【完結】シンデレラの姉は眠れる森の騎士と偽装結婚する

氷 豹人

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誘惑の夜 ※R18

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 時計の長針と短針が重なる時刻。
 ヒルダは、金色のドアノブを捻ると、音を立てずに室内に滑り込んだ。
 暗がりの中、規則的な呼吸音と、秒針の微かな音がいやに大きい。
 初めて見るルパートの寝室は、高級なマホガニーの、二人並んで寝ても確実に余地のある大きなベッドが中央に、傍らにサイドテーブルが配置されていた。特注品なのか、デラクール家の紋章の睡蓮が象られている。
 絨毯やカーテン、壁紙に至るまで、青を基調に統一されている。
 ヒルダはそれらを素早く観察しつつ、足音に気遣いながら中央を目指した。
 ベッド間際まで来たとき、ヒルダは羽織っていたローブの紐を解き、肩からするりと足元へ滑り落とした。
 エレナが買い付けた、際どいデザインの下着姿が剥き出しになる。
 ヒルダはそのまま、息を殺してベッド脇まで向かった。

 睫毛が長い。
 髪と同じ、青みがかっている。
 いつもは髪を整えているが、今は無造作に崩れ、少年らしい若々しささえ残っていた。
 薄い唇は、相変わらず凛々しく引き締まっている。
 ヒルダは無性に、その日焼けした頬を輪郭に沿って撫でてみたい衝動に駆られたが、ぐっと堪え、美しい寝顔を堪能するにとどめた。
 更に、彼をよく見ようと、覗き込んだときだった。

