独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

文字の大きさ
52 / 110
第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

第12話「吉沢瞳の暗躍」―――恭子side

しおりを挟む

 今年も残すところ数日になり、恭子の保護者も今日で仕事納め。

 そして被保護者の彼女は既に冬休みに入っており、今は夕食の買い物を済ませ自宅のマンションへ帰るところだった。

 外は雪が降っているので、自転車ではなく傘をさして徒歩での帰宅。

 そして雪が雨へと変わっていくなかで恭子がふと前を見ると、道路沿いの塀から出ている木陰で見知った顔が雨宿りをしていた。

「吉沢……さん?」

「ん?おー、神海じゃん」

 恭子がヒトミを見つけると、真っ先に目に留まったは包帯にまかれた彼女の右手。

「ああ、これ?流石にこれが雨に濡れるとあんまりよろしくないからねー。雨宿り」

「怪我をしたんですか?……それよりも、もう包帯が少し濡れているじゃないですか」

「まあ、そんなところかな。雪が小降りだったし傘は要らないやと思ったのが裏目にでたねー」

 恭子はヒトミが少しでも濡れないようにと左手で覆っていた右手の上へ傘を持っていく。

「マンションがすぐそこですから、入って行ってください。消毒して包帯も替えますから」

「悪いね、神海。助かるよ」

 なるべくヒトミが濡れないようにと、恭子は傘を寄せて自分の住む我が家へ歩いて行った。




 マンションについた恭子はヒトミをリビングへ招くと、救急箱を持ってきてから両手でそっと彼女の包帯を解いていく。

「利き手の怪我だから、左手じゃ包帯も替えずらかったんだ。本当にいいところで神海に会ったよ」

 包帯が解かれ、ガーゼをのけると未だ生々しい傷の痕がそこにあった。

「……まるで犬にでも噛まれたみたいです」

 恭子はまるでその傷が自分のものであるかのような感覚に陥り、薄目になって顔をしかめた。

「犬っていうか……やんちゃな猫かなぁ」

「猫、ですか?……あっ、ちょっと染みるかも知れません」

 消毒液をつけた綿をピンセットで摘まんで傷口へ持っていこうとしている恭子は、引っ掻くならまだしも、猫が噛むのだろうか?と少し疑問に思う。

「―――――ッ!!」

「すみません、やっぱり染みますよね。もう少しですから頑張ってください」

 そして全ての傷口に万遍なく消毒液をつけ終えると新しいガーゼを被せて、包帯を巻いていった。


「なかなか上手いね♪うちにもわんぱく盛りな弟たちがいるからよく手当すんだけど、ここまでキレイはできないなー」

「そう言って貰えますと、私も嬉しいです。まだ、雨も降っているみたいですし、もう少しここで休んで行ってくださいね。今お茶を入れますので……吉沢さんはコーヒーと紅茶どちらがお好みですか?」

