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冥土の土産
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「な、何故だ」
ヴィスコックは呻いた。
「何故、狙われているとわかっていながら、そのようなことを」
いつ、銃をぶっ放されるやも知れない状況で、無防備な格好を晒すなど。
ロイはニヤニヤしながら、ドアへと目線をずらした。
ロイとてバカではない。
みすみすマチルダに危険が及ぶ真似はしない。
ちゃんと見張りの警官を複数名、昨日の昼間から交代で廊下に待機させている。何か妙な動きをすれば、迷いなくヴィスコックを撃てと署長から命令が下されていた。
おそらく今は、マチルダの喘ぎ声によって、トラウザーの前を押さえ込んで仕事をこなせない状態だろうが。
「冥土の土産だ」
ロイは持参したワインのコルクを抜いた。
「マチルダほどの蠱惑的な女の裸体など、早々に拝めないだろ」
グラスに注ぎ終えると、目線の高さに掲げてみせる。
「ふ、ふざけるな! 」
ヴィスコックはいきりたち、さらにこめかみの筋を濃くした。
「と言いつつ、最早、イメルダには何の魅力も感じていないはずだ」
ロイは指摘する。
確信があった。
マチルダの魅力に気づいた者は、ズブズブとその沼に嵌り込んでしまう。自分がそうだったように。
その沼に嵌らないのは、ローレンスやジョナサンといった、妻を異常なくらいに溺愛している野郎か、もしくはカイルのように男しか恋愛対象にならない輩のみ。
「雇用主と使用人の恋愛は罪。家令の立場にありながら易々と破るくらい、イメルダは良い女か? 違うだろう? 最早、大いなる勘違いだと、お前もわかっているはずだ」
イメルダの魅力は、彼女自らが作り出した虚像に過ぎない。妹の評判を落とせば落とすほど得られるそれは、実質は世間の評価と大きくかけ離れている。
女王蜂はそのことに気づかせないだけだ。巧みな演技で、本質から目を背けさせる。
ヴィスコックは今、おそらく猛毒が体から抜けそうになっている。
ロイは見破った。
「イメルダに殺れと命じられたんだな」
「そうだ」
ヴィスコックは認めた。
「私の命もか」
「そうだ」
またしてもヴィスコックは認める。
否定しようとすらしない。半ば、自棄になっていた。
「お前の命を奪えば、氷の悪女は再起不能になる」
「私の倉庫を狙った理由もそれか」
「ああ。お前が財産を失えば、悪女は路頭に迷う」
「全てはマチルダを陥れるためか」
「そうだ」
マチルダを陥れるためなら、どのような手間も惜しまない。イメルダの、マチルダへの憎悪は異常でしかない。
マチルダが必要以上に謙虚であるから、余計に腹立たしかったのだろう。
自分の欲しいもの全てを持ち合わせているくせに、その魅力に少しも気づいていない。
積み重なった憎悪は、マチルダの結婚が引き金となり、とうとう爆発した形だ。
ヴィスコックは呻いた。
「何故、狙われているとわかっていながら、そのようなことを」
いつ、銃をぶっ放されるやも知れない状況で、無防備な格好を晒すなど。
ロイはニヤニヤしながら、ドアへと目線をずらした。
ロイとてバカではない。
みすみすマチルダに危険が及ぶ真似はしない。
ちゃんと見張りの警官を複数名、昨日の昼間から交代で廊下に待機させている。何か妙な動きをすれば、迷いなくヴィスコックを撃てと署長から命令が下されていた。
おそらく今は、マチルダの喘ぎ声によって、トラウザーの前を押さえ込んで仕事をこなせない状態だろうが。
「冥土の土産だ」
ロイは持参したワインのコルクを抜いた。
「マチルダほどの蠱惑的な女の裸体など、早々に拝めないだろ」
グラスに注ぎ終えると、目線の高さに掲げてみせる。
「ふ、ふざけるな! 」
ヴィスコックはいきりたち、さらにこめかみの筋を濃くした。
「と言いつつ、最早、イメルダには何の魅力も感じていないはずだ」
ロイは指摘する。
確信があった。
マチルダの魅力に気づいた者は、ズブズブとその沼に嵌り込んでしまう。自分がそうだったように。
その沼に嵌らないのは、ローレンスやジョナサンといった、妻を異常なくらいに溺愛している野郎か、もしくはカイルのように男しか恋愛対象にならない輩のみ。
「雇用主と使用人の恋愛は罪。家令の立場にありながら易々と破るくらい、イメルダは良い女か? 違うだろう? 最早、大いなる勘違いだと、お前もわかっているはずだ」
イメルダの魅力は、彼女自らが作り出した虚像に過ぎない。妹の評判を落とせば落とすほど得られるそれは、実質は世間の評価と大きくかけ離れている。
女王蜂はそのことに気づかせないだけだ。巧みな演技で、本質から目を背けさせる。
ヴィスコックは今、おそらく猛毒が体から抜けそうになっている。
ロイは見破った。
「イメルダに殺れと命じられたんだな」
「そうだ」
ヴィスコックは認めた。
「私の命もか」
「そうだ」
またしてもヴィスコックは認める。
否定しようとすらしない。半ば、自棄になっていた。
「お前の命を奪えば、氷の悪女は再起不能になる」
「私の倉庫を狙った理由もそれか」
「ああ。お前が財産を失えば、悪女は路頭に迷う」
「全てはマチルダを陥れるためか」
「そうだ」
マチルダを陥れるためなら、どのような手間も惜しまない。イメルダの、マチルダへの憎悪は異常でしかない。
マチルダが必要以上に謙虚であるから、余計に腹立たしかったのだろう。
自分の欲しいもの全てを持ち合わせているくせに、その魅力に少しも気づいていない。
積み重なった憎悪は、マチルダの結婚が引き金となり、とうとう爆発した形だ。
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