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第5話:潜入ミッションと洗濯係の心得?
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「ミラベル! あなたのポーション、欠陥品じゃないの! もう少しで正体がバレるところだったわよ!」
隠れ家に転がり込むなり、私はぜえぜえと息を切らしながら叫んだ。床にへたり込むと同時に、変装が完全に解け、元のリアナ・ヴィルヘルムの姿に戻る。まったく、心臓に悪い!
「ひゃっ!? ご、ごめんなさい花季様! まさか半日もたないなんて…計算ミスですぅ!」
ミラベルは床に額を擦り付けんばかりに平謝りしている。…まあ、試作品1号だったし、仕方ない部分もあるけれど。
「次はもっと持続時間と安定性を改善します! あと、ご要望があれば、声も変えられるように…今度はきっと、完璧なポーションを!」
半泣きになりながらも、ミラベルは研究ノートを取り出し、すごい勢いで何かを書き込み始めた。その瞳には、錬金術師としての探求心の炎がメラメラと燃えている。…この情熱が、もう少し安全性に向いてくれればいいのだけれど。
「…頼んだわよ、ミラベル。それで、聞いて。潜入の糸口が見つかったかもしれないの」
私は息を整え、懐から例の布包みを取り出した。艶楼の裏で拾った、下働きの少女の落とし物だ。
「これを届けに行って、あの子と接触するわ。名前は…そうね、リナとでもしておきましょうか。彼女から内部の情報を聞き出し、できれば潜入の手引きを頼むつもりよ」
「そ、そんな危険な…! もしバレたら…!」
ミラベルは顔面蒼白だ。まあ、心配する気持ちは分かるけれど。
「危険は承知の上よ。でも、やらなければ何も始まらないわ。大丈夫、私には前世の…経験があるから」
私はミラベルを安心させるように(半分は自分に言い聞かせるように)微笑んだ。
翌日。ミラベルが徹夜で(途中、小爆発を3回ほど起こしながら)完成させた『見た目そこそこ☆変身ポーション・改(持続時間当社比3倍!声もちょっと変わるよ!)』を飲み干し、私は再び"花季"へと姿を変えた。今度の見た目は、前より少し地味な印象の町娘。声も、心なしか少しかすれた感じに変わっている。持続時間は…丸一日持つらしい(ミラベル談)。信じるしかないわね。
再び艶楼の裏口へ向かい、リナが出てくるのを待つ。昨日と同じ時間帯、リナは重そうな洗濯物のカゴを抱えて現れた。
「あの…リナさん、で合ってるかしら?」
私が声をかけると、リナはビクリと肩を震わせ、怯えた目でこちらを見た。
「あなたは…昨日の…?」
「ええ。昨日、あなたがこれを落としたのを見かけたの」
私は布包みを差し出した。リナはそれを見て、はっと息を呑み、慌てて受け取った。
「あ…ありがとうございます! これ、故郷の妹が作ってくれた、私のお守りで…! 無くしたと思って、すごく落ち込んでたんです…!」
リナの顔が、ぱあっと明るくなる。警戒心も少し解けたようだ。
「見つかって良かったわね。…大変そうだけど、ここで働いているの?」
私は努めて優しく、世間話をするように 말을 걸었다 (marul korotta - 話しかけた)。リナは最初は戸惑っていたが、私が身の上(もちろん嘘八百)を語り、紅灯区で仕事を探していることを話すと、少しずつ打ち解けてくれた。
艶楼での仕事は、想像以上に過酷らしい。特に下働きは、少ない休みと安い給金で、朝から晩までこき使われるという。リナも、故郷に残してきた病気の妹の薬代のために、ここで必死に働いているのだとか。
「…ちょうど今、洗濯係の人が一人辞めちゃって、人手が足りなくて困ってるんです。もし、花季さんが仕事を探しているなら…」
リナが遠慮がちに切り出した。…来たわ! チャンス到来!
