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第三章
意固地
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森雪は不気味に目を光らせ、酷薄に笑う。
「本当にやれってか」
「ええ」
「くそっ……」
決して知り得ることが出来なかったことが詳細に記された巻き物の、その先端が、吉森の後肛の入り口を突く。これを全て呑み込んでみせれば、もう何ら不安は起こらない。わかってはいたが、容易いことではない。指一本すら体内に入れるのにヒイヒイ喚いていたのだ。軟膏を塗り込めば、巻き物がぐちゃぐちゃに汚れて使い物にならない。やはり、乾いたままの状態でしか方法はない。せっかく、引き裂かれそうな痛みが引いたところだったのに。
「くっ……」
吉森は悔しさに噛んだ唇から血を滲ませた。森雪は無理だととうに承知で、ハナから配合を教えるつもりはないのだ、きっと。
「僕が教えたくないから、わざとこのようなことを強いているとお思いですか? 」
まるで見透かしたように森雪が問いかけてきた。
「簡単なことです。これを全部呑み込めば、辰屋は完全に兄さんのものになるんですよ」
病弱で大人しかった仮面が剥がれた今、森雪の顔は鬼にしか見えない。
「さあ、早く。じきに香都子が様子を見にやって来ますよ」
最早、怖気づいている場合ではなかった。覚悟を決めた吉森は、出来得る限り力を入れ、穴が大きく開くよう両方の指で襞を左右に引っ張った。歪に広がったそこへ、森雪が巻き物をそっと押す。
「くっ……ああ……」
無理に広げた道にじわじわと侵入する異物が、粘膜を傷つけた。縁が切れ、血の滴りを太腿の付け根に感じる。
「ひっ……い、痛……」
ようやく芯の出っ張りが潜った。それでも、まだまだ序の口だ。眦から涙が溢れ出す。ひりひりと火傷をしたように熱くて堪らない。
「もう泣きごとですか? 」
森雪は小馬鹿にしたように喉を鳴らす。
「どうします? もう諦めますか? 」
「い……やだ。つ、続け……」
「なかなか気が強い人ですね。では、行きますよ」
森雪が先程よりも強めに押して来た。
「ひああああ! 」
体が跳ね、背が仰け反る。
細道が形そのものに拡張した。鉛を呑み込んだかのように胃が重く、吐き気さえ催す。吉森は蒼白になり、顔を横向け、せり上がって来た胃液を口端から漏らして敷布を汚す。
「はっ……ああ……」
もう駄目だ。気持ち悪い。無理だ。見世物小屋の住人ではあるまいし、一介の薬屋に出来るわけがない。吉森はいやいやと首を横に振った。
「残り半分ですよ。それなのに、一生を棒に振るのですか? 」
森雪は煽ってくる。
「俺の……ことが嫌……いな……ら、そう……言え……よ。こ……こんな……真似……させ……て……」
「恐ろしいくらい可愛くて馬鹿だな、あなたは。普段、偉そうに振る舞っている兄さんを、こんなふうに苛めて泣かせてやりたいだけなんですよ。僕は」
「とことん……底意地……悪い……や……つ」
「そういう憎まれ口が、ぞくぞくきますね」
「へ、変……態……」
「もっと聞きたいな」
ぼろぼろと途切れることのない涙を森雪は舌先で掠め取ると、扇情的に微笑する。長い睫毛がしばたく。春画のような危うさを持ち、薬屋の跡取り候補に留めておくには惜しい美貌だ。
「さあ、兄さん。頑張って」
白く細長い指が、垂れた吉森の鼻水を拭う。
森雪の稀有な色気にあてられた吉森は思わず頷いていた。
「はあ……んん……」
女のように悦びに打ち震え、ぞっとするほど甲高い声を漏らし、身も心も作りかえられていくような気さえする。全てを呑み込み終えたとき、吉森の意識は限界にきていた。
