独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

第1話「みっちゃん先生と恭子の更なる進化」

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 今は11月の末、再び大騒動からようやく落ち着きを取り戻しというのに、いやはや俺と我が家は頭を抱える事態を直面している。

「大体だいたい大体だいたいッ……ですねぇ!! 吉沢センパイも相葉さんも、模擬店には戻って来ないし! 打ち上げで給仕はやらされるわ! 私のことを何だと思っているんですか!?」

 先の文化祭関連に野々村美子先生が怒り心頭でいらっしゃる。しかも彼女は打ち上げにおいてにすら、材料不足により何も食べられなかったという惨状であった。

「みっちゃん、みっちゃん! ……どぅどぅどぅ」

 とっちゃんが抑えようと試みているが、どう見ても火に油を注いでいるようにしか思えない。

 暴れ馬じゃねえんだから。

「そもそも、あんなパッツンパッツンなメイド服なんて着せられて、そりゃあ、胸のボタンやスカートのファスナーだって弾けますよッ!『ラッキースケベで賞』なんて不名誉極まりないものまで貰っちゃったじゃないですか!」

 やるなぁ、運営。

「ですから、お詫びの印にこうしてディナーに招待しているじゃないですか」

 勝手に招待するんじゃねえよ、姫ちゃん。

 俺の知らないうちに、食卓のテーブルが一回り大きなものに変わっていたのはどうやら姫ちゃんの仕業みたいだ。


 姫ちゃんはあれからというと……ほぼほぼ毎日飯を食いに来ている。多分俺が知っている限り皆勤賞だ。

 俺が思いつきで採用してしまった恭子の小遣いシステムにより、食費が増えると反比例してあの子の自由に使える金が減るものだから、ぶっちゃけこのままにしておくわけにはいくまい。

 しかし、俺が予算を増額しようとしても恭子は一向に受け取らないので、代替案として姫ちゃんへ遠まわしに『あんた、しょっちゅうウチで飯を食ってんだから恭子に食費渡せよ』と言ったのだが『吉沢のクレジットカードを受け取って貰えなかった、ぐすん』と、失敗に終わったらしい。

 吉沢のクレジットカードって家でも買えるって噂のブラッキーなカードですやん。ゼロか百かじゃねえんだから、普通に月一万とか渡せよ。


「私の怒りはですねぇッ!たかだかJK風情の夕食くらいじゃ収まらないん――」

「お待たせしてすみませんでした、野々村先生」

 みっちゃん先生のイライラのさなか、恭子がキッチンから夕食を運んできた。

「こんなご飯が何だって言うんですかッ!!」

 彼女は出来たての肉巻き餃子を鷲掴みして口へと放り込む。

「こんなッ―――料理がッ―――なっ………んだ、と!?」

 喋りながらモグモグしていたみっちゃんはゴクリと飲み込んだ表紙に目をかっ開いた。

「超美味しいんですけど!!!」

 どうもみっちゃんの怒りはJK風情の夕食で収まったらしい。

 隣を見るととっちゃんが「へへっ」と鼻の下を人差し指で擦り、ドヤ顔をしている。

 おめぇの手柄じゃねえから!!


 そして、恭子が次々と食卓へ並べた料理を皆一斉に黙々と食べているのだが、俺としてはどうも腑に落ちない点があるのだ。

 飯喰らいが増えたことについては……もう諦めている。解せんのは他の人にくらべて何故か俺だけ微妙に献立が異なっているという部分。

 俺の分だけ色の濃い野菜が多く、主食に至っては俺だけ白飯じゃなく、五穀米。

 旨いことには違いないのだけれど、他と違うというのは、なんかイジメ的な何かを感じてしまう。

「恭子よ……俺にも他の人と同じ料理を頂けないだろうか?」

 俺は恐る恐る訪ねてみた。

「駄目です、おじさん。直樹さんから聞きました。会社の健康診断で高血圧、高血糖、内臓肥満を指摘されたみたいですね。これは立派なメタボリックシンドロームです」

 俺はいわゆる痩せ肥満ということらしい。見た目はスリムなのだが中身はそうでもなかった。

 しかし、これは食事うんぬんというより恐らくは仕事中に飲みまくっている缶コーヒーのせいだということを俺はひた隠している。

 食事を制限されている上に飲み物まで管理されてたまるものか!と、柚子コマの瓶に手を伸ばしてみたところ……これまた、恭子にぶん取られた。

「おじさん、お酒も飲み過ぎは余り良くありません」

 食卓の空気が変わったのを察してか、とっちゃんと姫ちゃんは無言で食事を平らげて自主的に後片付けを始めていた。

 みっちゃんに至っては、オロオロしてしまっている始末だ。

「それとですね、おじさんはお昼休みも休まず働いているってなっちゃんさんが言ってました。お忙しいのもわかってはいるんですけど、姫紀お姉ちゃんみたいに、授業が無いときは保健室でお昼寝するくらいの気持ちでないと……また、……また……」

 また、倒れるってか?すいません、ホントにもうあんな無茶は致しませんです。

 それより、姫ちゃん……自由すぎるだろ。

 恭子の顔を見ると、心配性ボルテージが上がってきているのがわかる。これはきっと飛び火するなぁ。

「それと、皆さん。今晩は9時まででお願いします。おじさんがゆっくりできるのはこの家でしかありませんから」

「「ハイ」」

 恭子のアレな笑顔に、とっちゃんと姫ちゃんは、姿勢を正して気持ちの良い返事をした。

 そして、そのやり取りを見たみっちゃんは「ひッ……ヒィッ!!」と小さく怯えた声をあげて……

「あ、野々宮先生がとっちゃんと姫紀お姉ちゃんのお相手をして頂けるので凄くありがたいです。是非またいらして下さると助かります」

 優しい笑みを向けられた時にはもう限界だったようだ。

「ははー」

 みっちゃんは恭子にひれ伏していた。


 つまり現状の変化を端的に説明すると、恭子は小厳しい娘へと更なる進化を遂げたということらしい。


 ちなみに、先週から会社に行くのに弁当まで持たされている。


 きっと、明日も中身は色の濃い野菜で一杯なのだと思います。
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