「本当!? ぜひ、お願いしたいわ! 体力には自信があるの!」
私は前のめりになって頼み込んだ。内心(洗濯なんてしたことないけど…)とは思ったが、今はそんなことを言っていられない。
「わ、分かりました。私から、お世話係のオババ様に話してみます。でも、すごく厳しい人だから、期待しないでくださいね…」
リナは少し不安そうだったが、私の熱意に押されたのか、約束してくれた。
別れ際、リナがふと呟いた。
「そういえば、カレル様が最近、よくオババ様のところに来てるみたいなんです。何か大きな情報でも掴んだのかな…? あの人、お金のためなら何でもするって噂だし、ちょっと怖いんですよね…」
カレルが、下働きのまとめ役と接触している…? 気になる情報ね。彼の動きも注視する必要がありそうだわ。
隠れ家に戻り、ミラベルに潜入の目処が立ったことを報告すると、彼女は案の定、「そんな危険なところに花季様を行かせられません!」と涙目になった。
「大丈夫よ、ミラベル。これは、私の戦いなんだから。あなたは、ここで私をサポートしてちょうだい」
「は、はい…! 分かりました! 花季様のお役に立てるよう、潜入用の秘密道具を開発します!」
ミラベルは涙を拭い、再び錬金術師の顔になった。…どうか、爆発しないものを頼むわよ?
翌日、リナからの知らせを受け、私は指定された時間に艶楼の通用口へ向かった。リナの手引きで、洗濯係の責任者である「オババ様」と呼ばれる老婆と面会することになったのだ。老婆は、皺だらけの顔で、値踏みするように私を上から下まで眺めた。
「ふん、リナの紹介ねぇ…。見たところ、ひ弱そうだが、本当に務まるのかね?」
「はい! 見た目によらず、体力には自信があります! 洗濯ならお任せください!」
私はハキハキと(内心ドキドキしながら)答えた。
「そうかい。まあ、今は猫の手も借りたいくらいだからね。いいだろう、今日からここで働かせてやる。ただし、しくじったら即刻クビだからね! 覚悟しておきな!」
オババ様は鋭い視線で私を射抜き、仕事内容を早口で説明し始めた。
(…やったわ! 第一関門突破!)
こうして私は、元公爵令嬢リアナ・ヴィルヘルム改め、町娘スパイ"花季"として、無事に(?)高級遊郭「艶楼」の洗濯係に潜り込むことに成功したのだった。
これから始まる潜入生活。果たして、私はここで情報を掴み、目的を果たすことができるのか…? そして、洗濯はちゃんとできるのかしら…? 不安と期待を胸に、私はオババ様に連れられ、艶楼の裏方へと足を踏み入れた。
(第5話 了)
隠れ家に転がり込むなり、私はぜえぜえと息を切らしながら叫んだ。床にへたり込むと同時に、変装が完全に解け、元のリアナ・ヴィルヘルムの姿に戻る。まったく、心臓に悪い!
「ひゃっ!? ご、ごめんなさい花季様! まさか半日もたないなんて…計算ミスですぅ!」
ミラベルは床に額を擦り付けんばかりに平謝りしている。…まあ、試作品1号だったし、仕方ない部分もあるけれど。
「次はもっと持続時間と安定性を改善します! あと、ご要望があれば、声も変えられるように…今度はきっと、完璧なポーションを!」
半泣きになりながらも、ミラベルは研究ノートを取り出し、すごい勢いで何かを書き込み始めた。その瞳には、錬金術師としての探求心の炎がメラメラと燃えている。…この情熱が、もう少し安全性に向いてくれればいいのだけれど。
「…頼んだわよ、ミラベル。それで、聞いて。潜入の糸口が見つかったかもしれないの」
私は息を整え、懐から例の布包みを取り出した。艶楼の裏で拾った、下働きの少女の落とし物だ。
「これを届けに行って、あの子と接触するわ。名前は…そうね、リナとでもしておきましょうか。彼女から内部の情報を聞き出し、できれば潜入の手引きを頼むつもりよ」
「そ、そんな危険な…! もしバレたら…!」
ミラベルは顔面蒼白だ。まあ、心配する気持ちは分かるけれど。
「危険は承知の上よ。でも、やらなければ何も始まらないわ。大丈夫、私には前世の…経験があるから」
私はミラベルを安心させるように(半分は自分に言い聞かせるように)微笑んだ。
翌日。ミラベルが徹夜で(途中、小爆発を3回ほど起こしながら)完成させた『見た目そこそこ☆変身ポーション・改(持続時間当社比3倍!声もちょっと変わるよ!)』を飲み干し、私は再び"花季"へと姿を変えた。今度の見た目は、前より少し地味な印象の町娘。声も、心なしか少しかすれた感じに変わっている。持続時間は…丸一日持つらしい(ミラベル談)。信じるしかないわね。
