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続編 愛くらい語らせろ
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七福市大黒谷町にも少子化の波は押し寄せ、繰り返される学校の統廃合でもう、しっちゃかめっちゃかだ。
俺も大黒谷町立の小学校出身だが、その小学校はすでに跡形もない。再開発が盛んにあちこちで行われる七福市は、どこも例外なく変化していっている。出身の小学校は体育館が市営の体育センターとかいう名称となり、主に中学校の選抜大会の会場となっている。
そして、出身学校は近くの小学校三校と統合し、南方面にあるから大黒谷南小学校などと分かりやすい名を与えられた。因みに北方面の三校は北小学校だ。
「おおお。なかなかの眺めや。最高」
広報指導車の運転席から降りるなり、橋本は感嘆の声を上げた。
グラウンドには、最新鋭の消防車がすでにお目見えしている。
「先端屈折式梯子つき自動車。新開発のバスケットは最大許容量で、今までより多くの人を乗せられるんや。梯子も、三十メートル級の梯子車の従来比より稼働域が広くなっとってな」
聞いてもいないのに、べらべらべらべらと。マニアの語りは終わりそうにない。
後部座席から降りた日浦は、露骨にうんざりと肩を竦めてみせた。
「おい、堂島。聞いてんのか?」
助手席のドアを閉める俺に指さすんじゃねえよ。悪いが鉄仮面と渾名されるくらいだからな、無反応を貫き通してやる。俺の視線は最新鋭の消防車の脇に立つ女史にしか向いていない。
耳の下くらいに切り揃えられた艶やかな髪、豊満な胸を制服のシャツに押し込もうとも今にもはち切れそうで、ふっくらした尻も形よく曲線を描いている。高校生の俺なら間違いなくナンパしてた美人だな。
「毎年六月の国際防災展で話題になった車輌やで。まさか、それが、何年かしてうちに導入されるとは」
感極まって目え潤ませるな。
などと隣の橋本を鬱陶しく思い、どうやって口を塞いでやろうかって思案していたら、何と美人の女史がこちらに近づいてきた。
「日浦くん。調子良さそうね」
織本孝子女史は日浦と同期。確か消防学校も一緒だったとか。
「ホテル火災のときは、どうなるかと思ったけど」
三ヶ月前の弁天町のホテル火災は、消防史上稀にみる大規模火災だった。
未だに鮮明に脳裏を黒煙に包まれた廊下が蘇る。
サイボーグ日浦などとかつて呼ばれたその無鉄砲をホテル火災でも如何なく発揮して、本気で命の危機に直面したのだ。
集中治療室から出てこない日浦。バタバタと何人もの医者が駆け込んでいき、大丈夫かと一人の看護師を捕まえて問い質せば、真っ青な顔で頷くだけで何も答えてくれず。中からはピーピーと何やら不気味な機械音が響いて。
あんな思いは二度と御免だ。
「堂島くんでしょ?この子に感謝しなさいよ」
血の気を失う俺には触れずに、織本女史は日浦から俺へと視線をずらす。
「堂島くんの度胸で、あんた、命拾いしたんだから」
「堂島の?」
「そうよー。命の恩人なんだから」
日浦は意識を失っていたから、詳細は知らない。
まさか俺が建物ギリギリにヘリを横付けして飛び降りたなんて知れば、髪の毛を逆立てて発狂し、それから自責の念にかられて消防辞めるなんて言い出しかねないからな。
「あんた、ちゃんと感謝を態度で示してる?」
「失礼な。してるぞ。この上なくな」
日浦は目元を赤くして、唇を尖らせた。どんな感謝の仕方を考えてるか予想つくからやめろ。
日浦にあの火災の顛末を話すつもりはない。
「こんなに想ってくれる相手がいるんだから。ちゃんとこの先のこと考えなさいよ」
同い年なのに、精神年齢の差の開きよ。
しかし、言い方が際どいな。おい、日浦。まさか女史に何もかも喋ってんじゃねえだろうな。
俺も大黒谷町立の小学校出身だが、その小学校はすでに跡形もない。再開発が盛んにあちこちで行われる七福市は、どこも例外なく変化していっている。出身の小学校は体育館が市営の体育センターとかいう名称となり、主に中学校の選抜大会の会場となっている。
そして、出身学校は近くの小学校三校と統合し、南方面にあるから大黒谷南小学校などと分かりやすい名を与えられた。因みに北方面の三校は北小学校だ。
「おおお。なかなかの眺めや。最高」
広報指導車の運転席から降りるなり、橋本は感嘆の声を上げた。
グラウンドには、最新鋭の消防車がすでにお目見えしている。
「先端屈折式梯子つき自動車。新開発のバスケットは最大許容量で、今までより多くの人を乗せられるんや。梯子も、三十メートル級の梯子車の従来比より稼働域が広くなっとってな」
聞いてもいないのに、べらべらべらべらと。マニアの語りは終わりそうにない。
後部座席から降りた日浦は、露骨にうんざりと肩を竦めてみせた。
「おい、堂島。聞いてんのか?」
助手席のドアを閉める俺に指さすんじゃねえよ。悪いが鉄仮面と渾名されるくらいだからな、無反応を貫き通してやる。俺の視線は最新鋭の消防車の脇に立つ女史にしか向いていない。
耳の下くらいに切り揃えられた艶やかな髪、豊満な胸を制服のシャツに押し込もうとも今にもはち切れそうで、ふっくらした尻も形よく曲線を描いている。高校生の俺なら間違いなくナンパしてた美人だな。
「毎年六月の国際防災展で話題になった車輌やで。まさか、それが、何年かしてうちに導入されるとは」
感極まって目え潤ませるな。
などと隣の橋本を鬱陶しく思い、どうやって口を塞いでやろうかって思案していたら、何と美人の女史がこちらに近づいてきた。
「日浦くん。調子良さそうね」
織本孝子女史は日浦と同期。確か消防学校も一緒だったとか。
「ホテル火災のときは、どうなるかと思ったけど」
三ヶ月前の弁天町のホテル火災は、消防史上稀にみる大規模火災だった。
未だに鮮明に脳裏を黒煙に包まれた廊下が蘇る。
サイボーグ日浦などとかつて呼ばれたその無鉄砲をホテル火災でも如何なく発揮して、本気で命の危機に直面したのだ。
集中治療室から出てこない日浦。バタバタと何人もの医者が駆け込んでいき、大丈夫かと一人の看護師を捕まえて問い質せば、真っ青な顔で頷くだけで何も答えてくれず。中からはピーピーと何やら不気味な機械音が響いて。
あんな思いは二度と御免だ。
「堂島くんでしょ?この子に感謝しなさいよ」
血の気を失う俺には触れずに、織本女史は日浦から俺へと視線をずらす。
「堂島くんの度胸で、あんた、命拾いしたんだから」
「堂島の?」
「そうよー。命の恩人なんだから」
日浦は意識を失っていたから、詳細は知らない。
まさか俺が建物ギリギリにヘリを横付けして飛び降りたなんて知れば、髪の毛を逆立てて発狂し、それから自責の念にかられて消防辞めるなんて言い出しかねないからな。
「あんた、ちゃんと感謝を態度で示してる?」
「失礼な。してるぞ。この上なくな」
日浦は目元を赤くして、唇を尖らせた。どんな感謝の仕方を考えてるか予想つくからやめろ。
日浦にあの火災の顛末を話すつもりはない。
「こんなに想ってくれる相手がいるんだから。ちゃんとこの先のこと考えなさいよ」
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