独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

第8話「クリスマス特別餅つきパーティー③局地戦 後編」

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 正月用の鏡餅やお土産に持って帰りたいという人が大勢いて、急遽追加した分も含めて総量15升(10回分)の餅つき合戦も午後2時をまわったところでなんとか終えたようだ。

 主に安武とヒトミちゃんの尋常ならざる高速餅つきの成果だが、ちょいちょい他の生徒たちも参加していた。

 そしてちょっと遅れた昼食も兼ねて、つきたての餅をみんなが美味しそうに頬張り、恭子が粋に計らった雑煮やお汁粉なども好評だった。

 周りを見ると食べながら飲みながら、小集団で固まってワイワイと談笑していたり、中にはちょっとしたゲームをしたりもしている。

 しかし、それでもネット際の俺の定位置は揺るぎない。もはや「俺も混ぜて」と意地でも言わないと心に誓っている。俺と話したければお前らがこっちに来ればいいんだ!


 そう心で念じていた所為か、さっそく誰かがこちらに来たようだ。

 餅を咥えた姫ちゃんが駆け寄ってきた。


※ ※ ※ ※ ※ ※


 VS姫ちゃん(現吉沢の帝王)

「はたなへはん、わたひのほもひをはへてくあはひ」

 餅を咥えたまま喋るな、なに言っているか全然わからん。

 俺は姫ちゃんの口から餅を引っこ抜いて彼女の手のひらに置いた。

「えっと……私が咥えたお餅を渡辺さんが手を使わずに食べますよ」

 姫ちゃんはそう言うと再び餅を口に咥える。

 食べますよ、ってなんだよ……

 今まで経験してこなかったお祭り的なことに感動してか、姫ちゃんはまた情緒不安定化しているのではなかろうか。全くもって意味がわからない。

 俺は『ていッ』と、もう一度口に咥えられたその餅を引っこ抜いたのだが、姫ちゃんは少し涙目になっていた。

「えっとですね……これはゲームですので、私が4番でした。王様がいて……えっと……渡辺さんにお餅を口移しって……だから食べて、食べて食べて」

 成程、何となくだが理解した。


「おおーい!!お前ら!やめろやめろ!!王様ゲームは中止だ!終了ーーー!!」

 俺は王様ゲームをしていたと思われる集団の輪に乗り込み、腕をブンブン交差させて無理やりにそれを終わらせた。

 その後、王様の命令を実行できなかったことに関して姫ちゃんが謝りながらわんわん泣いているところをヒトミちゃんがヨシヨシとなだめていたのだが、俺は決して悪くない。

 もし、恭子が参加していたら……と考えたら目もあてられんからなッ!


※ ※ ※ ※ ※ ※


 VS安武

「なべさん、今日はお疲れ様っす」

 俺のいるネット際にやってきた安武は両手に持った缶ビールの片方をスッと差し出した。

 おっ、わかってんなコイツ。

「わざわざすまんな。っていうか、今日は何にもしてないぞ」

 既にプルタブを空けていてくれたので、俺はそのままグビッとビールを煽る。安武は本当に気が利く奴だ。

「なべさんは今日くらいののんびり振りでちょうど良いんすよ。会社では無理し過ぎっすから。特に九州の一件のときなんかは……」

 安武はあの時に俺が倒れたことも知っていたのだろう。

「まあ、今はある程度のことは直樹に任せているところもあることだし、もう以前みたいなことはしないよう気をつけるさ」

「是非そうしてください」

 顔に似合わない優しい笑みを浮かべた安武もクイッとビールを口に含んだ。

「それはそうと……会社で直樹にキレられた件は大丈夫だったか?帰りもどこか連れて行かれたようだったし」

 俺は憶測こそついていたが、改めて安武をフォローする。

「あの時は自分のミスで……本当に申し訳なかったっす」

「いやそのことは別にいい。俺は会社の外でまで説教するような真面目な人間でもないし、直樹にマジギレされた奴へ更に死体蹴りするような非道な男でもない」

 あの時は立場上庇ってやれなくてスマン……そう続けて言葉が出そうになったが、俺はそれを飲み込んだ。

「実は木下さん、あの後に屋台で酒奢ってくれたんすよ……」

 おい待てよ?俺はちょっとしたエッチなお店で遊べるくらいの金を直樹に貸してやったはずだぞ。あいつ結構ケチだな。

「何件もハシゴして、2人でベロンベロンに酔っぱらって……」

 ほう、若い奴らは質より量なのか。無論俺も若いけど。 

「その時に木下さん、ぐでんぐでんなのに……ミスした俺が悪いのに……『今日はすまんかった、あの言い方は完全に俺が悪かった』って何度も何度も謝るんすよ」

 直樹の気持ちが手に取るようにわかる。アイツも心に引っかかっていたんだろうな。

「自分は怒られて当然だったって思ってるんすけど、木下さんはついカッとなってしまったって言ってました」

 俯いたまま喋っていた安武が顔をあげる。

「木下さんは深くを語ってくれなかったすけど、何か悩みがあると思うんです。こんなこと自分が言える生意気な立場じゃないっすけど、なべさん!木下さんを助けになってくれませんか!」

 自分を叱った人間を逆に心配するような奴なんだなお前は。

 俺は自分のチームが本当に恵まれていると切実に思う。

「ああ、出来る限りのことはやるよ。でもな、それは直樹が俺に言って来たらの事だ。きっと今のアイツはなんとか一人で乗り越えようとしている段階なんだろうよ。そう思っている俺は非情だろうか?」

 安武に説明してもわからないかもしれないが、今の直樹はそういうことが必要な立場でもあるんだ。

「いえ!そんなことは無いっす、何となくっすけど……なべさんが言っていることが凄く大事なことっていうのはわかります」

 俺のいわんとしていることを一生懸命理解しようとしている安武だったが、それから続いた言葉はまさに安武らしさを表していた。

「でも、それでも自分はやっぱり木下さんの助けになりたいっすから!一生懸命頑張ります!」

 やべぇ……目頭が熱くなってきたじゃねえか。


 ただな、安武よ……俺はお前がたまにするミスを差し引いても余るほどの頑張りや努力を評価しているつもりだ。

 だから、頼むから夏海から貰ったであろうその怪しげなBL本を大切そうに脇へ抱えるのは止めてもらえないだろうか。


※ ※ ※ ※ ※ ※


 VSヒトミちゃん



「オジサンって神海の保護者なんだよね?あのさぁ、神海と話してて前から思ってたんだけどさ……?」



 このおかしなクリスマスパーティーは最後に俺へ話しかけて来た巨乳の子が、そんなずっしりとした重たい言葉をプレゼントしてくれた後に閉幕した。
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