再び艶楼の裏口へ向かい、リナが出てくるのを待つ。昨日と同じ時間帯、リナは重そうな洗濯物のカゴを抱えて現れた。
「あの…リナさん、で合ってるかしら?」
私が声をかけると、リナはビクリと肩を震わせ、怯えた目でこちらを見た。
「あなたは…昨日の…?」
「ええ。昨日、あなたがこれを落としたのを見かけたの」
私は布包みを差し出した。リナはそれを見て、はっと息を呑み、慌てて受け取った。
「あ…ありがとうございます! これ、故郷の妹が作ってくれた、私のお守りで…! 無くしたと思って、すごく落ち込んでたんです…!」
リナの顔が、ぱあっと明るくなる。警戒心も少し解けたようだ。
「見つかって良かったわね。…大変そうだけど、ここで働いているの?」
私は努めて優しく、世間話をするように 말을 걸었다 (marul korotta - 話しかけた)。リナは最初は戸惑っていたが、私が身の上(もちろん嘘八百)を語り、紅灯区で仕事を探していることを話すと、少しずつ打ち解けてくれた。
艶楼での仕事は、想像以上に過酷らしい。特に下働きは、少ない休みと安い給金で、朝から晩までこき使われるという。リナも、故郷に残してきた病気の妹の薬代のために、ここで必死に働いているのだとか。
「…ちょうど今、洗濯係の人が一人辞めちゃって、人手が足りなくて困ってるんです。もし、花季さんが仕事を探しているなら…」
リナが遠慮がちに切り出した。…来たわ! チャンス到来!
「本当!? ぜひ、お願いしたいわ! 体力には自信があるの!」
私は前のめりになって頼み込んだ。内心(洗濯なんてしたことないけど…)とは思ったが、今はそんなことを言っていられない。
「わ、分かりました。私から、お世話係のオババ様に話してみます。でも、すごく厳しい人だから、期待しないでくださいね…」
リナは少し不安そうだったが、私の熱意に押されたのか、約束してくれた。
別れ際、リナがふと呟いた。
「そういえば、カレル様が最近、よくオババ様のところに来てるみたいなんです。何か大きな情報でも掴んだのかな…? あの人、お金のためなら何でもするって噂だし、ちょっと怖いんですよね…」
カレルが、下働きのまとめ役と接触している…? 気になる情報ね。彼の動きも注視する必要がありそうだわ。
隠れ家に戻り、ミラベルに潜入の目処が立ったことを報告すると、彼女は案の定、「そんな危険なところに花季様を行かせられません!」と涙目になった。
「大丈夫よ、ミラベル。これは、私の戦いなんだから。あなたは、ここで私をサポートしてちょうだい」
「は、はい…! 分かりました! 花季様のお役に立てるよう、潜入用の秘密道具を開発します!」
ミラベルは涙を拭い、再び錬金術師の顔になった。…どうか、爆発しないものを頼むわよ?
翌日、リナからの知らせを受け、私は指定された時間に艶楼の通用口へ向かった。リナの手引きで、洗濯係の責任者である「オババ様」と呼ばれる老婆と面会することになったのだ。老婆は、皺だらけの顔で、値踏みするように私を上から下まで眺めた。
「ふん、リナの紹介ねぇ…。見たところ、ひ弱そうだが、本当に務まるのかね?」
「はい! 見た目によらず、体力には自信があります! 洗濯ならお任せください!」
私はハキハキと(内心ドキドキしながら)答えた。
「そうかい。まあ、今は猫の手も借りたいくらいだからね。いいだろう、今日からここで働かせてやる。ただし、しくじったら即刻クビだからね! 覚悟しておきな!」
オババ様は鋭い視線で私を射抜き、仕事内容を早口で説明し始めた。
(…やったわ! 第一関門突破!)
こうして私は、元公爵令嬢リアナ・ヴィルヘルム改め、町娘スパイ"花季"として、無事に(?)高級遊郭「艶楼」の洗濯係に潜り込むことに成功したのだった。
これから始まる潜入生活。果たして、私はここで情報を掴み、目的を果たすことができるのか…? そして、洗濯はちゃんとできるのかしら…? 不安と期待を胸に、私はオババ様に連れられ、艶楼の裏方へと足を踏み入れた。
(第5話 了)
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