【完結】失恋した消防士はそのうち陥落する

氷 豹人

文字の大きさ
54 / 56

54 ※

しおりを挟む
「勤務を終えたら、俺んところへ真っすぐ来い」
 帰宅は許されなかった。
 部屋を訪れるなり、橋本はしみじみと言ってのけた。
「今回のことで思い知ったわ。大事なもんは、しっかり掴んでおかなあかんて」
 整った容貌に暗い影が落ち、酷く淫靡な雰囲気を作りあげている。いつになく色っぽい。
 橋本は、歩幅を大きくさせて近寄ると、やや腰を屈めて耳元で囁く。
「逃げるチャンスは何度も作ってやったんや。そやのに、お前は一度も俺から逃げへんだ」
 逃げるも何も、同じ署で、しかも同じ隊で、ほぼ毎日顔を突き合わすのだ。橋本は都合のいいように己の中で話を進めてしまっている。頭が痛くなってきた。
 俺の心の内は届いてないらしい。
 あんなに、なりふり構わず、人の目を気にせず、抱きしめたのに。
「好きだって解釈してええんか?」
「本気で言ってます?」
「当たり前やろうが」
「……鈍感」
「何やと?」
 鈍感は、鈍感だよ。何で通じてないかな。普段は察しいいくせに。何だって肝心な時にその頭は使いもんにならないかな。
「よし。お前、服脱げ」
「へっ?」
 突然何を言い出すんだ、この人。
「俺に抱かれりゃあ、嫌でも白黒はっきりするやろ」
 だから、もう、白黒出てるってば。
 言いながら、すでに橋本はシャツを脱いで、上半身を晒している。鍛え抜かれた筋肉の隆起は素晴らしく、まるで彫刻を彷彿させた。日に焼けた素肌は褐色で、惚れ惚れする様に拍車をかけている。
 その類稀なる造形に見惚れ、油断しているうちに、床に敷いた紺のラグに押し倒されていた。インナーのシャツが胸元まで捲り上げられ、おもむろに胸板を舐られる。
「これからは容赦しねえ」
 耳元を掠めた吐息に、低い声が混じった。
 正面に凛と整う顔。
 彼の前髪が鼻先にぱらりと落ち、くすぐった。腕を伸ばし、橋本はテレビ台の一番下の引き出しを探っている。その間にも首筋に痕を残すことを忘れない。
 こいつ。結局、それしか頭にないのか?
 五センチほどの正方形の包みを、橋本が八重歯で破る。
 途端に溢れ出す透明のジェル状の液体が千切れたパッケージから滴る。それを片方の掌で受け止めたとき、長い指先にねっとりと絡みついた。
 何故だか酷く淫猥なものを見てしまった気になり、赤面する。
 橋本は粘り気のある液を俺の後肛に塗り付けた。
「自分でやってみせろ」
「え?」
「真也」
「冗談でしょ」
「頼む」
 真也、ともう一度、耳元で囁く。
 悪い誘い。この重低音には弱い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」 王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。 冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、 なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。 誰に対しても一切の温情を見せないその男が、 唯一リクにだけは、優しく微笑む―― その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。 孤児の少年が踏み入れたのは、 権謀術数渦巻く宰相の世界と、 その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。 これは、孤独なふたりが出会い、 やがて世界を変えていく、 静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...