寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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続編 愛くらい語らせろ

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「というわけで、日浦と堂島。頼んだぞ」
 というわけって、どういうわけだ。
 藤田隊長の柔和な大黒さん顔に、うっかり「はい」と首を振りかけたが、寸前で堪えた。
 隊長から日浦と二人呼ばれ、席の前で直立不動だった俺は、話の内容が次の防災指導当番の任命だったことで、こっそり拳を震わせた。
 おい、日浦。てめえは何を無表情に気取ってるんだ。少しは反論しろ。
「どうして俺達なんですか?」
「ん?」
 まさか俺が反論するとは予想してなかったらしい。
 隊長は朝一番の玄米茶の湯気を顔に浴びながら、柔和な目をやや開く。
「今回の防災指導は、確か指揮隊の番でしたよね」
 署内での持ち回りで、この間当番を終えたところだ。毎度のことながら、俺と日浦でな。口達者な笠置と橋本にそれらしく理由をつけられて。
「ああ、それなあ」
 藤田隊長は湯呑みを置くと、ペンの尻でこめかみをかきながら、言いにくそうに何やらうんうんと頷いている。
「うちの署長からの命令でな」
「署長から?何でまた?」
 俺、署長から何か嫌がらせされることしたか?
「そもそも今回のはそこそこ規模の大きいもんですよね」
 だからこそ、ベテランの指揮隊の隊長とその部下が良いという話で纏まってたじゃねえのか。
「指揮隊の山田さん、ギックリ腰で」
「だからって、何で俺と日浦さんが」
「君ら、しょっちゅう防災指導行ってるだろ」
「そうですけど」
「なら問題ないだろ」
 言って、ずずっと音を立てて茶を啜る。
 隊長、何か歯切れ悪いな。そもそも、何で署長直々にご指名を受けるんだ。もしや、日浦の顔か?日浦の顔を七福市消防局の広告塔にしようって魂胆か?そうなると、俺は引き立て役に良い塩梅ってか?
 ふざけんなよ。
 たちまちカーッと頭に血が昇る。
「まあまあ。俺も機関員として駆り出されとるし」
 うわっ!いきなり人の肩を揉むな!
 いつの間にか音もなく真後ろに立っていたんだ、橋本。日浦といい、てめえらは忍者か。気配くらい見せろ。
 お陰様で沸騰しかけた俺の脳味噌は、呆気なく鎮まった。
「橋本さんもって珍しいですね」
 いつも、のらりくらりと逃げてるくせによ。嫌味を交えて尋ねれば、橋本は「まあな」と腕を組んで胸を反らした。
「今回は導入されたばっかりの梯子車のお披露目も兼ねてるからな」
 ははーん。赤車マニアの橋本のことだ。一番乗りしたいんだろう。
 市局のやり手の消防司令補の女史が上に根回ししまくって導入したらしい。彼女は今は広報課に配属とか。なら、今度会うよな。
「立候補した」
 やっぱり。その消防車に見せる情熱的な愛情には敬意を送ってやる。
「というわけで、悪いな、日浦。お邪魔虫がくっついてきて」
 ニタニタと橋本は笑いながら、さらに俺の肩を揉む。おい、隊長の前でふざけ過ぎだ。おい、隊長、呑気に茶なんか飲んでないで注意しろよ。
「別に。不本意だろうと、仕事なら仕方ないだろ」
「わあ。日浦、大人になってんな」
「それ以上喋ると、口を捻り潰すぞ」
「へええ。誰かさんが絡むと物騒やなあ……って、冗談、冗談やから」
 ニタニタ笑いをやめない橋本は、ついに日浦の逆鱗に触れて、頬に拳を食らっていた。
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