終末の天使

柳川歩城

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天使の力

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 しばらく枕に頭をうずめた後、祈はゆったりとした足取りでリビングに向かった。

 リビングでは、クネトコが珈琲を飲みながらソファーに座ってテレビを見てくつろいでいた。

祈「クネトコさん。お帰りなさい……。」

クネトコ「?…あぁ…ただいま。」

 入るなと言われたクネトコの部屋に勝手に入ったと言う事実が、祈の心を罪悪感で満たし、祈はしっかりとクネトコのことを見ることが出来なかった。しかし、クネトコはそんな祈のことを心配そうな目で見つめている。

祈「(あぁ、すっごい心配してくれてる。なんか…すごい罪悪感が……なんとか会話をしないと…そうだ!)
クネトコさん。あの、今日の朝に話したあれを教えて貰えませんか?」

クネトコ「ん…あぁ、羽と輪っかのことね。良いよ。それじゃあ良くみててね。」

 そう言うと、クネトコはソファーから起き上がり、祈の前に立って、静かに目を閉じる。

祈「!」

 すると、みるみるクネトコの服の背中の方が盛り上がり、頭の上に徐々に輪っかが現れてくる。
 輪っかが完全に顕現し、背中の盛り上がりが止まると、突然クネトコは自身の上着を脱ぎ始めた。

祈「キャ!」

クネトコ「!?…どうした?」

祈「クネトコさん…上着…着て……。」

 祈は自身の目を手のひらで覆いながら、顔を紅潮させてクネトコに弱々しい声で言う。クネトコは少しフリーズしてから、ハッとした様子で急いで自分の部屋へと入って行った。

祈「(クネトコさん…すっごい筋肉だったなぁ…傷一つない…綺麗な肌だった……。)」

 そんなことを考え、祈はまた自身の頬を紅潮させた。



 しばらくすると、上着を着たクネトコが部屋から出てきて、祈の前まで歩いて来る。その姿はあの時、四角い檻に閉じ込められていた。本の中の世界しか知らなかった。翼を折られた小鳥を救いだした。1人の黒い天使の姿だった。

祈「………」

クネトコ「さっきはごめんね。何せ背中の方に穴を空けてないと翼が締め付けられるようで……祈…どうした?」

祈「あ、いや、なんでも無いです。」

 1羽の小鳥は、自身を檻から解放した天使の姿に、心を奪われていた。ただただ息を飲むほど美しい。その姿に。

クネトコ「…?」

 クネトコは相も変わらず不思議な表情をしていた。そのどこか幼さを残す顔は、じっと、祈の事を見つめている。

祈「クネトコさんはなんでそんなに立派な羽と輪っかを持っているんですか?」

クネトコ「……」

 クネトコは少し考えるような素振りをして答え始める。

クネトコ「昔、ちょっしたことがあってね。その時この力が目覚めたんだよ。こうやって翼を生やしたりする以外にも、いろいろ出来るんだけどね。」

祈「見たいです!」

クネトコ「ん~。まぁいつか…ね。」

 そう言って、クネトコは祈に向かって笑う。その幼さの残るその笑顔で、祈の頬はをまたまた紅潮する。

クネトコ「?…祈、大丈夫?」

祈「大丈夫です……。」

クネトコ「ならいいけど…。」

 クネトコは心配そうな顔をしながらそう言うと、またソファーに座って珈琲を飲みながら、テレビを見始めた。祈は、その左隣に座って一緒にテレビを見始める。

クネトコ「…!」

 クネトコがそれに気づく。

クネトコ「祈。ホットミルクって好き?」

祈「?…まぁ、好きですけど…?」

クネトコ「そっか。それじゃあちょっと失礼。」

 そう言って、クネトコは自身の右手の掌で祈の視界を塞ぐ。

祈「えっ…クネトコさん。なにを……」

クネトコ「ちょっとこのまま待っててね~。」

 突然のことに祈は戸惑いながら頬を紅潮させる。そのまま祈しばらく視界を塞がれたまま固まっていると、突然視界を塞いでいた手が離れる。

クネトコ「はい。召し上がれ。」

 視界が開けると、目の前には薄い湯気を上げながら、ほのかに甘い香りを醸し出すホットミルクが置いてあった。

祈「え…どうやって…?」

クネトコ「ん~。ま、魔法だよ魔法。ほら、冷えないうちに召し上がれ。」

 クネトコにそう促され、祈は差し出されたホットミルクを一口飲む。熱すぎず、飲みやすい温かさで、ほのかに甘い香りが口の中に広がる。
 とても美味しいホットミルク。それは、小鳥の折られた翼に温もりを与え、少しずつ、受けた傷を癒していった。
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