43 / 112
甘い囁き1※
「マーレイ」
甘い囁きが鼓膜を揺する。
ソファに行儀良く並ぶ二人。
サーフェスは台本を読み上げるように彼女の名を呼んだ。
「マーレイ。早くキスを」
サーフェスは焦れて眉間に皺を寄せる。
まるでマーレイが唇を近づかせることが当然の言い方だ。
マーレイは意地悪い気持ちになり、ツンと顔を背けた。
「あなたから、なさいまし」
「何だと? 」
「いつまで受け身でいるおつもり? 」
いつまでたっても意気地のないサーフェスには、うんざりだ。
猿真似と言えばそれまでだが、マーレイはキスの仕方を小説そっくりそのまま伝授した。たとえフィクションであろうと、生々しい羅列はやけに現実味を帯びている。
それなのに、サーフェスは自ら動こうとしない。
「この私を喘がせてみせて? 」
マーレイは声音を低めて挑発する。
餌は撒いた。
「言ったな」
たとえ仮初めだろうと、今、彼の瞳に映っているのは自分だ。ジゼルではない。
あっさりと撒き餌に食いつく愚か者。
油断が生まれた。
マーレイはすかさず座面から腰を浮かせると、素早い動作でサーフェスの片方の太腿に乗り上げた。
「うっ! マーレイ! 」
彼の顔が苦悶に歪む。
「どうなさいまして? 」
サーフェスの耳朶に唇を寄せ、吐息に言葉を乗せた。
「や、やめろ! ヴィンセント伯爵令嬢! 」
「あら? 今は『マーレイ』でしょう? もうお忘れ? 」
「マーレイ! やめるんだ! 」
「何のことかしら? 」
昨日と同じ状況を作り出してやる。昨日は自覚がなかったが、今回は違う。明らかな意図を持って、膝頭で彼の体の中央をぐりぐり突いた。何やら皮膚に硬い物が当たるが、ケアランからは気にせず続けるようにと指導が入っている。
「お、お前は! わざとだな! 」
唾を飛ばしてサーフェスは吠えた。
「こ、この淫乱が! 」
この上ない憎悪が篭ったような低い唸り声。
しかし紳士の振る舞いが身についているのか、突き飛ばすような乱暴はしない。彼女の腰を掴むと、昨日と同じように持ち上げて、そっと脇に退けた。
「どこへ逃げるおつもり? 」
腰を浮かせて立ちあがろうとした、その腕を力任せに引っ張る。
不意打ちに、どすんとサーフェスの尻がソファに沈んだ。
「は、離せ! 」
マーレイの手を振り解こうと躍起になる余り、サーフェスは判断が遅れた。
「なっ、何をする! 」
猫のような瞬発力でソファから飛び降りたマーレイは、膝をつき、サーフェスの両脚の間に滑り込んだ。
息つく暇も与えず、サーフェスのトラウザーの前ボタンを外す。
「きゃっ」
マーレイは思わず悲鳴をあげてしまった。
教科書では何度も見た、男性のズボンの中身。
実物は全然違う。
赤黒く膨れ上がって、血管の筋が凄い。今にも弾けそうに、どくどくと脈打っている。そして何より大きさが、教科書の倍以上ある。
直視出来ずに、思わず目を背けてしまった。
ある程度は座学から知識を得ていたし、小説も熟読した。昨日は丸一日、ケアランから教示を受けた。
男性がどのような状態になれば、女性に挿入出来るかと。
しかし、こんなものを体内に収めれば、破裂してしまう。
マーレイの背中の筋がゾクゾクと蠢いた。
「おい! 何のつもりだ! 」
「……! 」
恥じらいと怒りでうなじまで赤らめたサーフェスの激昂に、ハッとマーレイの飛んでいた意識が戻ってきた。
私は悪役令嬢。男を手玉に取る悪友令嬢。
ぶつぶつと繰り返し、自らに暗示をかける。
悪役令嬢……。
マーレイの目つきが鋭くなった。
「あ、あらあら。何だか今にも暴発しそうだわ」
くすくすと声を揺らすその姿は、まさしく男性慣れした、社交界での噂通りの姿。
「わかっているなら、さっさと退けろ! 」
「また下着を汚してしまうから? 」
「さ、最初から承知の上でこんなことを!