 救急箱を片付けながら恭子はヒトミにもてなしの言葉をかける。

「んー、コーヒーも好きだけど、紅茶も好きかな。でも実はココアはもっと好きなんだよねぇ」


「そうですか……でも、ちゃんと置いてあるんですよね。ココアも」


 恭子はお茶の準備をしながらヒトミのちょっと意地悪な笑顔に同じく悪戯な顔をして微笑み返す。

「おおっ、神海もそんな顔をするようになったんだねー。転校したばっかのときは怯えた子犬のような女の子だったのになー」

 もし都華子あたりが傍で聞いているとすぐさま回し蹴りが飛んできそうな物言いをするヒトミだったが、恭子は特に気にしていないようだ。

「色々ありましたけど、おじさんが居てくれましたから」

 少し遠い目をして優しく笑う恭子をみて、心なしかわずかに顔を曇らせるヒトミ。


「神海、今自分がどんな顔しているかわかる?」

 ひょっとして自分は可笑しな顔をしているのだろうか?と、恭子はヒトミの指摘を受けて両手を顔に当てた。

「えっ?えっ?私、どんな顔していますか!?」

「んー、しいて言うなら……かなぁ?」

「……例えが難し過ぎますよっ」

 聞き覚えのない比喩に恭子はいまいち実感がわかなかった。

「でもそれが一番しっくりくるんだよねぇ……神海がオジサンの話をするときいつもそんな顔だけど、今日のはそれらよりも段違いだったよ」

「段違いと言われましても、余計にわからないですよ」

 お湯を注いだマグカップの片方を差し出しながらヒトミにそう抗議する。

「ありがとねー。……でもさっきみたいな顔をするのは高校生らしくふさわしい相手にじゃないと感心しないなぁ」

 ヒトミは『そうだ!』と閃いて、更に言葉をつづけた。

「ねえ神海、それこそ青春を謳歌する高校生らしく、年明けにでも合コンとかしない?マッコやサオリ……それに相葉も誘ってさ、大人数でパーッとやろうよ。西高にアテもあって、そこそこいい感じの男連中だしさ?」

 恭子は思いもよらなかった合コンの誘いに多少の戸惑いがあったが、一向に乗り気な様子を見せないのはそれが原因でもなさそうだった。

「確かに凄く楽しそうですね……でも、私はおじさんのお世話もさせていただいてますので、男性の方と交際をする……時間?とかもありませんから。そんな私が合コンなんかに参加したら失礼になっちゃいますね」

 恭子の一応は興味を示したかのように思わせておいて、それでもなおキッパリとした返答にヒトミは軽くジト目をする。

「ふうん。そっか、それは残念だ。なるほど……依存というよりもここまで来ると、もはやだねぇ」

 その不可解な言葉に首を傾げる恭子。

「いや、気にしないでこっちのことだから。それなら……私が神海のオジサンにお願いしてあげよう。……神海はオジサンお世話で合コンする暇もないらしいから、ちょっとはあの子を解放してあげてってさ」

 ヒトミの捻た言い方に自分の断り方が中途半端だったと感じた恭子は姿勢を正し改めて返答する。

「吉沢さん、私にとって”高校生らしいこと恋愛”をするよりも優先したいことがあるのは駄目なことでしょうか?私は今の自分がとても充実した日々を送っていると思っています」

「優先したいことねー。恋愛御法度のアイドルを目指しているから~とかいう理由だったらいくらでも応援してあげるんだけどさぁ。まあいいや、今日のところはよ。……雨も止んできたみたいだから帰るね」

 リビングから窓の外を眺めていたヒトミはそう言って立ち上がる。

 恭子は結局ヒトミが言わんとしていることを完全には理解し得ないまま、『あっ、一応傘を持って行ってください』とそう答えるしかできなかった。


 玄関で遠慮なく傘を受け取ったヒトミは右手のお礼と別れの言葉を告げたあと、立ち止まって思い出したかのように恭子へ言葉を放つ。

「ああ、そうだそうだ。神海が、もう一度遊びに誘うから。その時は断らないでねー」

「……どういう意味ですか?」

 聞かれたから答えると言わんばかりに、『それじゃあ、教えてあげるよ』とヒトミは恭子へ耳打ちをした。

「なっ……なんで……なんで、そんなこと……吉沢さんが……」

 恭子の目が大きく開かれる。

「まだ、多分オジサンも知らないと思うから言っちゃダメだよー。うちはそこで人事部長をしている人が言ってたのを聞いただけだからさ。どこにでもいる苗字と名前だからまさかとも思ったけどビンゴだったみたい」


 そう言うとヒトミは『じゃあ、ね』と振り向き様に手を振ってマンションから出ていった。


 ばたん、と閉められたドアの衝撃とともにその場にへたり込む恭子。

 

 その後、彼女は夜遅くに帰宅した自身の保護者となるべく顔を合わさないようにして、自室でひとり悩む日々がしばらく続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...