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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
65 吟遊詩人
しおりを挟む「まぁ、冗談はさておき。オレが弱気になる必要がないってのは?」
「え、あ、そうだよ! なんていったって、ボクがいるんだからね!」
ちら、と片目をあけて「詳細を聞いてくれても良いのだよ?」という顔で見つめてくるオーレに一言。
「……お前、そんな性格だったか?」
「へ……? え、10年以上……15年くらい会ってないんだよ!? 果樹の苗木が実を成す年月の倍さ!」
それはさておき、と息を整えたオーレは誇るように笑みを湛える。
「ボクは嬉しいんだ。お兄ちゃんの力になれるのが」
「力? 確かに、転移で助けては貰ったが」
「ちーがーう!」
「? じゃあなんだよ」
ふん、と鼻を鳴らすオーレにマルコは問いかけた。
「なにかエレさん大英雄作戦に良い案があるのですか?」
「もちろん。大英雄になるためには、名前が知られていないとダメだ。その点、お兄ちゃんは最悪だ。だから、お兄ちゃんの話をたくさんするのがまず第一だね」
「知らないヤツに教えて回ル?」
「となると、吟遊詩人になりますかね?」
「トリのナマエ?」
「ちげぇよ」
吟遊詩人。
彼らは、各地を回って英雄の詩などを吟唱する。辺境の勇士。最果ての聖職者。死しても武勲を語り継ぐ。彼らの存在は、希望の星への途を隠そうとする《運命》にも打ち勝つとも言われている。
「そうなるね。新聞は国王の息がかかってるのは今回の件でも分かった」
「新聞なんてのを見るのは貴族くらいだからな。どーせ、オレが大英雄になるって言ったもどこも取り上げたりはしねぇさ」
冷静になって考えると、自分に酔いすぎていたような気もしなくもない。が、まぁたまにはいいだろう。
「まぁ、新聞は塔の研究者も一応は見るんだけどね? あそこ、結構隔離されてるし……へへ」
「あんな貴族のダレダレがドコドコで武勲を立ち上げた~っていう最高にオモシロ話を誰が見るんだよ」
「新聞は確かに、私も見ないですね。高いですし」
「それこそ冒険者はそういう奴らばっかりだ。文字も読めない。組合もしっかりしたとこじゃないと置いてない」
「だから、吟遊詩人になる訳だ」
「武勲を広めるには最適ですな」
マルコは頷く。
「っても、オレの詩なんてないぞ。魔族退治は全部モスカが王国に報告していたからな。塔には管理されてるらしいが、アイツらは手を回してるだろうし」
「確かに。一党が大きく東に行ってからは、エレさんの話は……」
「だろ。吟遊詩人も詩を作るには情報がいる。情報の統制がある中で、オレの話をしたがる奴もいないだろうしな……」
「絶望的……というわけですか」
分かりやすく、俺の置かれた立場は最悪だった。
今回の件は広められるだろう。時間が経てば経つほど、不利になっていく。その一方でオレの武勲は語られない。
ディエス・エレは……人類の敵だ。
幾ら魔族を倒そうが、人々を救おうが……その情報が更新されないまま「エレ」という人物を形作るのだ。
しかし、そんな暗くなりつつある幌内で、一人だけ勇ましく笑う人物がいた。
「──そのためのボクじゃあないか!」
「ボク?」
オーレは、うん、と頷く。
「たくさんしてあげれるよ。おにーちゃんのハナシ」
マルコとアレッタが不思議そうに見上げる視線を楽しみながら、オーレは上機嫌に身の上話をし始めた。
「だってボク、吟遊詩人だから!」
聞いたこと無い話だと思っていると「初出し話です」と言われた。
「神殿から出たボクの収入源は吟遊詩人だったのさ。幸い、神殿にはいっぱい参考になる話があったからね。それで、無事に塔の魔法使いになったんだけど、まぁ、それは、おいといて……じゃーん!」
オーレは分厚い羊皮紙の束を取り出した。
「これ、なーんだ?」
「なんだそれ……」
エレは見覚えのあるそれの正体を脳内で探した。しかし、その答えが出てくるのを彼女が待つわけもない。
「コレ! ルートス先輩からのお土産。あのヒト、魔法使いだから嘘つけない。だから、塔へ叙事の保管用に記してもらってたの」
ルートス。叙事。それらの単語で分かるその紙束の正体は、
「そう! これには、勇者一党の10年間の全てが入ってるのさ」
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