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蕎麦屋九庵の前まで来ると、喉を焼く程の熱風が全身に吹き掛かる。思わず顔を歪め足を止めた俺とは対照的に、煙の彼方にいる他の隊員は物怖じせず破壊斧を振り回している。
「畜生おおおお!」
拳で己の胸をドンと叩いて気合いを一発。
「そこ、気をつけろ!天井が崩れる!」
珍しく鉄仮面が、遅れて入ってきた俺に向かって声を張り上げる。男臭い、野太い声だ。
直後、剥がれ落ちた天井が、足先ギリギリ十センチ手前で轟音を上げた。
危なかった。
もし鉄仮面の声がなければ、確実に瓦礫の下にあっただろう。
炎の手は今にも天井板を取り込まんばかりに広がりをみせ、剥き出しの梁は黒く焦げている。隊長らは奥へ奥へと進み、その先にある扉のノブを慎重に捻る。
扉が開いた場合を想定して、死角になる部分に慌てて身を隠した。日浦さんと鉄仮面も同じように屈んで、来るであろう爆発の衝撃に備えた。
「行くぞ!」
隊長の掛け声と共に開いた扉から、炎の塊が外にけたたましい音を上げて一気に爆風共々噴き出す。風圧で、体がよろめいた。直撃は避けたが、灼熱と化した煙が燻り、体力を奪う。熱くて堪らない。
「よし!」
ある程度の様相を鑑みて、隊長を筆頭に中に入る。扉の先は住居となっており、四畳半の和室の中央に卓袱台が置かれ、その上には蛍光灯が今にも落下しそうに大きく左右に揺れている。
「誰かいるか、返事しろ!」
日浦さんが緊迫した声を通らせ、しきりに辺りを注意深く睨みつけては、まだ見ぬ要救助者の姿を捜す。
誰かに呼ばれた気がしてふと顔を上げた。
喉奥で息が詰まる。
天井板が僅かにずれ、そこから白い煙が細く漏れていた。子供一人分なら通り抜けられる隙間。第六感が働いた。
卓袱台に飛び乗った俺は、背伸びして天井の板を外す。ベニヤの薄さで、簡単に板が剥がれた。白い手首が垂れ下がった。
「いた!」
手首を掴むや、一気に引き摺り落とす。
途端、急激に重みが掛かって、足元がぐらつき、卓袱台に乗った踵が滑って、尾てい骨を畳に打ち付けた。
「要救助者、発見!」
叫ぶ俺の言葉に、隊員らが一斉に駆け寄ってきた。
胸の中の重みは、まだ小学生の少女だ。
逃げる際に煙をたっぷりと吸いこんだため、意識がない。
「何だって、こんなところに」
「おそらく、気が動転して、とにかく煙のないところへと思ったのかも」
俺の疑問に日浦さんが憶測を重ねる。
「もう大丈夫だ。俺達が来たからな」
隊長は意識のない少女の頭をぐしゃぐしゃに撫で回すと、俺の胸から少女の体を奪い、ひょいと軽々抱え上げる。
「頑張れ、もうすぐだ」
混濁する意識と戦う少女を励ましながら、隊長は出口を目指す。
ポンプ隊が作りあげた進入路は、なおも勢いを増す炎によって行く手を阻み、救出者を閉じ込めようとする。
「大丈夫ですか!」
キャフスを抱えた橋本さんが飛び込んできた。
「俺達は大丈夫だ。こいつを援護してくれ」
隊長から指示を受けた橋本は、震えの止まらない俺に大きく舌打ちを投げつける。
「面倒かけんなよ」
燃え盛る炎の轟く空間の中、鼓膜がミシミシという音を捉えた。
あっと目を見開く俺の腕を凄まじい力で引いた橋本のお陰で、間一髪で天井の下敷きになる災難を逃れた。
今にも触手を伸ばして体を呑み込まんとする炎に、橋本が筒先を構える。
泡と水の混じる柱が、またもや崩れ落ちる天井に向いた。
瞬間、炎の塊となる。
「うわあっ!」
悲鳴を上げるなり、俺のは一足飛びで崩れ落ちる天井から退いた。
先程と同じ光景だ。水を掛けて発火する。火種になるようなものは見当たらない。たかだか天井の板だ。
「死にたいんか、ボケ!」
口をあんぐりと開いたままその場に突っ立ってしまった俺に罵声を浴びせると、橋本は拳骨を一発脳天にぶちかましてきた。容赦ないな。出口へと走り出す。
「くそーっ、馬鹿力が」
手加減なしに殴りつけられて、あまりの痛みで目がちかちかした。
「早よ来い!」
「は、はい!」
