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「勤務を終えたら、俺んところへ真っすぐ来い」
帰宅は許されなかった。
部屋を訪れるなり、橋本はしみじみと言ってのけた。
「今回のことで思い知ったわ。大事なもんは、しっかり掴んでおかなあかんて」
整った容貌に暗い影が落ち、酷く淫靡な雰囲気を作りあげている。いつになく色っぽい。
橋本は、歩幅を大きくさせて近寄ると、やや腰を屈めて耳元で囁く。
「逃げるチャンスは何度も作ってやったんや。そやのに、お前は一度も俺から逃げへんだ」
逃げるも何も、同じ署で、しかも同じ隊で、ほぼ毎日顔を突き合わすのだ。橋本は都合のいいように己の中で話を進めてしまっている。頭が痛くなってきた。
俺の心の内は届いてないらしい。
あんなに、なりふり構わず、人の目を気にせず、抱きしめたのに。
「好きだって解釈してええんか?」
「本気で言ってます?」
「当たり前やろうが」
「……鈍感」
「何やと?」
鈍感は、鈍感だよ。何で通じてないかな。普段は察しいいくせに。何だって肝心な時にその頭は使いもんにならないかな。
「よし。お前、服脱げ」
「へっ?」
突然何を言い出すんだ、この人。
「俺に抱かれりゃあ、嫌でも白黒はっきりするやろ」
だから、もう、白黒出てるってば。
言いながら、すでに橋本はシャツを脱いで、上半身を晒している。鍛え抜かれた筋肉の隆起は素晴らしく、まるで彫刻を彷彿させた。日に焼けた素肌は褐色で、惚れ惚れする様に拍車をかけている。
その類稀なる造形に見惚れ、油断しているうちに、床に敷いた紺のラグに押し倒されていた。インナーのシャツが胸元まで捲り上げられ、おもむろに胸板を舐られる。
「これからは容赦しねえ」
耳元を掠めた吐息に、低い声が混じった。
正面に凛と整う顔。
彼の前髪が鼻先にぱらりと落ち、くすぐった。腕を伸ばし、橋本はテレビ台の一番下の引き出しを探っている。その間にも首筋に痕を残すことを忘れない。
こいつ。結局、それしか頭にないのか?
五センチほどの正方形の包みを、橋本が八重歯で破る。
途端に溢れ出す透明のジェル状の液体が千切れたパッケージから滴る。それを片方の掌で受け止めたとき、長い指先にねっとりと絡みついた。
何故だか酷く淫猥なものを見てしまった気になり、赤面する。
橋本は粘り気のある液を俺の後肛に塗り付けた。
「自分でやってみせろ」
「え?」
「真也」
「冗談でしょ」
「頼む」
真也、ともう一度、耳元で囁く。
悪い誘い。この重低音には弱い。
帰宅は許されなかった。
部屋を訪れるなり、橋本はしみじみと言ってのけた。
「今回のことで思い知ったわ。大事なもんは、しっかり掴んでおかなあかんて」
整った容貌に暗い影が落ち、酷く淫靡な雰囲気を作りあげている。いつになく色っぽい。
橋本は、歩幅を大きくさせて近寄ると、やや腰を屈めて耳元で囁く。
「逃げるチャンスは何度も作ってやったんや。そやのに、お前は一度も俺から逃げへんだ」
逃げるも何も、同じ署で、しかも同じ隊で、ほぼ毎日顔を突き合わすのだ。橋本は都合のいいように己の中で話を進めてしまっている。頭が痛くなってきた。
俺の心の内は届いてないらしい。
あんなに、なりふり構わず、人の目を気にせず、抱きしめたのに。
「好きだって解釈してええんか?」
「本気で言ってます?」
「当たり前やろうが」
「……鈍感」
「何やと?」
鈍感は、鈍感だよ。何で通じてないかな。普段は察しいいくせに。何だって肝心な時にその頭は使いもんにならないかな。
「よし。お前、服脱げ」
「へっ?」
突然何を言い出すんだ、この人。
「俺に抱かれりゃあ、嫌でも白黒はっきりするやろ」
だから、もう、白黒出てるってば。
言いながら、すでに橋本はシャツを脱いで、上半身を晒している。鍛え抜かれた筋肉の隆起は素晴らしく、まるで彫刻を彷彿させた。日に焼けた素肌は褐色で、惚れ惚れする様に拍車をかけている。
その類稀なる造形に見惚れ、油断しているうちに、床に敷いた紺のラグに押し倒されていた。インナーのシャツが胸元まで捲り上げられ、おもむろに胸板を舐られる。
「これからは容赦しねえ」
耳元を掠めた吐息に、低い声が混じった。
正面に凛と整う顔。
彼の前髪が鼻先にぱらりと落ち、くすぐった。腕を伸ばし、橋本はテレビ台の一番下の引き出しを探っている。その間にも首筋に痕を残すことを忘れない。
こいつ。結局、それしか頭にないのか?
五センチほどの正方形の包みを、橋本が八重歯で破る。
途端に溢れ出す透明のジェル状の液体が千切れたパッケージから滴る。それを片方の掌で受け止めたとき、長い指先にねっとりと絡みついた。
何故だか酷く淫猥なものを見てしまった気になり、赤面する。
橋本は粘り気のある液を俺の後肛に塗り付けた。
「自分でやってみせろ」
「え?」
「真也」
「冗談でしょ」
「頼む」
真也、ともう一度、耳元で囁く。
悪い誘い。この重低音には弱い。
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