【完結】華麗なるマチルダの密約

氷 豹人

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甘い時間は永遠に2

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「ま、まさか、君。まさか」
「何? 」
「まさか、私の目を盗んで男娼を買おうとしてるんじゃなかろうな? 」
 ロイは大袈裟に両手を広げ、マチルダに迫った。
 マチルダはがっくりと肩を落とす。
「どんな思考をしたら、そう飛躍出来るの? 」
「おい! 否定しなかったな! 」
「呆れて、出来なかったのよ」
「わ、私は君を毎晩可愛いがっているではないか! 駄目なのか? あれでは、まだ物足りないないのか? 」
「ちょ、ちょっと。ロイ」
「抜かずの五連発は、まだ不満か? それなら今夜は、その倍に挑戦してやる」
 などと拳を震わせ、脇目もふらず宣言する。
 マチルダはズキズキとこめかみが疼いた。
「おいおい、絶倫野郎。さすがにそれは死ぬぞ」
 ロイが本気と知るや、ミハエルが苦笑いで止めた。
「は、恥知らず! 人前で大声で喋る内容ではなくてよ! 」
 夫婦がどのような夜を過ごしているか筒抜けになって、カーッとマチルダの血圧が上昇する。
「確かに奥さんの言う通りだ」
「だから、お前は黙っていろ」
 またしても横入りするミハエルにロイは舌打ちすると、続いてマチルダの両肩を掴むや思い切り揺さぶった。
「マチルダ。私の何が不満だ? もしや、夜だけでは足りないのか? それなら、仕事先にも君を連れて、休憩の合間に励むから」
「おいおい。ケジメはつけろ」
「うるさい」
 ロイは必死だ。
 マチルダを満足させる、あらゆる手段を捻り出してくる。
「マチルダ。君を満足させるためなら、何でもする。また湖畔でするか? そろそろ肌寒くなってきたが、それを忘れさせるくらい熱く交われば良いだけだからな」
「お前らも、なんだかんだと激しいな」
「黙ってろ」
 呆れ果てたミハエルを、ロイは早口で遮る。
「アークライトのように、三日三晩、君をベッドから出させない。だから、男娼なんて買うな。買わないでくれ」
 片膝をつき、祈りを捧げるポーズまで。
 本気なのか冗談なのか、最早、わからない。
「この、底抜けのバカ! 」
 ついにマチルダの堪忍袋の緒が切れた。
「わ、私が男娼を買うと誰が言いました!? 」
 耳から湯気を吹かんばかりに顔を真っ赤にして、唾を飛ばす。あんまりむかついて、まだ娼婦が眠っていると言うことも忘れて、だんだんと床を踏み締める。
「ベラベラベラと。よくも、大っぴらに閨のあれこれを! 」
 そのあまりの剣幕に、ロイもようやく失言に気付いたらしい。
 ふらふらと足取り悪く、ソファに座り込むや、叱りつけられたら子供のようにしょんぼりと項垂れた。
 かつて界隈で鳴らしたプレイボーイは、どこにもいない。

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