アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第130話「エーラの局所集中を体得する修行①」

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  六月五日(日)二十時二十分 真希老獪人間心理専門学校・体育館

「今から貴様に教えるのは、エーラの維持だ!」
 腕を組んで吠えるように話し出す梶先生。
 そういやこんなテンションの人だったなぁ……。
「エーラの維持って…先生。それはもう俺、できてますよ。」
「貴様ができているのはエーラを全身に纏う方の維持だろう。今回俺が教えるのはそれとは別のものだ。」
 言って、梶先生は腕組みを解いた。
「今、俺はエーラを纏っている。全身に、万遍に。貴様と同じ状態だ。」
「はい。」
 それは視えている。
 梶先生の、力強くも落ち着いた流れのエーラ。
「言うなればこれは初級。エーラを身に着けたばかりの者でも、無意識にやれてしまう程度の技術だ。」
「俺は全くできてませんでしたけどね。」
「黙れ。」
「すいません。」
 そんな威圧的に怒んなくたっていいじゃんかよ。
「しかし、ここからは意識的に鍛錬を積んだ者でしか辿り着けぬ領域、技術だ。」
 梶先生が徐に右手を掲げると、驚くことに先生の全身を流れていたエーラが徐々にその形を歪めていき、掲げられた右手に集まっていった。
 先生の全身を包んでいた鎧は、いまや目を凝らさねば視認できないほどに薄く儚くなっており、対照的に先生の右手には濃いエーラの球体が出来上がっていた。
「これは……」
「これがエーラの更なる維持。エーラを全身ではなく局所的に纏うことにより、その纏った部位の身体能力を向上させる技術だ。」
 説明しながら、先生のエーラ球体は右手のみならず左手や両足など、実に様々な個所を巡っていた。
「エーラの局所維持による身体能力の向上率は全身に纏った時に比べ著しい。全身に広げているものを一部に集中してるんだ、当然だな。」
 エーラの局所集中を解くと、先生は舞台の上に置いてあった二つの空き缶を持ってきた。
「今から貴様に、纏いと集中の違いを見せてやる。」
 そして、先生は紫陽花色の鉄製の棚(こんな物まで置いてあんのか)を持っちより、その上に空き缶の一つを置き、右手を大きく振り上げ、
「まずはエーラを纏っている状態だ。」
 握った拳を一直線に振り下ろした。
 館内に轟音が響き渡り、棚からは軋む音が聞こえた。
 ゆっくりと持ち上がった拳、その下敷きとなっていた空き缶はものの見事にぺちゃんこになっていた。
「これがエーラを纏っている状態で空き缶を叩いた結果だ。全身に広げているとはいえエーラによる身体能力向上の恩恵は享受できている。が、エーラを局所集中している時に比べれば、まだ弱い。」
 潰れた空き缶を棚の端に寄せると、もう一つの空き缶を真ん中に置いた。
「次はエーラを拳に集中させた状態だ。」
 静かに言うと、全身を流れていたエーラが再び先生の右拳に集中していく。
 そして、小さな球体を纏い、握りしめられた拳を振り上げ、空き缶目掛けて一気に振り下ろす。
 館内に響く轟音、鉄製の棚が軋む音、そのどちらも、先ほどよりも大きく聞こえた。
 思わず耳を塞いでいると、先生はまたゆっくりと拳を持ち上げた。
「………。」
 下敷きとなった空き缶は、やはりぺしゃんこに潰れていたが、しかしどうだろう……さっき潰された物とそう変わらないように見える。
「これが拳にエーラを集中させている状態での結果だ。」
「さっきとあんま変わらないように見えるんですが……」
「何を言う。」
 先生は二つの潰れた空き缶をそれぞれ掴み上げる。
「エーラを拳に集中させたときの方が三ミリも潰れているだろう。」
「わかるかっ!」
 なんだその微妙な差は!
「微妙な差だろうが、戦場ではその僅かな差が生死を分かつこともある。それに、」
 スクラップとなった缶を再び棚に置く。
「俺程度のエーラ量の持ち主ならば確かにこのくらいの違いしか出んが…秀青、貴様のように常軌を逸したエーラ量の持ち主が局所集中を体得すればどうなる?」
「っ!」
 それは……。
 例えば俺がエーラを拳に一点集中できたなら、自分で言うのもなんだが、かなりの攻撃力を発揮できる気がする。
「わかったようだな。」
 にやりと、本当ににやりという擬音が相応しい程ににやりと、梶先生は髭を歪めて笑みをこぼした。
「ならば早速、エーラを局所集中させる修行に入るぞ! 貴様らのその軟弱な根性を徹底的に叩き直してやる! 覚悟しろ!」
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