独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

プロローグ「少し未来のことと、4年前のことと」

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 新たに年が明けてから早々に俺は部長に呼び出され、九州への転勤を言い渡された。

 様々な思いが脳内を駆け巡る。

 部長が退室してから、既に1時間は経つだろうか?10畳あるかないか程度の小さな会議室に一人ぽつんと、椅子から動けずにいた。

 本来なら、人事上の件に対するやりとりは直属の上司である課長と行われるが通例であるが、そこを飛ばして部長が直接、辞令の内定を持ってくるのは異例の対応であり、すなわち拒否権や個人的な意思の有無などが介入する余地のない、企業内における重要決定事項なのだ。

「―――まいった、なぁ」

 落とした肩があがらない。

 九州支社の立て直し計画の一環による人事異動の枠組みの一つ。どうやら、我が社の会長直々の勅命であったようだ。

 会長といえば、いつもあの時のことを思い出す。4年前のことだ。

 俺の所属するチームの解散危機のこと……いや、その頃まだあの人は社長だった。


※ ※ ※ ※ ※ ※


「お願いします!!チームの解散は待ってください!!」

 あの日、俺は役員会議を行っている部屋に飛び込んで大声をあげたんだ。

 場違いなのは重々承知だったが、それでも談判せずにはいられなかった。

「誰だ貴様は!大事な会議の途中だぞ、すぐに出て行きなさい!!」

「その件は決定事項だ。既に関係者各位も了承済みで損失の計上も終えてある。お前ごときの若造の進言で覆るものではない!!」

 その場にいた役員たちが様々に俺へ罵倒を言ったり、退室を命じられたりするのが当然なことはわかっていた。

 それでも、引くに引けなかった。

 このままチームが解散され問題調査が進めば、非正規社員のあいつは確実にクビになる。

「チャンスを下さい! 1週間……いや、3日でいい!!開発を継続する挽回のチャンスを下さい!!」

 食い下がる俺に、俺が立っている扉に近い場所に座る役員のひとりが苦々しく首を振って立ち上がろうとする。俺をつまみ出そうとしていたのだろう。

「お願いします!!おねが―――」

 その時だった。

「待て、種﨑常務」

 俺から見て一番遠い場所に座る人がそれを制止した。

「そこまで言うならば、お前に3日やろうじゃないか」

「社長!!あの件は役員会でも満場一致で決定された事項ですよ!?」

 隣の専務か副社長だかが驚いていた。

「上司も通さず直談判しに来た、常識知らずな下っ端の一社員に翻意されるおつもりですか?」

 社長と呼ばれている人は反論している役員を見ずに俺を見て話しているような気がした。

「別に彼らに3日与えたところで、結果は何も変わらんよ。役員会での決定に変化があるわけで無し、これ以上損害が増すこともなかろう」

 そして、その人は続けてこう言ったんだ。

「正直、儂はお前の名前も知らんが、無様に大きくなってしまったこの会社にも、まだこの様な面白い奴が残っているとは思わなかった。それに免じて今、3日の猶予を与えた。おい小僧、その貴重な時間を使って、まだこんなところで油を売っているつもりか?」

 俺はお礼の言葉も忘れて慌ててその場を立ち去った。



 結果的にいうと色んな人の助けもあって、メイクミラクルを繰り返し大逆転に成功した。チームは存続、開発は成功、損失は反転して多額の業績に至った。

 しかし、3日どころか1週間後にも問題の糸口は見つかっておらず、結局のところ解決の兆しが見え始めたのはあれから2週間ほど経ってのことだったのだ。

 約束の3日の後も活動を止められることがなく静観されていたのは、何らかの大いなる力が働いていたのだろう。


 後日、俺は匿名で屋上に呼び出された。

「やったな、小僧」

 そこで待っていたのは両手に缶コーヒーを持った社長。

 いつもは専属の秘書に最高級のドリップを入れさせているような身分の人間なので違和感しかなかったが。

「有難う御座います。……自分は小僧じゃなくって、渡辺です」

 俺は照れ隠しもあって、缶コーヒーのお礼のあとに自分を名乗る。

「そうか、渡辺というのか。あれからは”あの男”と言っただけで通じるもんだから、名前を調べる必要も無かったわい」

 そして、社長は自分の分の缶コーヒーを旨そうに飲み干す。

「儂とこの会社は今回の件でお前に結構な借りを作ったことになる。何かあれば遠慮なく言ってくると良い」

「恐縮です」

 社長は俺の肩にポンと手を置いた後に屋上から去ろうとしたが、扉を開ける直前に思い出したかのように振り返った。

「……だが、儂も役員共が反対するなかでお前にチャンスをやったんだ、少なからず貸しがあることも忘れるなよ」


 ニヤリと笑う社長の笑みが、未だに俺の記憶の片隅に焼き付いている。
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