48 / 110
第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯
第8話「クリスマス特別餅つきパーティー③局地戦 後編」
しおりを挟む正月用の鏡餅やお土産に持って帰りたいという人が大勢いて、急遽追加した分も含めて総量15升(10回分)の餅つき合戦も午後2時をまわったところでなんとか終えたようだ。
主に安武とヒトミちゃんの尋常ならざる高速餅つきの成果だが、ちょいちょい他の生徒たちも参加していた。
そしてちょっと遅れた昼食も兼ねて、つきたての餅をみんなが美味しそうに頬張り、恭子が粋に計らった雑煮やお汁粉なども好評だった。
周りを見ると食べながら飲みながら、小集団で固まってワイワイと談笑していたり、中にはちょっとしたゲームをしたりもしている。
しかし、それでもネット際の俺の定位置は揺るぎない。もはや「俺も混ぜて」と意地でも言わないと心に誓っている。俺と話したければお前らがこっちに来ればいいんだ!
そう心で念じていた所為か、さっそく誰かがこちらに来たようだ。
餅を咥えた姫ちゃんが駆け寄ってきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
VS姫ちゃん(現吉沢の帝王)
「はたなへはん、わたひのほもひをはへてくあはひ」
餅を咥えたまま喋るな、なに言っているか全然わからん。
俺は姫ちゃんの口から餅を引っこ抜いて彼女の手のひらに置いた。
「えっと……私が咥えたお餅を渡辺さんが手を使わずに食べますよ」
姫ちゃんはそう言うと再び餅を口に咥える。
食べますよ、ってなんだよ……
今まで経験してこなかったお祭り的なことに感動してか、姫ちゃんはまた情緒不安定化しているのではなかろうか。全くもって意味がわからない。
俺は『ていッ』と、もう一度口に咥えられたその餅を引っこ抜いたのだが、姫ちゃんは少し涙目になっていた。
「えっとですね……これはゲームですので、私が4番でした。王様がいて……えっと……渡辺さんにお餅を口移しって……だから食べて、食べて食べて」
成程、何となくだが理解した。
「おおーい!!お前ら!やめろやめろ!!王様ゲームは中止だ!終了ーーー!!」
俺は王様ゲームをしていたと思われる集団の輪に乗り込み、腕をブンブン交差させて無理やりにそれを終わらせた。
その後、王様の命令を実行できなかったことに関して姫ちゃんが謝りながらわんわん泣いているところをヒトミちゃんがヨシヨシとなだめていたのだが、俺は決して悪くない。
もし、恭子が参加していたら……と考えたら目もあてられんからなッ!
※ ※ ※ ※ ※ ※
VS安武
「なべさん、今日はお疲れ様っす」
俺のいるネット際にやってきた安武は両手に持った缶ビールの片方をスッと差し出した。
おっ、わかってんなコイツ。
「わざわざすまんな。っていうか、今日は何にもしてないぞ」
既にプルタブを空けていてくれたので、俺はそのままグビッとビールを煽る。安武は本当に気が利く奴だ。
「なべさんは今日くらいののんびり振りでちょうど良いんすよ。会社では無理し過ぎっすから。特に九州の一件のときなんかは……」
安武はあの時に俺が倒れたことも知っていたのだろう。
「まあ、今はある程度のことは直樹に任せているところもあることだし、もう以前みたいなことはしないよう気をつけるさ」
「是非そうしてください」
顔に似合わない優しい笑みを浮かべた安武もクイッとビールを口に含んだ。
「それはそうと……会社で直樹にキレられた件は大丈夫だったか?帰りもどこか連れて行かれたようだったし」
俺は憶測こそついていたが、改めて安武をフォローする。
「あの時は自分のミスで……本当に申し訳なかったっす」
「いやそのことは別にいい。俺は会社の外でまで説教するような真面目な人間でもないし、直樹にマジギレされた奴へ更に死体蹴りするような非道な男でもない」
あの時は立場上庇ってやれなくてスマン……そう続けて言葉が出そうになったが、俺はそれを飲み込んだ。
「実は木下さん、あの後に屋台で酒奢ってくれたんすよ……」
おい待てよ?俺はちょっとしたエッチなお店で遊べるくらいの金を直樹に貸してやったはずだぞ。あいつ結構ケチだな。
「何件もハシゴして、2人でベロンベロンに酔っぱらって……」
ほう、若い奴らは質より量なのか。無論俺も若いけど。
「その時に木下さん、ぐでんぐでんなのに……ミスした俺が悪いのに……『今日はすまんかった、あの言い方は完全に俺が悪かった』って何度も何度も謝るんすよ」
直樹の気持ちが手に取るようにわかる。アイツも心に引っかかっていたんだろうな。
「自分は怒られて当然だったって思ってるんすけど、木下さんはついカッとなってしまったって言ってました」
俯いたまま喋っていた安武が顔をあげる。
「木下さんは深くを語ってくれなかったすけど、何か悩みがあると思うんです。こんなこと自分が言える生意気な立場じゃないっすけど、なべさん!木下さんを助けになってくれませんか!」
自分を叱った人間を逆に心配するような奴なんだなお前は。
俺は自分のチームが本当に恵まれていると切実に思う。
「ああ、出来る限りのことはやるよ。でもな、それは直樹が俺に言って来たらの事だ。きっと今のアイツはなんとか一人で乗り越えようとしている段階なんだろうよ。そう思っている俺は非情だろうか?」
安武に説明してもわからないかもしれないが、今の直樹はそういうことが必要な立場でもあるんだ。
「いえ!そんなことは無いっす、何となくっすけど……なべさんが言っていることが凄く大事なことっていうのはわかります」
俺のいわんとしていることを一生懸命理解しようとしている安武だったが、それから続いた言葉はまさに安武らしさを表していた。
「でも、それでも自分はやっぱり木下さんの助けになりたいっすから!一生懸命頑張ります!」
やべぇ……目頭が熱くなってきたじゃねえか。
ただな、安武よ……俺はお前がたまにするミスを差し引いても余るほどの頑張りや努力を評価しているつもりだ。
だから、頼むから夏海から貰ったであろうその怪しげなBL本を大切そうに脇へ抱えるのは止めてもらえないだろうか。
※ ※ ※ ※ ※ ※
VSヒトミちゃん
「オジサンって神海の保護者なんだよね?あのさぁ、神海と話してて前から思ってたんだけどさ……神海ってオジサンに依存し過ぎじゃない?」
このおかしなクリスマスパーティーは最後に俺へ話しかけて来た巨乳の子が、そんなずっしりとした重たい言葉をプレゼントしてくれた後に閉幕した。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる
グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。
彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。
だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。
容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。
「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」
そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。
これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、
高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる