アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第119話「少年は美しき先人と再会する」

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  六月五日(日)十時十八分 真希老獪人間心理専門学校・一階廊下

 ちんこによって行われた奇跡の脱出ショーの後も授業は続き、後金、その後に嵐山もしっかり被捕食体験を受けた(ざまあみろ!)。
 そして授業は終わり、俺たちは着替えの為にもう一度自室へと戻る羽目になった。
 しかしこのローション、パリパリに乾いちまってるけど、濡らしたタオルで全力ゴシゴシしないと落ち無さそうだな……。
「それにしてもさっきはほんと面白かったよなー。」
 共に寮を目指す後金が思い出したかのように言ってくる。
 ちなみに嵐山はさっさと先に行ってしまった。
「ひでぇ目に遭ったんだよ。」
「女子の前で格好つけるからだぞぉ?」
「ぐぅっ……」
 まったくその通りだ。
 ぐうの音も出ない(出たけど)。
「あれ、神室くんじゃん。」
 なんとかしてこのニヤケ面に反撃できないかと考えていると、遠くから名前を呼ばれた。
 振り返った先には、無駄に煌びやかな、流れるような金髪の男性。
 あ、この人確か……。
「久しぶりだね、神室くん。」
 美しき所作で歩いてくる男性。
「えぇっと……美神先輩?」
「覚えていてくれたか。ま、美しさを極めに極めたこの俺の顔を忘れることなど、たとえ男でも出来はしないだろうけどね。」
 前髪を掻き上げ、自己愛に満ちたポーズを決める美神先輩。
 いや、今結構危なかったけど……。
「無事に入学できたんだね。」
 美神先輩は優しく微笑んでくれる。
「おめでとう。」
「……美神先輩のおかげです。ありがとうございました。」
 頭を下げる。
 この人にはお世話になった。
「𨸶でいいよ。あと、簡単に頭を下げたら、男も下がるよ。」
「はい、𨸶先輩。」
 この人なりに気を遣ってくれているのだろうが、いかにもモテそうな意識の高さをツッコミたい衝動に駆られてしまう。
 鎮まれ。
「ところで君たち、言い難いけどちょっと臭うね。」
 一切顔には出さずに、口で指摘してくれる𨸶先輩。
 こういうのってちょっとありがたいよな。
「さっき授業で悪臭を振り撒かれまして。」
「それは災難だったね。」
 優雅に笑いつつ、𨸶先輩は(安定の)白いシャツのポケットから何かを取り出した。
「これをプレゼントしよう。俺が愛用している香水だ。」
「いりません。」
 差し出された手のひらサイズの高級そうな香水を、丁重にお断りする。
 この人の趣味は、多分俺の趣味ではない。
「遠慮するな。匂いに気を遣わない奴は、女の子にモテないよ。」
 その言葉に、まりあ様の笑顔が浮かぶ。
「すみません、ありがとうございます。」
 自分でもびっくりするぐらい、食い気味に香水を受け取ってしまった。
 おい後金、何笑ってんだ。
「存分に使ってくれよ。———っと、悪いね。もう少し話していたかったけど、もう行かないといけないんだ。」
 そう言って、踵を返す𨸶先輩。
「次の授業の準備ですか?」
「ううん。ちょっと外に出る用があってね。それじゃあ、またね。」
 片手を挙げて、𨸶先輩は歩き出してしまった。
 俺ももう少し話していたかったが。
 廊下の角に消えていくまでその姿を見送った後、俺たちは再び歩き出した。
 少しして、後金が口を開く。
「お前、すげぇ人と知り合いなんだな。」
「エーラの扱いを教えてもらったんだ。でも、そんな凄い人なのか?」
 凄い人なのはなんとなくわかるけど、後金のリアクションは俺が思ってる以上だ。
「お前、来たばっかだもんな。」
 そう言った後、一呼吸置いてから後金は話しだした。
「今から外出る用があるって言ってただろ? 多分、任務に出るんだ。一人で・・・
「一人で?」
 後金がメガネの位置を直す。
 丸呑み体験中は外していたはずなのに、レンズは汚れまくっていた。
「普通の生徒は先生の引率がないと出られないんだけど、一人で任務に当たることを特例で認められてる生徒が何人かいるんだ。それがあの人、美神𨸶先輩。」
 特例で?
「それだけの実力があるってこと?」
「そう。」
 後金は後ろを振り向く。
 俺も釣られて振り返る。
「能力的にも、“性癖のうりょく”的にも、あの人は人心うちの中で五本の指に入る実力者なんだ。」
 当然そこに𨸶先輩の姿は無く、彼から貰った香水のものであろう匂いが漂うだけだった。
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