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駅前の駐車場にバイクを停めて、橋本はすたすたと大股で歩く。俺はついて行くのに精一杯。
恵比寿川の駅前から筋を一つ逸れると、そこはホテル街だ。
昭和の時代からありそうな薄汚れた壁のレトロ感満載のものから、ガキなら玩具屋と間違えそうな可愛らしいものまで、道の両端に所狭しとひしめき合っている。
まだ日も暮れていないうちから、若いカップルやら、いかにも不倫だろって言う感じの熟年カップルやら、そしてやたらに目立つのが、男同士。すれ違うたびにジロジロと。胡散臭いのは、お互い様だ。
橋本は迷うことなく、比較的シンプルな紺色の塗り壁の建物に入る。センスの良い、横文字で銀色のプレートが壁に嵌め込まれている。
こいつ、いつもこんなとこ来てるわけ?
随分、手慣れているじゃないか、おい。
部屋に入るなり、橋本は薄手のニットパーカーを脱ぎ、ふうっ、と一息ついてから、傍らのソファに放り投げた。
真っ白な壁紙に、茶色のカバーのかかるダブルベッドが置かれた部屋は、ビジネスホテルの内装と何ら変わりない。オレンジ色の光彩がやや眩しいくらいで。
スタンドライトに並んで立つ俺に、橋本はベッドの端に腰を下ろすとちょいちょいと手招きした。
「今更、怖気付いたんか?」
薄水色の麻シャツのボタンを外しながら、橋本は唇を三日月形にする。
俺はガチガチに肩を張って鼻息荒いというのに、相手は余裕綽綽で、もう灰色のインナーシャツになっている。均整の取れた肉体から目が離せない。まるで一つの業務をこなすような橋本のスマートさに、俺は歯軋りする。
「べ、別に。平気だし。二度も三度も同じようなもんだし」
「ふうん。三度目も期待してくれてるんやな」
しまった!と口を押さえたが、もう遅い。
ニヤニヤと白い歯を剥き出す橋本。
「あ、あの。これは言葉のあやで」
「照れやんでかまへん。そうかあ。やっぱり笠置は素直やないなあ」
「だから、違うって!……ちょっと」
いきなり、マットレスに押し倒された。すぐさま、俺の服に対して早着替えの技術を駆使する。あっと言う間に、インナーシャツまで剥ぎ取られ、上半身剥き出しだ。
「ちょ、ちょっと。性急過ぎ」
ムードもへったくれもない。
脛に重みが掛かる。顔を挟み込むように両手をつかれて、体が影で覆われる。頬にかかるのは、橋本の前髪。
またしても、唇を奪われてしまった。
だが、それはいつもの濃厚なものじゃない。
啄むようなキスが、唇の輪郭をなぞってから、首筋、顎を、鎖骨、胸へと下りていく。
「……あっ」
あ、じゃないよ俺。乳首吸われて、変な声出た。
舌先を尖らせて乳首の周辺を舐ってから、さらにそれは這う。鳩尾、脇腹、臍へと徐々に下がっていき、とうとう行き着いた先で、俺の腰がぴくりと反った。
カチャカチャと軽い金属音がしたと思えば、橋本に片手でベルトを抜かれていた。器用だな、この人。
続いたファスナーを下げる音。
「ちょっ、ちょっと」
橋本の唇が俺の下着の中に潜る。さすがに駄目だろ、これは。抗議しようにも、声が出ない。バカ、どこ舐めてんだ。舌を上下させ、浮き出る血管に丁寧に沿わす。かと思えば鈴口を吸って、ついでに片方の手が付け根を撫でる。
