独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

第5話「木下直樹の怒号」

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 それは会社の昼休みがあける直前のことだった。

 それまで同僚同士の私語もあって和気あいあいとしていた職場内は直樹の怒号により瞬時にして静まり返った。

「安武ェ!!ちゃんと見直しとけっつっただろうが!!もし俺が気づかずにそのまま作成へ通っていたらどんだけのロスになってたかお前はわかってんか!!」

 まあ、仮に直樹が気がつかなかったとしても俺がちゃんと確認するから大丈夫だけどな。

「す、スンマセン……」

 安武が真っ青な顔をして俯いている。体育会系のごついガタイも肩を落とすと心なしか小さく見えた。

「スンマセンで済んだら誰も残業しねぇで済むんだよ!!」

 怒りの所為か若干日本語が怪しくなっているな。

 更には近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばす始末。

 あーあ、椅子のパイプが曲がっちゃったじゃねえか。直樹こそ総務の姉ちゃんに怒られるのが俺だというのがわかっているのだろうか。

 シンとした職場の中で2人が注目を集めているのは無理からぬことだろう。あの直樹が豹変しているからだ。


 ―――木下直樹

 年は姫ちゃんの一つ下、26歳。スラっとした体で背が高く茶髪の2枚目なのだが、軽いノリと女好きの性格からチャラいイメージが拭えない。しかし後輩の面倒見も良いしヤル気を出せば仕事はできるので、俺は若手のリーダー格に育てるべく育成強化人材として人事にも提出していた。

 今まではいつもノホホンとしていた直樹だが、デスマーチが終えた頃からだろうか、特に仕事中においては今回のように今まで見せていなかった一面をチラホラ見せるようになっていた。

 一面っていうか、お前そんなキャラだったっけ?というレベルである。


 そんな直樹をみてオロオロしていた夏海あたりも流石にヤバいと思ってか、止めに入ろうとしていたのだが、俺は彼女の腕を掴んでそれを制止する。
 
「渡辺サン……ほっといていいんスか?あれじゃ安武サンが……」

 夏海の気持ちもわからんではないが、たとえ誰が止めに入ったとしても、今のタイミングだったら直樹の顔が立たない。その上それが安武よりも年下の夏海がいけば更に安武に惨めな思いをさせることだろう。

 今は静観するしかない。フォローするにしても落ち着いた後あいつらが別々の時に別々に行うのがベターなのだ。

「まあ多分大丈夫さ、夏海」

「そう……だといいんスけど」

 夏海は納得していないようだったが、渋々自分のデスクに戻っていった。

 俺とて、ただ後輩を怒鳴り散らすだけの男を将来のチーフに推薦したりなんかはしないし、今までそんなやり方を教えていたつもりもない。あいつはその先のことまでちゃんとできる奴だと信じている。

 まあ、デスマーチ終盤に俺が仕事を自宅へ持ち帰ったのが直樹へバレた時以来、あいつ俺の言うことをあんまり聞かなくなってきていたので、今はどの道、静観するしかあるまい。


 それからというもの昼からの業務は静かな中で皆淡々と行っていた。安武なんかは叱られた後だったこともあってか、いつも以上の真剣さだった。

 あえて安武のことを言っておくと、あいつは確かにちょいちょいポカをやらかすが、この部署に来てから欠勤したところを見たことが無いし、仲間が不調なときは進んでバックアップするような真面目で誠実な男なのだ。

 それを直樹がわからないはずはない。

 
 午後の仕事も終え、みんな帰り支度を始めていると未だ腑に落ちていない夏海が俺に声をかけてきた。

「本当に大丈夫っスかね?渡辺サン」

 本当に心配性だな、恭子に感化されたのだろうか。

 俺は夏海の問いかけに対して顎をクイッとして同じく帰り支度をしていた直樹たちの方へ向けた。

「オイ、安武。帰りちょっと付き合えや」

「……ウス」

 安武はまた怒られるのではないだろうかと多少ビクつきながらも直樹の後を追って職場から出て行った。

 夏海はそのやり取りに対し最初は怪訝な顔をしていたものの、暫くすると顔がパァっと明るくなって事の真意を理解したらしい。


 ちなみに俺は、ちょっと前にバツの悪そうな顔をしたアイツが俺に金を借りに来たので知っていたんだけどな。

「2人で呑みにでも行くんスかね?」

 給料前に怒鳴り散らすなんて、まだまだアイツも腕が甘いってもんだ。

 俺はちゃんと2の金を貸してやった。
 

 あいつが奴だということを俺は知っていた。


 知ってはいたのだが……俺はどうしても、直樹がまるでどこか生き急いでいるといったような、そんな予感に似た印象を拭いきることが出来なかった。
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