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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯
第13話「蚊帳の外での酒、迎えた新年」
しおりを挟むようやく恭子へ思い出の品を返してやれたあの日の翌日、彼女は何か吹っ切れたような、何かに解放されたかのような、そんな感じだった。
出勤前の朝から妙に話しかけてきたり、『お仕事も、もう少しでお正月休みですね』とか言っては肩を揉んでくれたりと、あの大人しい恭子がよく喋る。そしてよく俺に触る。
あの日クリスマスディナーを食べたのが遅くて、寝たのも深夜だったことから気を使って朝に起こしに来てくれたのだが、ドア越しに起こしてくれることはあっても、部屋に入って体を揺すって起こされたのは初めてだった。
もう一度言うが、そしてよく俺に触る。
何か俺とやりとりをするたびにワンタッチしなければいけないという罰ゲームでもやらされているのではないだろうか?そんな疑いを持ってしまうほどにだ。
朝起こされるときにワンタッチ、肩を揉まれてワンタッチ、『熱とかないですか?』と俺のおでこにワンタッチ、ネクタイの結び直しでワンタッチ、弁当の手渡しでワンタッチ……etc。
正直めっちゃ、やり辛かった。
後、会社から帰ってきたら、あの日運びきれなかった大物の含む貸倉庫の全ての物が全部マンションに移されていた。
元旦休みに入ったら時間がとれるので俺がやるからって言っていたのに。
『倉庫のレンタル料も勿体ないですし、お正月くらいおじさんにはゆっくりして欲しかったんです』
姫ちゃんにも咲子さんの遺品を見せたいと恭子が言っていたので、貸倉庫の鍵を渡していたのだが、まさかその日のうちに叔母と姪っ子コンビの女二人でやってのけてしまうとは。
荷台の運転こそ吉沢の使用人に頼んでも、肝心の物品の扱いには一切手を出させなかったため、使用人たちもそれは困惑していたらしい。
まあ、そうだろうなと思う。仕えている男連中が女当主と女子高生の運ぶおぼつかない足取りを見せられてはヒヤヒヤもんだったであろう。
2人が貸倉庫の中で抱き合って泣きながら決めたことなんだってさ。
そして夕食のときも、夕食の後も恭子はよく喋った。
お酌もしてくれた。それにいつもだったらある程度のところで酒を止められるのに、喋ることに夢中なのかその気配もなくストップがかかるまで飲んでやろうと悪戯に思っていたら、結局ビンを2本空にしちまった。
『あ、おじさん明日も仕事ですし、そろそろ寝ないといけませんよね』
そんなことを言いながらも、一向に会話が途切ることがなく恭子も部屋に戻ろうとせず、俺は酔ってウトウトしながら色んな話を聞いていた。
俺は嬉しかったんだ。
そんな恭子を見るのが嬉しくて、そして俺はそれをずっと望んでいたんだ。
なのに……
それなのに……
大晦日の手前あたりから、一転して恭子はあまり顔をみせなくなった。
ほとんど部屋から出てこなくなった。
何がいけなかったのだろう?どこかで間違えてしまっただろうか?
結局その答えが解ったのは年が明けての初出勤の日。
直樹はそのことを知っていて、恭子もそのことを知っていた。
ただ、当事者の俺だけが蚊帳の外で何も知らずに暢気《のんき》にも酒を呑む正月を過ごしていたのらしい。
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