱いて歩いていたというのに、
「ワ」
「アァ!? どこ見て歩いてんだガキ!」
不幸にも曲がり角で冒険者にぶつかってしまった!
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