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必死の抵抗

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「よ、寄らないで! 」
「隊長の運命を握っているのは、あなたですよ」
 はっとレイノリアは動きを止める。
「そう。いい子だ。そうでなくては」
 満足そうにデイビスは口角を吊り上げた。
 うっとレイノリアは吐き気を催し、食道からせり上がる胃液を堪える。
 押し付けられたデイビスの唇は妙にネバついている。
 ライナードへ仕掛けたキスとは比べ物にならない。
 ライナードの荒れた感触を思い出し、眦に涙が浮かんだ。
「キスくらいで、そんな悲しそうな目を。それ以上となると、どのような顔をしますかね。ああ。楽しみだ」
 一旦口を離したデイビスは、レイノリアの顎を指で摘まんで上を向かせる。
 舌まで入れられたら堪らない。奥歯を噛み締め侵入を阻むと、挑む目つきで睨みつける。
 それに対するデイビスの反応といえば、酷薄な笑い方。
「私は心が広いですからね。そんな顔をされたくらいでは、怒りませんよ。なあに、すぐに気持ち良くさせますから」
 デイビスの手が近づき、レイノリアのカッターシャツの釦に指先が絡む。
 ぎくり、とレイノリアの頬が引き攣った。
「い……嫌だ! 」
「おとなしくしなさい」
「嫌だ! 」
 体まで許すつもりはない。
 抱かれてもいいと思える相手は、隊長だけだ。
 レイノリアは手を振り乱して抵抗する。
 デイビスの頬に拳をぶちかましてやろうと試みたが、空振りした。仕置きと称して、さらに手を頭上で捻り上げられ、あっけなく両手の動きを阻止されてしまう。
 だが、まだ足が残っている。手が駄目なら足がある。騎士たる者、いかなる場合であろうと諦めない。ぎりぎりまで可能性を模索する。骨の髄まで叩きこまれている信念だ。レイノリアは素早くその信念を実行に移した。
 右足をくの字に曲げ、すぐさま大きく伸ばした。足裏に重みを感じる。完璧にデイビスの鳩尾に蹴りが入った。
 ぐうっと、獣の断末魔のような呻きを上げ、デイビスは真後ろに吹っ飛んだ。背中を壁に叩きつけられて、ずるずると崩れ落ちる。
 今だ。隙を逃さず、ようやく手に入れた自由の体で、レイノリアは一直線に玄関扉へと駆けた。シャツのボタンをなおしている場合ではない。前が捲れ上がったまま三和土へ。ドアノブに指先が届く。あと少し。
 だが、がくりと膝が折れ、四つん這いになってしまい、指先がノブから離れた。
 必死の形相のデイビスが、逃すまいと両足首を掴んできたのだ。
 再びレイノリアの体は部屋へと引き戻された。
 それでも諦めるものかと、レイノリアは足首を動かして振り払おうともがく。
 デイビスも逃すつもりはない。片手がレイノリアのシャツの裾に掛かった。
「この女! 」
 デイビスが咆哮を上げた。
 抵抗すればするほど、シャツの生地が揉みくちゃになり、釦が弾けて飛んだ。生地が引き裂かれ、開いたシャツの中から、日に焼けた素肌が剥き出した。そこへ、容赦なくデイビスの手が伸びてくる。
 このままでは犯られる。
 デイビスは、レイノリアの体を手に入れることだけに意識を集中させている。
 デイビスの目は尋常ではない。
「隊長! 」
 レイノリアは、ここに来るはずのない男の名を呼んだ。
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