「……や、やめろ……やだ……」
ぎゅっと瞼を閉じて屈辱に耐えながら、いやいやと首を振れば、余計に煽るかのごとく吸い付く力が増す。咥えるなよ。そんでもって、舌先を尖らせてチロチロするな。
「も……いい加減に……」
薄目を開ければ、バッチリ目が合う。
フェロモン出しまくりの、腫れぼったい目。前髪がかかり、琥珀の瞳が潤んで、瞬く睫毛が色気全開だ。
男相手に欲情って、あるんだ。
前回は酒に酔っていたせいで頭がふわふわしていたが、今日は素面だ。
言い訳出来ない。
俺、こいつ相手に性欲が沸いている。
腹を括れば、もう、世間体とか男の矜持とか、どうでも良くなった。欲望任せでいいじゃん、とかさえ思ってしまう。橋本のこと、好きか嫌いかは置いといて。
「やられっぱなしと思うなよ」
豹変した俺に、橋本の動きが止まる。
男相手でも通用すると判明した流し目を呉れてやれば、案の定、橋本は硬直し、一旦唇を離す。
その隙を逃さず、両手で胸板を押せば、面白いように右によろめき、脛の負荷から解放された。いつもなら岩盤みたいに微動だにしないが、気を抜いてる今は別だ。
すぐさま態勢を入れ替え、橋本を組み敷いてやる。
普段見下ろしてくる人間を、見下ろすのは爽快だ。
額に張り付く鬱陶しい前髪を掻き上げ、俺は掌を開いたり閉じたりした。
「ジェル」
「え?」
「だから、ジェル。ないと俺、壊れちゃうじゃん」
あ、ああ。と橋本は手を伸ばして、床に転がっているバックパックを手繰り寄せると、中から財布を抜く。紙幣と紙幣の間に、何てもん潜ませてんだよ。
受け取ると、俺はおもむろに橋本のズボンを下着ごと膝まで下げる。
「お、おい!」
俺に物凄いことしといて、自分は焦るのかよ。いらついて目を眇めると、橋本は目元を赤らめぷいとそっぽ向いた。
それにしても、圧倒される。よく、こんなもん、俺の中に入ったな。信じられない。ぱんぱんに膨張したその表面は血管が浮いて、指先でなぞれば、らしくなく「うっ」と苦悶が上がる。
立場逆転。こいつをいいように組み敷ける日が来るなんて。
八重歯でパッケージを千切り、どろどろした液体を直に橋本の膨らんだ部分に垂らしてやる。パッケージの中味全て使い切ると、ぬるぬるを全体に塗り込める。丹念に。塗り残しなく。表も裏も、丁寧に。
橋本の唇が小刻みに戦慄くのが見ていて楽しい。
「お、お前。ホンマに男は俺以外に経験ないんか?」
「何聞いてんの?当たり前だろ?」
「くそっ」
悪態をつくと、心底悔しそうに枕に拳を入れている。
普段、余裕のあるやつが取り乱す様は、本当に楽しいな。
恵比寿川の駅前から筋を一つ逸れると、そこはホテル街だ。
昭和の時代からありそうな薄汚れた壁のレトロ感満載のものから、ガキなら玩具屋と間違えそうな可愛らしいものまで、道の両端に所狭しとひしめき合っている。
まだ日も暮れていないうちから、若いカップルやら、いかにも不倫だろって言う感じの熟年カップルやら、そしてやたらに目立つのが、男同士。すれ違うたびにジロジロと。胡散臭いのは、お互い様だ。
橋本は迷うことなく、比較的シンプルな紺色の塗り壁の建物に入る。センスの良い、横文字で銀色のプレートが壁に嵌め込まれている。
こいつ、いつもこんなとこ来てるわけ?
