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不気味な男達
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屋敷の前を柄の悪そうな男らが彷徨いている。
まず初めに気づいたのは、通いの使用人達だ。
不躾な視線を浴びせても、男らは気にする素振りすら見せず、門の前をやたらとうろうろするだけ。
別に不埒な行いを仕掛けてくるわけでもない。
だから、警察に相談したところで、取り合ってはくれない。
「能無しの警察どもめ」
ルミナスは舌打ちすると、八つ当たり気味に吐き捨てた。
「お父様。そんな言い方はよくないわ」
娘の方が遥かに大人びて、口悪い父を咎める。
「彼らだって、誠実に仕事を全うしてるんだから」
「だったら、連中を蹴散らすはずだ。目障りで敵わん」
言って、中途半端に引いたカーテンを完全に閉めた。
無頼漢らの目的がわからない。だから尚更、薄気味悪い。
「まさか、父が……」
イザベラは思い当たり、呟く。
イザベラがエルンスト男爵の隠し子であるというニュースは、侯爵夫人の圧力によって、立ち消えた。
新聞もニュースも、イザベラに関するニュースなど知らんぷり。
暴露話を期待していた男爵は、肩透かしを食らった形だ。
だが、それでエルンストが諦めるとは、どうしても思えない。
「イザベラ。また逃げようなどと考えてはいけないよ」
イザベラの顔色から察して、ルミナスは先回りして忠告した。
誰にも聞かれないように、唇をイザベラの耳に寄せる。
密やかな囁きが、鼓膜を揺すった。
「でないと、今度は君のあそこにジャムを詰め込んで、一晩中舐め回してやる」
たちまちイザベラの喉がひくつく。
「……どうして、そう恐ろしいことを平気で口に出来るのですか? 」
「君の愛読書と大差ないだろう? 」
「あ、あれは純愛です! 全然違います! 」
「していることは同じじゃないか」
「違います! そんな変態的な行為は、これっぽっちも書かれていません! 」
前妻に対しても、そういった変態的な行為を強いていたのだろうか。
うんざりして、イザベラは尚も何やら絡んでくるルミナスを無視した。
侯爵夫人から前妻のことを聞かされ、イザベラは何かと己と比較してしまう。
夫人はあくまでミレディは過去のこと。ルミナスは彼女の死を乗り越えて、新たな出会いを掴んだのだと示したかったのだろうが、イザベラには逆効果であった。
「アリア。イザベラ。決して外に出てはいけないからね」
その日、ルミナスは運河の建設に関する会合に出席することになっていた。
熱を動力化した蒸気機関による急速な発展には、燃料源として石炭が必要不可欠である。
この時代、鉄道はまだ通っておらず、専ら馬車が輸送手段となっていたが、石炭の輸送はそれでは間に合わない。
そこで目をつけたのが、運河による輸送である。
ルミナスは投資家として、その運河建設に携わっていた。
「良いね。私はしばらく留守にするから。気をつけるんだよ」
「任せて、お父様。イザベラは私がちゃんと守るわ」
アリアは偉ぶって、拳で己の胸をどんと突いた。
「屋敷は守りますわ。どうぞ、ご安心を」
イザベラも続く。
「頼んだよ」
ルミナスは不安そうにしつつ、頷き返す。
それは決して偽りではない、世間一般の幸せな家族像にしか見えなかった。
まず初めに気づいたのは、通いの使用人達だ。
不躾な視線を浴びせても、男らは気にする素振りすら見せず、門の前をやたらとうろうろするだけ。
別に不埒な行いを仕掛けてくるわけでもない。
だから、警察に相談したところで、取り合ってはくれない。
「能無しの警察どもめ」
ルミナスは舌打ちすると、八つ当たり気味に吐き捨てた。
「お父様。そんな言い方はよくないわ」
娘の方が遥かに大人びて、口悪い父を咎める。
「彼らだって、誠実に仕事を全うしてるんだから」
「だったら、連中を蹴散らすはずだ。目障りで敵わん」
言って、中途半端に引いたカーテンを完全に閉めた。
無頼漢らの目的がわからない。だから尚更、薄気味悪い。
「まさか、父が……」
イザベラは思い当たり、呟く。
イザベラがエルンスト男爵の隠し子であるというニュースは、侯爵夫人の圧力によって、立ち消えた。
新聞もニュースも、イザベラに関するニュースなど知らんぷり。
暴露話を期待していた男爵は、肩透かしを食らった形だ。
だが、それでエルンストが諦めるとは、どうしても思えない。
「イザベラ。また逃げようなどと考えてはいけないよ」
イザベラの顔色から察して、ルミナスは先回りして忠告した。
誰にも聞かれないように、唇をイザベラの耳に寄せる。
密やかな囁きが、鼓膜を揺すった。
「でないと、今度は君のあそこにジャムを詰め込んで、一晩中舐め回してやる」
たちまちイザベラの喉がひくつく。
「……どうして、そう恐ろしいことを平気で口に出来るのですか? 」
「君の愛読書と大差ないだろう? 」
「あ、あれは純愛です! 全然違います! 」
「していることは同じじゃないか」
「違います! そんな変態的な行為は、これっぽっちも書かれていません! 」
前妻に対しても、そういった変態的な行為を強いていたのだろうか。
うんざりして、イザベラは尚も何やら絡んでくるルミナスを無視した。
侯爵夫人から前妻のことを聞かされ、イザベラは何かと己と比較してしまう。
夫人はあくまでミレディは過去のこと。ルミナスは彼女の死を乗り越えて、新たな出会いを掴んだのだと示したかったのだろうが、イザベラには逆効果であった。
「アリア。イザベラ。決して外に出てはいけないからね」
その日、ルミナスは運河の建設に関する会合に出席することになっていた。
熱を動力化した蒸気機関による急速な発展には、燃料源として石炭が必要不可欠である。
この時代、鉄道はまだ通っておらず、専ら馬車が輸送手段となっていたが、石炭の輸送はそれでは間に合わない。
そこで目をつけたのが、運河による輸送である。
ルミナスは投資家として、その運河建設に携わっていた。
「良いね。私はしばらく留守にするから。気をつけるんだよ」
「任せて、お父様。イザベラは私がちゃんと守るわ」
アリアは偉ぶって、拳で己の胸をどんと突いた。
「屋敷は守りますわ。どうぞ、ご安心を」
イザベラも続く。
「頼んだよ」
ルミナスは不安そうにしつつ、頷き返す。
それは決して偽りではない、世間一般の幸せな家族像にしか見えなかった。
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