「……!」

 殺気を感じ、咄嗟に後ろへ飛び退いた。
 その判断は、正解だった。
 ヒルダの喉元すれすれに、短刀の刃先が突きつけられていたからだ。
 もし、あのまま察知せず、ぼんやりしていたなら、今頃は喉首を掻き切られていたことだろう。
「何者だ」
 仰臥し、瞼を伏せたまま、極めて冷静にルパートが尋ねた。
「俺の寝首を取ろうとしたようだが。甘かったな」
 さらに刃先が立ち、ヒルダの喉に細く赤い筋を引いた。
 ヒルダは唾を飲み下した。
「誰の命令だ」
 ルパートは語気を強める。
「言え」
 ぞっとするほど冷たい声。
 特務師団団長は、伊達ではない。
「ち、違うんです」
 ルパートにとって、予想外の声であったことは確かだ。
 たちまち、カッと目を見開くや、飛び起きる。バサバサと髪が乱れていた。
 喉元の短刀を戻すその様は、いつになく動揺を隠そうともしない。
「ヒルダ、何故ここに?」
「そ、それは」
 まさか、夜這いに来たなどと易々口に出来るわけもなく、ヒルダは首まで真っ赤になって俯く。 
「その格好は、どうした?」
 さらにルパートが畳み掛ける。
 ますますヒルダは俯くしかなかった。
「……成程な」
 そんなヒルダに、ルパートは何かを察したらしく、ニタリと口元を吊り、人の悪い笑みを作った。
「さては、エレナの入れ知恵だな」
 ルパートには、ヒルダの心の内は筒抜けだった。
 ヒルダは羞恥の極みで、ますます顔は熱を持ち、眦から溢れる涙を堪え切れなかった。俯いたきり、両方で拳を握り込んで、ぶるぶる肩を震わせる。
「来い」
「きゃっ」
 いきなり手を引かれたかと思えば、ベッドに仰向けに倒されていた。
 後背に、スプリングのよく効いた、柔らかな感触。
 ルパートはヒルダの顔を挟むかのようにベッドに手をつき、真上から覗き込んだ。
 まともに視線がぶつかり、ヒルダは顔を背ける。
「叔父上の愛人に嫉妬したのか?」
「……あれほど美しい方を前に、冷静でいられるわけありません」
「穿った見方をするな」
 不適な笑みを浮かべたまま、薄い布切れ一枚の胸元に目線を落とす。
「しかし、かなり刺激の強い姿だな」
「町では、これが流行っていると」
「まったく。今時の若い娘には困ったものだな」
 作戦は失敗だ。
 情緒もへったくれもない。
 ルパートを誘惑どころか、危うく喉を切られそうになり、その後は冷静に状況を分析されて。
 あまりにも居た堪れなくなり、ヒルダは一刻も早くこの場を去りたかった。
「では、その健気な企みに乗ってみるか」
 ルパートの目つきが変わった。
 つい今しがたまで、呆れたような、慈しむような、妙に生ぬるい眼差しだったというのに。
 明らかに、雄の顔つきになった。
「ひっ」
 ヒルダの喉がひくつく。
 本能が、危険だと訴えていた。
 目の前にいるのは、獲物に齧りつこうと牙を剥き出しにする獣だ。
「や、やめて」
 夜這いに来たくせに、怖気づいて逃げようとするヒルダ。
 勿論、ルパートは許さない。
「今更、逃げるつもりか?」
 いつもなら見下すようにニタリと笑う彼だが、今夜は違う。
 身じろぎするヒルダを逃すまいと、手首を押さえつけ、足を絡めて、がっちりと拘束する。
 いやいや、と首を横に振るヒルダを、批難がましく見下ろす。
 ヒルダは息を呑んだ。
 改めて、ルパートの蠱惑を認識する。
 カーテンの隙間から差し込む月の光に横顔を照らされ、いつも以上に色気が増幅され、柑橘系の匂いが鼻腔を刺激する。
 たちまちヒルダの全身を震えが駆け抜ける。
「あっ……」
 太腿を節張った指が行き来したかと思えば、臍の下を弄り、ショーツの中へ入り、前触れなく深淵を割って体内に侵入した。
「い、いや……あっ」
 小さな抵抗は、すぐに誘いの甘さへ変わる。
 ルパートの双眸の虜にされたヒルダの体は、性急な進入を嫌がるどころか、むしろ、待ち構えてさえいた。
 快感を取り込もうと、粘膜が蠢いて、ルパートの指を締め付ける。
 すっかり慣らされた太腿の間からは、すでにぬらぬらと光る糸が滴り、ショーツの生地越しに、シーツをぐっしょりと濡らす。
 指が二本、三本と増やされるうち、ヒルダは喉を鳴らし、睫毛を瞬かせる。
「この下着は、今宵限りで勘弁してくれ」
 言いながら、ルパートは片方の手で薄い生地を取り払い、ヒルダの乳房を露にする。
「俺の忍耐が保たない」
 ずるり、と指が引き抜かれた。指先が糸を引く。
 器用に片手でショーツの紐を解く。
 ぐっしょりとした滴り。深淵の奥を弄られ過ぎて、ぷっくりとした膨らみが、今か今かと打ち震えている。
 子宮が収縮するたびに、深淵も同じ動きで疼く。
「ルパート様、早く」
 初めての刺激が蘇る。
 全身が欲していた。
 ルパートは目元を赤らめ、口中で何事か呟くと、いきなり灼熱の塊を蜜まみれの深みに押し入った。
「あっ…あ……」
 火傷しそうに熱い、熱くて堪らない。
 ずっと待ち焦がれた灼熱をもっと奥へ取り込もうと壁がうねり、喰んで、締め付ける。
「くそっ。ヒルダ」
 苦しそうに名を呼ばれ、続いた呻き。
 子宮口まで届いた塊は、律動をどんどん速め、内壁を激しく擦る。
 律動のたびにベッドが軋んだ音を上げ、上下に跳ねた。
 そのたびに、嬌声が散る。
 ヒルダは振り落とされまいと、必死にルパートにしがみつく。
 ルパートも、ヒルダを離すまいと、強く抱きしめた。
 密着した二人は、そのまま空が白く色が変わるまで離れることはなかった。

 扉の隙間から伺っていたその人物は、激しい情事にこの上ない罵りを吐き、舌打ちすると、素早くその場から離れた。




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