随分、手慣れているじゃないか、おい。
部屋に入るなり、橋本は薄手のニットパーカーを脱ぎ、ふうっ、と一息ついてから、傍らのソファに放り投げた。
真っ白な壁紙に、茶色のカバーのかかるダブルベッドが置かれた部屋は、ビジネスホテルの内装と何ら変わりない。オレンジ色の光彩がやや眩しいくらいで。
スタンドライトに並んで立つ俺に、橋本はベッドの端に腰を下ろすとちょいちょいと手招きした。
「今更、怖気付いたんか?」
薄水色の麻シャツのボタンを外しながら、橋本は唇を三日月形にする。
俺はガチガチに肩を張って鼻息荒いというのに、相手は余裕綽綽で、もう灰色のインナーシャツになっている。均整の取れた肉体から目が離せない。まるで一つの業務をこなすような橋本のスマートさに、俺は歯軋りする。
「べ、別に。平気だし。二度も三度も同じようなもんだし」
「ふうん。三度目も期待してくれてるんやな」
しまった!と口を押さえたが、もう遅い。
ニヤニヤと白い歯を剥き出す橋本。
「あ、あの。これは言葉のあやで」
「照れやんでかまへん。そうかあ。やっぱり笠置は素直やないなあ」
「だから、違うって!……ちょっと」
いきなり、マットレスに押し倒された。すぐさま、俺の服に対して早着替えの技術を駆使する。あっと言う間に、インナーシャツまで剥ぎ取られ、上半身剥き出しだ。
「ちょ、ちょっと。性急過ぎ」
ムードもへったくれもない。
脛に重みが掛かる。顔を挟み込むように両手をつかれて、体が影で覆われる。頬にかかるのは、橋本の前髪。
またしても、唇を奪われてしまった。
だが、それはいつもの濃厚なものじゃない。
啄むようなキスが、唇の輪郭をなぞってから、首筋、顎を、鎖骨、胸へと下りていく。
「……あっ」
あ、じゃないよ俺。乳首吸われて、変な声出た。
舌先を尖らせて乳首の周辺を舐ってから、さらにそれは這う。鳩尾、脇腹、臍へと徐々に下がっていき、とうとう行き着いた先で、俺の腰がぴくりと反った。
カチャカチャと軽い金属音がしたと思えば、橋本に片手でベルトを抜かれていた。器用だな、この人。
続いたファスナーを下げる音。
「ちょっ、ちょっと」
橋本の唇が俺の下着の中に潜る。さすがに駄目だろ、これは。抗議しようにも、声が出ない。バカ、どこ舐めてんだ。舌を上下させ、浮き出る血管に丁寧に沿わす。かと思えば鈴口を吸って、ついでに片方の手が付け根を撫でる。
「……や、やめろ……やだ……」
ぎゅっと瞼を閉じて屈辱に耐えながら、いやいやと首を振れば、余計に煽るかのごとく吸い付く力が増す。咥えるなよ。そんでもって、舌先を尖らせてチロチロするな。
「も……いい加減に……」
薄目を開ければ、バッチリ目が合う。
フェロモン出しまくりの、腫れぼったい目。前髪がかかり、琥珀の瞳が潤んで、瞬く睫毛が色気全開だ。
男相手に欲情って、あるんだ。
前回は酒に酔っていたせいで頭がふわふわしていたが、今日は素面だ。
言い訳出来ない。
俺、こいつ相手に性欲が沸いている。
腹を括れば、もう、世間体とか男の矜持とか、どうでも良くなった。欲望任せでいいじゃん、とかさえ思ってしまう。橋本のこと、好きか嫌いかは置いといて。
「やられっぱなしと思うなよ」
豹変した俺に、橋本の動きが止まる。
男相手でも通用すると判明した流し目を呉れてやれば、案の定、橋本は硬直し、一旦唇を離す。
その隙を逃さず、両手で胸板を押せば、面白いように右によろめき、脛の負荷から解放された。いつもなら岩盤みたいに微動だにしないが、気を抜いてる今は別だ。
すぐさま態勢を入れ替え、橋本を組み敷いてやる。
普段見下ろしてくる人間を、見下ろすのは爽快だ。
額に張り付く鬱陶しい前髪を掻き上げ、俺は掌を開いたり閉じたりした。
「ジェル」
「え?」
「だから、ジェル。ないと俺、壊れちゃうじゃん」
あ、ああ。と橋本は手を伸ばして、床に転がっているバックパックを手繰り寄せると、中から財布を抜く。紙幣と紙幣の間に、何てもん潜ませてんだよ。
受け取ると、俺はおもむろに橋本のズボンを下着ごと膝まで下げる。
「お、おい!」
俺に物凄いことしといて、自分は焦るのかよ。いらついて目を眇めると、橋本は目元を赤らめぷいとそっぽ向いた。
それにしても、圧倒される。よく、こんなもん、俺の中に入ったな。信じられない。ぱんぱんに膨張したその表面は血管が浮いて、指先でなぞれば、らしくなく「うっ」と苦悶が上がる。
立場逆転。こいつをいいように組み敷ける日が来るなんて。
八重歯でパッケージを千切り、どろどろした液体を直に橋本の膨らんだ部分に垂らしてやる。パッケージの中味全て使い切ると、ぬるぬるを全体に塗り込める。丹念に。塗り残しなく。表も裏も、丁寧に。
橋本の唇が小刻みに戦慄くのが見ていて楽しい。
「お、お前。ホンマに男は俺以外に経験ないんか?」
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