41 / 110
第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯
第1話「みっちゃん先生と恭子の更なる進化」
しおりを挟む今は11月の末、再び大騒動からようやく落ち着きを取り戻しというのに、いやはや俺と我が家は頭を抱える事態を直面している。
「大体だいたい大体だいたいッ……ですねぇ!! 吉沢センパイも相葉さんも、模擬店には戻って来ないし! 打ち上げで給仕はやらされるわ! 私のことを何だと思っているんですか!?」
先の文化祭関連に野々村美子先生が怒り心頭でいらっしゃる。しかも彼女は打ち上げにおいてにすら、材料不足により何も食べられなかったという惨状であった。
「みっちゃん、みっちゃん! ……どぅどぅどぅ」
とっちゃんが抑えようと試みているが、どう見ても火に油を注いでいるようにしか思えない。
暴れ馬じゃねえんだから。
「そもそも、あんなパッツンパッツンなメイド服なんて着せられて、そりゃあ、胸のボタンやスカートのファスナーだって弾けますよッ!『ラッキースケベで賞』なんて不名誉極まりないものまで貰っちゃったじゃないですか!」
やるなぁ、運営。
「ですから、お詫びの印にこうしてディナーに招待しているじゃないですか」
勝手に招待するんじゃねえよ、姫ちゃん。
俺の知らないうちに、食卓のテーブルが一回り大きなものに変わっていたのはどうやら姫ちゃんの仕業みたいだ。
姫ちゃんはあれからというと……ほぼほぼ毎日飯を食いに来ている。多分俺が知っている限り皆勤賞だ。
俺が思いつきで採用してしまった恭子の小遣いシステムにより、食費が増えると反比例してあの子の自由に使える金が減るものだから、ぶっちゃけこのままにしておくわけにはいくまい。
しかし、俺が予算を増額しようとしても恭子は一向に受け取らないので、代替案として姫ちゃんへ遠まわしに『あんた、しょっちゅうウチで飯を食ってんだから恭子に食費渡せよ』と言ったのだが『吉沢のクレジットカードを受け取って貰えなかった、ぐすん』と、失敗に終わったらしい。
吉沢のクレジットカードって家でも買えるって噂のブラッキーなカードですやん。ゼロか百かじゃねえんだから、普通に月一万とか渡せよ。
「私の怒りはですねぇッ!たかだかJK風情の夕食くらいじゃ収まらないん――」
「お待たせしてすみませんでした、野々村先生」
みっちゃん先生のイライラのさなか、恭子がキッチンから夕食を運んできた。
「こんなご飯が何だって言うんですかッ!!」
彼女は出来たての肉巻き餃子を鷲掴みして口へと放り込む。
「こんなッ―――料理がッ―――なっ………んだ、と!?」
喋りながらモグモグしていたみっちゃんはゴクリと飲み込んだ表紙に目をかっ開いた。
「超美味しいんですけど!!!」
どうもみっちゃんの怒りはJK風情の夕食で収まったらしい。
隣を見るととっちゃんが「へへっ」と鼻の下を人差し指で擦り、ドヤ顔をしている。
おめぇの手柄じゃねえから!!
そして、恭子が次々と食卓へ並べた料理を皆一斉に黙々と食べているのだが、俺としてはどうも腑に落ちない点があるのだ。
飯喰らいが増えたことについては……もう諦めている。解せんのは他の人にくらべて何故か俺だけ微妙に献立が異なっているという部分。
俺の分だけ色の濃い野菜が多く、主食に至っては俺だけ白飯じゃなく、五穀米。
旨いことには違いないのだけれど、他と違うというのは、なんかイジメ的な何かを感じてしまう。
「恭子よ……俺にも他の人と同じ料理を頂けないだろうか?」
俺は恐る恐る訪ねてみた。
「駄目です、おじさん。直樹さんから聞きました。会社の健康診断で高血圧、高血糖、内臓肥満を指摘されたみたいですね。これは立派なメタボリックシンドロームです」
俺はいわゆる痩せ肥満ということらしい。見た目はスリムなのだが中身はそうでもなかった。
しかし、これは食事うんぬんというより恐らくは仕事中に飲みまくっている缶コーヒーのせいだということを俺はひた隠している。
食事を制限されている上に飲み物まで管理されてたまるものか!と、柚子コマの瓶に手を伸ばしてみたところ……これまた、恭子にぶん取られた。
「おじさん、お酒も飲み過ぎは余り良くありません」
食卓の空気が変わったのを察してか、とっちゃんと姫ちゃんは無言で食事を平らげて自主的に後片付けを始めていた。
みっちゃんに至っては、オロオロしてしまっている始末だ。
「それとですね、おじさんはお昼休みも休まず働いているってなっちゃんさんが言ってました。お忙しいのもわかってはいるんですけど、姫紀お姉ちゃんみたいに、授業が無いときは保健室でお昼寝するくらいの気持ちでないと……また、……また……」
また、倒れるってか?すいません、ホントにもうあんな無茶は致しませんです。
それより、姫ちゃん……自由すぎるだろ。
恭子の顔を見ると、心配性ボルテージが上がってきているのがわかる。これはきっと飛び火するなぁ。
「それと、皆さん。今晩は9時まででお願いします。おじさんがゆっくりできるのはこの家でしかありませんから」
「「ハイ」」
恭子のアレな笑顔に、とっちゃんと姫ちゃんは、姿勢を正して気持ちの良い返事をした。
そして、そのやり取りを見たみっちゃんは「ひッ……ヒィッ!!」と小さく怯えた声をあげて……
「あ、野々宮先生がとっちゃんと姫紀お姉ちゃんのお相手をして頂けるので凄くありがたいです。是非またいらして下さると助かります」
優しい笑みを向けられた時にはもう限界だったようだ。
「ははー」
みっちゃんは恭子にひれ伏していた。
つまり現状の変化を端的に説明すると、恭子は小厳しい娘へと更なる進化を遂げたということらしい。
ちなみに、先週から会社に行くのに弁当まで持たされている。
きっと、明日も中身は色の濃い野菜で一杯なのだと思います。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる