【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

氷 豹人

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僅かな手がかり

 朝から国中の大半がケイムを探していると言っても過言ではない。
 紳士クラブや居酒屋、賭博場。あらゆる場所を、ルミナスやガルシア、ケイムの秘書が夜通し探し回っていた。
 警察官の姿も、街中のあちこちで見られる。
 警察はケイムの奥方に関する怨恨の線が濃厚であるとのことで、アリアに恋慕していたらしき者にくまなく聞き込みを回るものの、どれもはっきりしない。
 が目を光らせ、が年甲斐もなく溺愛する奥方に横入りする命知らずなどいないからだ。
 祖母ドロシー経由で「貴族の生き字引」とまで言われる従姉妹の侯爵夫人に事情を伝えれば、スイートピーの紋章がどの家か、即座に判明した。
 エイベル男爵家。
「だけど妙だわ。スイートピーはエイベル男爵家の紋章だけど。あの家は、後継ぎが猩紅熱で亡くなって途絶えて、もう随分経つのよ」
 ドロシーが侯爵夫人からの言葉を寸分違わず口にした台詞を、イザベラが暗唱する。
 それに反応を示したのは、ルミナスだ。
「エイベル家だと? 」
 ルミナスは眉をしかめ、切れ長の目を眇めて険しい表情となる。
「何か思い当たることでもおあり? 」
 いち早く気づいたイザベラが問いかけた。
「私が若い頃に聞いた噂だが。亡くなったエイベルはよく賭場を荒らし回っている放蕩者だったと」
「何故、あなたがそのことをご存知なの? 」
「私も昔はよく賭場に通っていたからな」
「賭場だけかしら? 」
 ちくり、とイザベラが横目する。
 ルミナスは誤魔化すように咳払いすると、早口で続けた。
「エイベルの死因は猩紅熱とされているが。実は賭場で揉めた挙句に殺されたのではないかと、専ら噂されていたな」
「ジョナサン卿失踪と、何の関係が? 」
 エイベル氏の死因と、ケイムの失踪が結びつかない。イザベラは首をやや苛立たしげに傾げる。
「エイベルは安宿の売春女に入れ込んでいてな。賭博で儲けた金をそっくりそのまま女に貢いでいたとか」
「まあ」
「どうも、その女を孕ませたらしい。亡くなりさえしなければ、女と子供を養うとまで言っていた」
「情熱的な方だったのね」
「恋は盲目とはよく言ったものだ」
「それで、そのお話とジョナサン卿とは、何の関係が? 」
 さらにイザベラは畳み掛けた。
「エイベルは、女に指輪の代わりとして自分の護身用のピストルを渡したらしい」
「それが、ケイムを狙ったピストルだと? 」
 アリアの目が鋭くなる。
 ケイムの居所はまだ掴めないが、手がかりはあるに越したことはない。
「まだ、ハッキリとはわからんが」
 ルミナスは自信なさげに肩を竦めた。
「では、ケイムを狙ったのは、そのエイベル男爵の妻か子供ってこと? 」
「可能性は高い」
 貴族でもない限り、悪趣味にピストルに装飾などしない。玄人なら、あくまで商売道具。余計な真似は逆に己の正体を明かす命取りだ。
「取り敢えず、その息子を探すしかないな」
 まだまだケイムを見つけるには程遠い情報だ。
 だが、彼が行方をくらませて一夜が明けた。
 もし監禁され放置されていたなら。
 刻一刻とリミットが迫っている。
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