この、淫乱女! 」
「あらあら。随分な言い草ですこと」
奥歯をギリギリと擦り潰し、羞恥で涙まで溜めるサーフェス。どうやら限界寸前らしい。
彼の剛直の先端は、透明の粘液によって湿り気を帯びている。
マーレイは見なかったことにして、艶然と微笑んだ。
「謝ってくださいな」
「何だと? 」
「数々の私に対する無礼な言葉を」
「あ、謝る! 謝るから! 」
「誠意がありませんことよ」
「悪かった! マーレイ! 」
これこそが、ケアランから檄を飛ばされていたことだ。
今まで散々と無礼を働いた復讐。
公爵に心の底から詫びさせる。
本来なら、ここで終わらせるはずだった。
「駄目です。逃したりはしませんわ」
しかし、悪役令嬢に成り切っているマーレイは、簡単に終わらせるつもりはない。
甘い囁きが鼓膜を揺する。
ソファに行儀良く並ぶ二人。
サーフェスは台本を読み上げるように彼女の名を呼んだ。
「マーレイ。早くキスを」
サーフェスは焦れて眉間に皺を寄せる。
まるでマーレイが唇を近づかせることが当然の言い方だ。
マーレイは意地悪い気持ちになり、ツンと顔を背けた。
「あなたから、なさいまし」
「何だと? 」
「いつまで受け身でいるおつもり? 」
いつまでたっても意気地のないサーフェスには、うんざりだ。
猿真似と言えばそれまでだが、マーレイはキスの仕方を小説そっくりそのまま伝授した。たとえフィクションであろうと、生々しい羅列はやけに現実味を帯びている。
それなのに、サーフェスは自ら動こうとしない。
「この私を喘がせてみせて? 」
マーレイは声音を低めて挑発する。
餌は撒いた。
「言ったな」
たとえ仮初めだろうと、今、彼の瞳に映っているのは自分だ。ジゼルではない。
あっさりと撒き餌に食いつく愚か者。
油断が生まれた。
マーレイはすかさず座面から腰を浮かせると、素早い動作でサーフェスの片方の太腿に乗り上げた。
「うっ! マーレイ! 」
彼の顔が苦悶に歪む。
「どうなさいまして? 」
サーフェスの耳朶に唇を寄せ、吐息に言葉を乗せた。
「や、やめろ! ヴィンセント伯爵令嬢! 」
「あら? 今は『マーレイ』でしょう? もうお忘れ? 」
「マーレイ! やめるんだ! 」
「何のことかしら? 」
昨日と同じ状況を作り出してやる。昨日は自覚がなかったが、今回は違う。明らかな意図を持って、膝頭で彼の体の中央をぐりぐり突いた。何やら皮膚に硬い物が当たるが、ケアランからは気にせず続けるようにと指導が入っている。
「お、お前は! わざとだな! 」
唾を飛ばしてサーフェスは吠えた。
「こ、この淫乱が! 」
この上ない憎悪が篭ったような低い唸り声。
しかし紳士の振る舞いが身についているのか、突き飛ばすような乱暴はしない。彼女の腰を掴むと、昨日と同じように持ち上げて、そっと脇に退けた。
「どこへ逃げるおつもり? 」
腰を浮かせて立ちあがろうとした、その腕を力任せに引っ張る。
不意打ちに、どすんとサーフェスの尻がソファに沈んだ。
「は、離せ! 」
マーレイの手を振り解こうと躍起になる余り、サーフェスは判断が遅れた。
「なっ、何をする! 」
猫のような瞬発力でソファから飛び降りたマーレイは、膝をつき、サーフェスの両脚の間に滑り込んだ。
息つく暇も与えず、サーフェスのトラウザーの前ボタンを外す。
「きゃっ」
マーレイは思わず悲鳴をあげてしまった。
教科書では何度も見た、男性のズボンの中身。
実物は全然違う。
赤黒く膨れ上がって、血管の筋が凄い。今にも弾けそうに、どくどくと脈打っている。そして何より大きさが、教科書の倍以上ある。
直視出来ずに、思わず目を背けてしまった。
ある程度は座学から知識を得ていたし、小説も熟読した。昨日は丸一日、ケアランから教示を受けた。
男性がどのような状態になれば、女性に挿入出来るかと。
しかし、こんなものを体内に収めれば、破裂してしまう。
マーレイの背中の筋がゾクゾクと蠢いた。
「おい! 何のつもりだ! 」
「……! 」
恥じらいと怒りでうなじまで赤らめたサーフェスの激昂に、ハッとマーレイの飛んでいた意識が戻ってきた。
私は悪役令嬢。男を手玉に取る悪友令嬢。
ぶつぶつと繰り返し、自らに暗示をかける。
悪役令嬢……。
マーレイの目つきが鋭くなった。
「あ、あらあら。何だか今にも暴発しそうだわ」
くすくすと声を揺らすその姿は、まさしく男性慣れした、社交界での噂通りの姿。
「わかっているなら、さっさと退けろ! 」
「また下着を汚してしまうから? 」
「さ、最初から承知の上でこんなことを!
この、淫乱女! 」
「あらあら。随分な言い草ですこと」
奥歯をギリギリと擦り潰し、羞恥で涙まで溜めるサーフェス。どうやら限界寸前らしい。
彼の剛直の先端は、透明の粘液によって湿り気を帯びている。
マーレイは見なかったことにして、艶然と微笑んだ。
「謝ってくださいな」
「何だと? 」
「数々の私に対する無礼な言葉を」
「あ、謝る! 謝るから! 」
「誠意がありませんことよ」
「悪かった! マーレイ! 」
これこそが、ケアランから檄を飛ばされていたことだ。
今まで散々と無礼を働いた復讐。
公爵に心の底から詫びさせる。
本来なら、ここで終わらせるはずだった。
「駄目です。逃したりはしませんわ」
しかし、悪役令嬢に成り切っているマーレイは、簡単に終わらせるつもりはない。
あなたにおすすめの小説
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!
星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。
……のに。
「お腹すいた」
そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。
強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。
手当てすれば「危ない」と囲い込み、
看病すれば抱きしめて離さず、
ついには――
「君が、俺の帰る場所」
拾ってない。飼ってない。
ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。
無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の
距離感バグ甘々ラブコメ、開幕!
⭐︎完結済ー本編8話+後日談9話⭐︎
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。