終末の天使

柳川歩城

文字の大きさ
3 / 16

しおりを挟む
祈が目を覚ますとまず飛び込んできたのは白い木製の屋根だった。窓を見ると、ちょうど朝日が昇って着ているところだった。
祈「あれ…私…いつの間に眠ってたの?」
時計は午前7時辺りを指し示していた。
祈「(確かあのあとソファーに座ってぼーっとしてたんだっけ…)」
祈そう考えていると、キッチンの方からいい匂いと共に声が聞こえてくる。
クネトコ「おーい起きろー。朝飯前だぞー。」
祈はハッとして辺りを見回す。昨日はリビングのソファーで寝た筈だが、いつの間にか一室のベッドの上に寝かされていた。
祈「(クネトコさんが連れてきてくれたのかな…?)」
そう思いながら祈は部屋を出てリビングに向かう。
クネトコ「おっ、起きたか。」
そこには朝御飯を作っているクネトコの姿があったが、その彼の姿に祈ははっきりと違和感を覚えた。
祈「あのー、背中の羽と頭の輪っかがありませんけど、どうしたんですか?それに昨日と口調も違いますし…」
クネトコ「ああ、口調に関してはこっちが素だよ。羽と輪っかは戻した。」
祈「?」
祈は困惑する。そんな彼女を見て、クネトコは言った。
クネトコ「まあいろいろあるんだよ。後で見せて上げるよ。ささ、朝飯前出来たから早く食べな。」
そう言ってクネトコは祈を椅子に座らせると、料理を持ってきて祈の前に置き、自分も椅子に座った。料理は耳を切った食パンの上にカリカリのベーコン、そしてポーチドエッグを乗せたものだった。
祈 クネトコ「いただきます。」
用意されていたナイフとフォークで食べ始めると、とろとろの黄身が塩味のあるカリカリとしたベーコンとふわふわとした食パンに絡んで絶品だった。祈りは食べながら先ほどのやり取りで疑問に思った事をクネトコに聞く。
祈「その口調が素なのであれば、どうして昨日はあんな口調だったんですか?」
クネトコ「ああ、ちょっと警戒してたんだよ。昨日はいろいろあったからね。」
祈「(確かにいきなり知らない人を家に上げるのであれば、誰でも警戒するか…)」
クネトコ「昨日そのまま寝てたから食べ終わったらシャワーでも浴びて来たら?一応寝てる間に着替えとかも買って来たし。」
祈「分かりました。」

祈は夕食を食べ終わった後、シャワーを浴びに行く。最近買ったばかりなのか、シャンプー以外にもまだ中身が大量にあるコンディショナーなどがあった。祈がシャワーを浴びていると、リビングの方からクネトコの声が聞こえてくる。
クネトコ「ちょっと出掛けてくるから留守番お願いねー。」
祈「分かりましたー。」
そのやり取りの後、すぐに玄関の方から扉が閉まる音と、鍵が閉まる音が聞こえた。すると祈は急いで風呂場から出て、髪を乾かし始める。そして用意されていた着替えを着ると、クネトコの部屋の前に来た。
祈「(昨日見た時はあの絵以外にあった絵が見られなかったんだよねー。多分見せてくれないし、こっそり見ちゃお~。)」
実家にいた時は、絶対にそんなことはしなかっただろう。しかし環境が大きく変化したためか、祈にはいたずらっ子のような感情が芽生えていた。部屋に入ると、そこは少し埃っぽく、古くなった紙の匂いが立ち込めていた。そして部屋の壁一面に、これまでクネトコが描いてきたのであろう絵が飾られていた。そして正面には彼の自信作だろうか、一枚の大きな絵が飾られている。それは祈りがこの部屋を見たときに、一番最初に目に飛び込んできた絵だった。
祈「(やっぱりまじまじと見ると、この絵とても上手だな~。一つ一つの特徴をよく抑えてあるし、まるで生きてる見たい。)」
しかし祈はその絵を見ていくにつれ、ある違和感を抱いた。
祈「(何でこんな幼い子供の絵を描いているんだろう?それに何だか着ている服も今の者じゃないし、着物とかじゃないけどかなり古い。髪型も変…おかっぱって言うのかな…?それに……)」
祈に一番大きな疑問が浮かぶ。
祈「(何でこんなにも汚れているのだろう。)」
最初、祈は絵に付いた汚れか何かかと思った。しかし、それはどう見てもこの絵に実際に描かれている物だった。ふと、祈は右を向く。そこにはいろいろな道具が置かれている机がある。祈は机に寄って行くと、その机の上には古ぼけたノートのような物があった。
祈「(何…これ?)」
見たところ、クネトコの書いた手記のようだ。祈は見ようとして手記を開こうとした、しかし次の瞬間、誰かの足音が聞こえた。
祈「(帰って来た!)」
祈は急いで手記を元の場所に戻し、部屋を出て自分の部屋に向かった。
クネトコ「ただいまー。」
ドアを開ける音が聞こえると、その後すぐにクネトコの声が聞こえる。
祈「おっ…お帰りなさーい。」
そう言うと祈りはベッドに飛び乗り、頭を枕にうずめた。
祈「(あの手記を開いた時に一瞬見えた『ごめんなさい』の文字……クネトコさんはいったい誰に向けて謝罪してるんだろう。)」
新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...