すぐさま、ぶるぶると首を横に振ると、意識を退避することのみに集中させた。
「畜生おおおお!」
拳で己の胸をドンと叩いて気合いを一発。
「そこ、気をつけろ!天井が崩れる!」
珍しく鉄仮面が、遅れて入ってきた俺に向かって声を張り上げる。男臭い、野太い声だ。
直後、剥がれ落ちた天井が、足先ギリギリ十センチ手前で轟音を上げた。
危なかった。
もし鉄仮面の声がなければ、確実に瓦礫の下にあっただろう。
炎の手は今にも天井板を取り込まんばかりに広がりをみせ、剥き出しの梁は黒く焦げている。隊長らは奥へ奥へと進み、その先にある扉のノブを慎重に捻る。
扉が開いた場合を想定して、死角になる部分に慌てて身を隠した。日浦さんと鉄仮面も同じように屈んで、来るであろう爆発の衝撃に備えた。
「行くぞ!」
隊長の掛け声と共に開いた扉から、炎の塊が外にけたたましい音を上げて一気に爆風共々噴き出す。風圧で、体がよろめいた。直撃は避けたが、灼熱と化した煙が燻り、体力を奪う。熱くて堪らない。
「よし!」
ある程度の様相を鑑みて、隊長を筆頭に中に入る。扉の先は住居となっており、四畳半の和室の中央に卓袱台が置かれ、その上には蛍光灯が今にも落下しそうに大きく左右に揺れている。
「誰かいるか、返事しろ!」
日浦さんが緊迫した声を通らせ、しきりに辺りを注意深く睨みつけては、まだ見ぬ要救助者の姿を捜す。
誰かに呼ばれた気がしてふと顔を上げた。
喉奥で息が詰まる。
天井板が僅かにずれ、そこから白い煙が細く漏れていた。子供一人分なら通り抜けられる隙間。第六感が働いた。
卓袱台に飛び乗った俺は、背伸びして天井の板を外す。ベニヤの薄さで、簡単に板が剥がれた。白い手首が垂れ下がった。
「いた!」
手首を掴むや、一気に引き摺り落とす。
途端、急激に重みが掛かって、足元がぐらつき、卓袱台に乗った踵が滑って、尾てい骨を畳に打ち付けた。
「要救助者、発見!」
叫ぶ俺の言葉に、隊員らが一斉に駆け寄ってきた。
胸の中の重みは、まだ小学生の少女だ。
逃げる際に煙をたっぷりと吸いこんだため、意識がない。
「何だって、こんなところに」
「おそらく、気が動転して、とにかく煙のないところへと思ったのかも」
俺の疑問に日浦さんが憶測を重ねる。
「もう大丈夫だ。俺達が来たからな」
隊長は意識のない少女の頭をぐしゃぐしゃに撫で回すと、俺の胸から少女の体を奪い、ひょいと軽々抱え上げる。
「頑張れ、もうすぐだ」
混濁する意識と戦う少女を励ましながら、隊長は出口を目指す。
ポンプ隊が作りあげた進入路は、なおも勢いを増す炎によって行く手を阻み、救出者を閉じ込めようとする。
「大丈夫ですか!」
キャフスを抱えた橋本さんが飛び込んできた。
「俺達は大丈夫だ。こいつを援護してくれ」
隊長から指示を受けた橋本は、震えの止まらない俺に大きく舌打ちを投げつける。
「面倒かけんなよ」
燃え盛る炎の轟く空間の中、鼓膜がミシミシという音を捉えた。
あっと目を見開く俺の腕を凄まじい力で引いた橋本のお陰で、間一髪で天井の下敷きになる災難を逃れた。
今にも触手を伸ばして体を呑み込まんとする炎に、橋本が筒先を構える。
泡と水の混じる柱が、またもや崩れ落ちる天井に向いた。
瞬間、炎の塊となる。
「うわあっ!」
悲鳴を上げるなり、俺のは一足飛びで崩れ落ちる天井から退いた。
先程と同じ光景だ。水を掛けて発火する。火種になるようなものは見当たらない。たかだか天井の板だ。
「死にたいんか、ボケ!」
口をあんぐりと開いたままその場に突っ立ってしまった俺に罵声を浴びせると、橋本は拳骨を一発脳天にぶちかましてきた。容赦ないな。出口へと走り出す。
「くそーっ、馬鹿力が」
手加減なしに殴りつけられて、あまりの痛みで目がちかちかした。
「早よ来い!」
「は、はい!」
すぐさま、ぶるぶると首を横に振ると、意識を退避することのみに集中させた。
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