次第に暗転していく視界の、最後に見たのは森雪の不安そうに覗き込んできた二つの目玉だ。
「本当にやれってか」
「ええ」
「くそっ……」
決して知り得ることが出来なかったことが詳細に記された巻き物の、その先端が、吉森の後肛の入り口を突く。これを全て呑み込んでみせれば、もう何ら不安は起こらない。わかってはいたが、容易いことではない。指一本すら体内に入れるのにヒイヒイ喚いていたのだ。軟膏を塗り込めば、巻き物がぐちゃぐちゃに汚れて使い物にならない。やはり、乾いたままの状態でしか方法はない。せっかく、引き裂かれそうな痛みが引いたところだったのに。
「くっ……」
吉森は悔しさに噛んだ唇から血を滲ませた。森雪は無理だととうに承知で、ハナから配合を教えるつもりはないのだ、きっと。
「僕が教えたくないから、わざとこのようなことを強いているとお思いですか? 」
まるで見透かしたように森雪が問いかけてきた。
「簡単なことです。これを全部呑み込めば、辰屋は完全に兄さんのものになるんですよ」
病弱で大人しかった仮面が剥がれた今、森雪の顔は鬼にしか見えない。
「さあ、早く。じきに香都子が様子を見にやって来ますよ」
最早、怖気づいている場合ではなかった。覚悟を決めた吉森は、出来得る限り力を入れ、穴が大きく開くよう両方の指で襞を左右に引っ張った。歪に広がったそこへ、森雪が巻き物をそっと押す。
「くっ……ああ……」
無理に広げた道にじわじわと侵入する異物が、粘膜を傷つけた。縁が切れ、血の滴りを太腿の付け根に感じる。
「ひっ……い、痛……」
ようやく芯の出っ張りが潜った。それでも、まだまだ序の口だ。眦から涙が溢れ出す。ひりひりと火傷をしたように熱くて堪らない。
「もう泣きごとですか? 」
森雪は小馬鹿にしたように喉を鳴らす。
「どうします? もう諦めますか? 」
「い……やだ。つ、続け……」
「なかなか気が強い人ですね。では、行きますよ」
森雪が先程よりも強めに押して来た。
「ひああああ! 」
体が跳ね、背が仰け反る。
細道が形そのものに拡張した。鉛を呑み込んだかのように胃が重く、吐き気さえ催す。吉森は蒼白になり、顔を横向け、せり上がって来た胃液を口端から漏らして敷布を汚す。
「はっ……ああ……」
もう駄目だ。気持ち悪い。無理だ。見世物小屋の住人ではあるまいし、一介の薬屋に出来るわけがない。吉森はいやいやと首を横に振った。
「残り半分ですよ。それなのに、一生を棒に振るのですか? 」
森雪は煽ってくる。
「俺の……ことが嫌……いな……ら、そう……言え……よ。こ……こんな……真似……させ……て……」
「恐ろしいくらい可愛くて馬鹿だな、あなたは。普段、偉そうに振る舞っている兄さんを、こんなふうに苛めて泣かせてやりたいだけなんですよ。僕は」
「とことん……底意地……悪い……や……つ」
「そういう憎まれ口が、ぞくぞくきますね」
「へ、変……態……」
「もっと聞きたいな」
ぼろぼろと途切れることのない涙を森雪は舌先で掠め取ると、扇情的に微笑する。長い睫毛がしばたく。春画のような危うさを持ち、薬屋の跡取り候補に留めておくには惜しい美貌だ。
「さあ、兄さん。頑張って」
白く細長い指が、垂れた吉森の鼻水を拭う。
森雪の稀有な色気にあてられた吉森は思わず頷いていた。
「はあ……んん……」
女のように悦びに打ち震え、ぞっとするほど甲高い声を漏らし、身も心も作りかえられていくような気さえする。全てを呑み込み終えたとき、吉森の意識は限界にきていた。
次第に暗転していく視界の、最後に見たのは森雪の不安そうに覗き込んできた二つの目玉だ。
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