アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第129話「自慰なる少年は決意を挫かれる」

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  六月五日(日)十九時五十一分 真希老獪人間心理専門学校・男子寮

「水●アリスさんってベロチューすげぇ好きだよな。どの作品でも必ずベロチューシーン入るし、複数レズモノに出演されてる時は一人だけ異様にベロチューシーン多いし、常に顔近いし、頬ずり的距離感だし、たとえ他の全員がカメラ目線だろうと一人だけ相手役の唇めっちゃ見てるし、常に見てるし。」
「いや、お前なにさらっと話題変えてんだよ。」
「うっ。」
 ちょっと恐れ多い事を口走ってしまった感が強いので現実逃避していたんだが、やっぱ駄目か。
「お前、心音とデートするって」
「なんだよ、なんか文句あっか? まさかお前、やっぱりまりあ様のこと狙って……」
「やっぱりってなんだよ。心音なんか狙ったことねぇよ。」
「なんかとはなんじゃあ‼」
「めんどくせぇな! どっちだよっ! ……つーか、お前デートってそもそもどこ行く気なんだ?」
 呆れたように頭を掻いて、嵐山はそんなことを言う。
 決まり切ったことだ。
「買い物とかだろ? 街に出て。」
「は?」
「ショッピングゥ~」
「言い方の問題じゃねぇ。」
「つーか、今の高校生、多分そのネタ通じねぇぞ。」と、親指を立てた俺にツッコミを入れてくる嵐山。
 よかった……。通じなかったらどうしようかと思った。
「とにかく俺はまりあ様を誘うんだ。」
「デートは良いけど、お前、外出の許可なんて降りるのか?」
「え?」
「え? じゃねぇよ。お前『パンドラの箱』に狙われてんのにおいそれと外出してもらえるとでも思ってんのか?」
「あ。」
 そういやそうだった!
「……………最悪、こっそり徒歩で向かう。」
「どこがデートだ。」
 あああああああああちくしょうがっ‼
 『パンドラの箱』許すまじ‼
「なぁ、なんとかしてよアラえもん!」
「誰がアラえもんだ。諦めろ。」
「頼むよぉ!」
「うぜぇっ!」
 必死に縋りつくもアラえもんに振り払われる。
 くそぉ…まりあ様と出かけたいよぉ……。

「話は聞かせてもらったよ!」

「誰⁉」
 突如響いた謎の声。
 振り向くと、廊下の角から颯爽と下田先生が姿を現した。
「先生⁉ いつからそこにいたんですか⁉」
「嵐山くんが神室くんの部屋の前で棒立ちしてる時からだよー。いやぁーいくらイケメンとは言え、無言で部屋の前に立たれてると怖いものがあるねー。」
「早く言ってくださいよっ!」
 これは嵐山のツッコミ。
「あははー、ごめんごめん。まぁ、それは置いといてー。話は全て聞かせてもらった。やっぱり神室くんは心音さんが好きだったんだねー。」
「やっぱりって……先生、気付いてたんですか⁉」
「君の態度見てたら気付かない方が不自然だよー。」
 ぐっ。
 ハズい……。
「何を恥ずかしがってるんだい? 恋愛! 人に恋し、人を愛する! 素晴らしい事じゃないか! 僕は全力で応援するよ!」
「ほ、本当ですか⁉」
 嫌に暑苦しいテンションだけど、先生が認めてくれるのだったら心強い。
「ま、とは言え外出は普通に認められないけどねー。当たり前だろ? テロリストに狙われてる大事な生徒を外になんて出せないよ。」
「なっ」
 フェイント⁉
 なんて無慈悲な……。
「———と、普通だったら言うのかもしれないね。」
「えっ」
 先生はとてもいい顔で笑った。
「僕に全て任せなさい! 神室くん、君の青春は絶対に誰にも奪わせやしない!」
 フェイント!
 なんてかっこいい!
「でも先生、そんなの学長が許可出すんですか?」
 嵐山が余計な口を挟んできた。
 お前は黙ってろ。
「そこも問題ないさ。僕がビシッと言っておくからねー。」
 ビシッ、と先生は二本の指を額から立てると、「じゃあ、僕は早速行ってくるよ。もとい、言ってくるよ。」と言ってその場を去っていった。
 かっけぇ……。
「本当かよ。」
「何言ってんだよ! 先生を信じろよ! このバカチンが!」
「いちいち古いんだよお前は!」
「お前だってわかってんじゃねぇかよ!」
 なぜか二人して喧嘩腰になってしまう。
 いけないいけない、こんな事してる場合じゃなかった。
「俺はお前と喧嘩してる暇はねぇんだ。早く戻って続きしねぇといけない。じゃあな。」
「おい待てよ。俺の用事はまだ終わってねぇぞ。」
「え?」
 部屋へ戻ろうとドアノブに手をかけたところで、嵐山に肩を掴まれてしまった。
「お前、もう怪我はいいんだろ? 梶先生からのご指名だ。今から体育館へ行くぞ。」
「えぇー……」
 梶先生かぁ……。
 今はあんまり会いたくないんだけど(オナニーの途中だし)。
「渋るな、やっぱり。」
 めんどくさそうに頭を掻いて、嵐山は俺の目を見てきた。
「梶先生からの伝言だ。『貴様は弱いままでいいのか?』だとよ。」
「っ! よくねぇよ!」
 思いの外大きい声が出てしまった。廊下に響いて恥ずかしい。
 先日の戦いで、俺は『パンドラの箱』の痴漢野郎との戦闘に臨んだ。
 結果としては勝てたのだが、しかし俺は相手よりも明らかに深手を負っていた。
 この先も『パンドラの箱』との戦闘は続くだろう。
 あの戦い以上の戦いが。
 俺は、このままでは駄目だ。
 強くなる。
 それはオナニーよりも大事な事……ではないが、その次くらいには大事な事だ。
「決まりだな。」
 そう言って、嵐山は俺の肩を離した。
「行くぞ。強くなりに。」
「おう!」
 俺も迷わず、体育館へと歩み出した。


  六月五日(日)二十時十一分 真希老獪人間心理専門学校・体育館


「来たか秀青! 待っていたぞ生餓鬼共! 今日中に貴様らを戦闘でしか喜びを感じられない機械兵へと改造してやる! 覚悟しておけ!」
 体育館に着いた途端、半裸の髭親父が猛々しいエーラを纏ってこんな具合に出迎えてくれた。
 ……やっぱり帰りたい。


  六月五日(日)二十時二十三分 真希老獪人間心理専門学校・学長室


「そこぉーをなんとか、学長! この通り、この通りですので!」
「いくら頭下げられても駄目。ちゃんと神室に断ってきなさい。」
 下田従士の頼みに真希老獪は耳を傾けなかった。
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