アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
127 / 186

第127話「美しき先人は殺人鬼を考察する」

しおりを挟む

  六月五日(日)十四時十六分 埼玉県さいたま市・犯行現場

 美神𨸶は血文字に手を這わせ、思考を巡らす。
 (遺体に性的暴行の痕跡はない。犯人は幼い頃に性的暴行を受けていたわけではない。しかしそれは、幼少の頃の性的トラウマが皆無ということではない。犯人は現場に自らの精液を残している。性的暴行の痕はないが、犯行自体は性的侮辱行為そのものだ。被害者を殺害中、もしくは殺害後に遺体を見ながら自慰に耽ったと思われる。だが……)
 壁から手を離し、美神𨸶は顎に手を当てる。
 (これはあくまで当該精液が犯人自らの物であると仮定した場合の話だ。見つかっている遺体自体は女性ばかりだが、男性の被害者もいて、精液を搾取されている可能性すらある。警察に見せてもらった監視カメラの映像。そこに映っていた、男性が行う自慰のような動作はブラフだったってわけだな。そうだった場合、男性被害者が監禁か、殺害されていることも視野に入れて考えていかなければならない。)
 眉間に垂れている前髪を弄り、さらに美神𨸶は思考を続ける。
 (考えるべきことはまだある。まず、現場に残されたいくつかの痕跡。犯人の物と思われる精液、そして男性の指紋。これらは果たして本当に犯人の物なのかどうか。指紋は不自然なほど膨大に残されているわけなんだけれど、別人の指なり手首なりを切り取れば十分可能な偽装工作。保存状態さえよければ切り取られた指からでも数か月後までは指紋検出が可能だし、保存しておく設備、あるいは技術がなかったところで、手っ取り早く犯行直前に手近な男性を襲って指紋を入手すればいい。この考えも、男性の被害者もいるという仮説を裏付けている。)
 無意識に、美神𨸶は周囲を歩き回っていた。
 辺りの鑑識官はそんな彼を煙たがりつつも無下には出来ず、複雑な表情を形成していた。
 (監視カメラ。今日、新たに行われた犯行時の映像が近くの監視カメラに映っていた。今まで目撃情報もなにも無く、犯人特定に至れていなかったわけだが、これで捜査は大幅に進むだろうと誰もが思った。俺だってそう思ったさ。……けど、そう上手くはいかなかった。監視カメラに映っていた犯人の姿。大きなレインコートを着て、大きなガスマスクをつけていた。表情どころか体格さえ、鮮明には映っていなかった。その上、そこに映った犯人からは人間らしい癖も見当たらず、かと思えば殺人の瞬間は生き物らしい生々しさも見せていた。そして、それが全て演技である可能性。犯人の、人間としての顔が見えない。)
 歩くたびに揺れる金髪から零れる光に、ひっそりと彼を睨んだ鑑識官が目を眩ます。
 (監視カメラから得られた情報。犯人は、身長百七十センチほどで、目を引くほどに歪んだ猫背。両手利きと推測される。凶器は複数にも及ぶ種類のナイフで、殺害方法はめった刺し…と見せかけて、ナイフに塗った毒物。……この程度の情報しか得られなかった。遺体や残された凶器からも、それ以上の情報は望めない。)
「普通ならね。」
 小さく、美神𨸶は笑った。
 (これでも俺は変態だ。監視カメラの映像。遺体の状況。凶器の状態。見ただけでわかるのさ・・・・・・・・・・。あとは、居場所の特定。———この犯人は、相当上手い。隠すのに慣れている。)
 徐に上空を見上げ、美神𨸶は思考を終結へと導く。
 (埼玉県全域で殺人を繰り返す犯人。広大すぎる活動範囲だが、埼玉県は結構はっきりしている。同県内でも、田舎と都会が両極端に分かれてるんだ。春日部より先に行けば、山々が広がっている。純粋に、交通の便が悪くなる。しかし、それでも犯人はそこでさえ犯行をやってのけた。つまり、犯人は当然ながらこの埼玉県に住んでおり、かつ、学校、あるいは勤め先もそこに限定されるだろう。そうでもなければ、ここまで自由気ままに埼玉県内全域で気まぐれ発作的に殺人は繰り返せない。が、それが犯人の特定も遅らせている。社会人か学生かも判断できない容貌、直接的な動機が掴めない程に法則性のない大量の被害者、時間も日にちも関係なく起こる惨劇。指紋と精液という二つの絶対的な証拠があるにもかかわらず、未だ犯人逮捕に向けて動き切れてない理由がそこにある。今すぐに犯人を逮捕するには、埼玉県の住人全てに指紋やDNA検査をかけていくしかないだろうね。そして、日本警察にはそれが出来ないことも、犯人は知っている。計算なのか、まぐれなのか。犯人はこと隠すことに関しては天才だ。こいつは相当骨が折れそうだな。まったく———)
「この俺にこぉんな泥臭く地道な作業をさせようだなんてねー」
 大きく伸びをして、美神𨸶はあくびを掻いた。
「さて——と。どこから当たろうかな。この俺を捜査に駆り出させたこと、後悔させてやるよ。」
 そうして彼は歩き出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...