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第二章 愛は支配でも犠牲でもなく、未来を芽吹かせる“希望の種”となる。
第19話 鏡の中の同胞
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「――ようやく、会えましたね」
その声は、スピーカーを通しているとは思えないほど、滑らかに司令室の空気を震わせた。
モニターに映る男、エリアス。その穏やかな笑みの前に、歴戦の強者であるサラでさえ、一瞬言葉を失った。
沈黙を破ったのは、俺を庇うように一歩前に出た、レオンの低い声だった。
「貴様がエリアスか。何の用だ」
その声には、剥き出しの敵意と警戒が込められていた。だが、エリアスはレオンを値踏みするように一瞥すると、まるで取るに足らない障害物のように、ふっと微笑んだ。
「ああ、番犬ですか。失礼。今は、私の同胞と話がしたいのですが」
その視線が、再び俺を射抜く。「同胞」という言葉に、俺の心臓がどきりと跳ねた。
エリアスは、俺の動揺を見透かすように、優しく語りかけてくる。
「アキ。あなたのその苦しみは、私には痛いほどわかる。その優しさが、その存在そのものが、争いの火種となってしまう、どうしようもない矛盾。……孤独だったでしょう?」
心が、読まれている。
ドームで、そしてこの荒野で、俺がずっと一人で抱えてきた痛みを、なぜこの男は知っているのか。言葉を失った俺に、サラが我に返ったように叫んだ。
「戯言を! お前のやっていることは、ただの略奪と殺戮だ! それが救済だとでも言うつもりかい!」
すると、エリアスは心から悲しむかのように、その美しい眉を寄せた。
「痛みなくして、浄化はありえない。古い皮膚を剥がさなければ、新しい生命は生まれないのです。私は、この腐りかけた世界を、一度終わらせようとしているだけ」
彼の瞳が、再び俺を捉える。
「あなたも、私と同じ“抗ウイルス遺伝子”を持つ、特別な存在。だからこそ、わかるはずだ。我々が、この世界にとってどれほどの『異物』であるかということが」
「同じ……遺伝子……?」
俺は、思わず声を漏らした。
プロットにある通り、彼もまた、「かつてのオメガ」だったというのか。この世界に拒絶され、絶望した、俺と同じ存在――。
その動揺を確信に変えるように、エリアスは決定的な言葉を紡いだ。
「あなたの存在は、この穢れた世界にとっては『罪』そのもの。人々はあなたを求めるが、決して理解はしない。だが、私と共に来なさい、アキ。そうすれば、その罪深き力は、世界を救う“浄化の種”となるでしょう」
甘い、毒のような言葉。
救済を謳うその声に、俺の心が危険なほど揺さぶられる。孤独な魂が、共鳴しかける。
だが、俺は必死で首を横に振った。俺の隣には、俺の手を握りしめてくれる人がいる。俺の背中を叩いてくれる仲間がいる。
俺は、震えながらも、モニターの中の美しい男に、はっきりと告げた。
「……俺は、あなたとは行かない」
その声は、自分でも驚くほど、固かった。
「俺の居場所は、ここだ。この人たちと、ここで生きていく。それが、俺の選んだ未来だ」
その瞬間、エリアスの顔から、すっと笑みが消えた。
穏やかだった瞳が、絶対零度の光を湛えて、俺を凍りつかせる。
「……残念です。あなたはまだ、本当の孤独を知らないようだ。ならば、力ずくであなたを“救い”に行くしかありませんね」
その言葉に、それまで静かに怒りを抑えていたレオンが、ついに爆発した。
「それ以上、アキを愚弄するなッ!」
その声は、司令室の空気を引き裂くほどの怒気に満ちていた。
「貴様のような独善的な狂信者に、アキが乗り越えてきた苦しみの何がわかる! 俺が、俺たちがいる限り、お前をアキには指一本触れさせん!」
レオンの魂の叫び。その剥き出しの愛情に、エリアスは再びあの穏やかな、しかしどこか侮蔑を込めた笑みを取り戻した。
「ああ、なんと力強く、そして愚かな番犬でしょう。だが、覚えておくといい。支配と執着は、愛ではない」
エリアスは、最後の言葉を、まるで呪いをかけるように言い放った。
「――彼はやがて、自ら私の元へと来るでしょう。なぜなら、私こそが、彼の唯一の理解者なのですから」
その言葉を最後に、通信は一方的に断ち切られた。
モニターは再び砂嵐を映し出し、司令室には、嵐が過ぎ去った後のような、重い沈黙だけが残った。
「……ふざけやがって」
サラが吐き捨て、ジンも悔しそうに唇を噛んでいる。
だが、俺は動けなかった。(唯一の、理解者)という言葉が、心の棘のように、深く、深く突き刺さっていたからだ。
「……アキ」
レオンが、俺の腕を掴んだ。その力強さに、俺ははっと我に返る。
だが、伝わってきたのは、エリアスへの怒りだけではなかった。俺の心が離れていくことを恐れるような、かすかな焦りと、不安の色。
エリアスが残していった毒は、確実に、俺たちの間に見えない亀裂を生み出していた。
その声は、スピーカーを通しているとは思えないほど、滑らかに司令室の空気を震わせた。
モニターに映る男、エリアス。その穏やかな笑みの前に、歴戦の強者であるサラでさえ、一瞬言葉を失った。
沈黙を破ったのは、俺を庇うように一歩前に出た、レオンの低い声だった。
「貴様がエリアスか。何の用だ」
その声には、剥き出しの敵意と警戒が込められていた。だが、エリアスはレオンを値踏みするように一瞥すると、まるで取るに足らない障害物のように、ふっと微笑んだ。
「ああ、番犬ですか。失礼。今は、私の同胞と話がしたいのですが」
その視線が、再び俺を射抜く。「同胞」という言葉に、俺の心臓がどきりと跳ねた。
エリアスは、俺の動揺を見透かすように、優しく語りかけてくる。
「アキ。あなたのその苦しみは、私には痛いほどわかる。その優しさが、その存在そのものが、争いの火種となってしまう、どうしようもない矛盾。……孤独だったでしょう?」
心が、読まれている。
ドームで、そしてこの荒野で、俺がずっと一人で抱えてきた痛みを、なぜこの男は知っているのか。言葉を失った俺に、サラが我に返ったように叫んだ。
「戯言を! お前のやっていることは、ただの略奪と殺戮だ! それが救済だとでも言うつもりかい!」
すると、エリアスは心から悲しむかのように、その美しい眉を寄せた。
「痛みなくして、浄化はありえない。古い皮膚を剥がさなければ、新しい生命は生まれないのです。私は、この腐りかけた世界を、一度終わらせようとしているだけ」
彼の瞳が、再び俺を捉える。
「あなたも、私と同じ“抗ウイルス遺伝子”を持つ、特別な存在。だからこそ、わかるはずだ。我々が、この世界にとってどれほどの『異物』であるかということが」
「同じ……遺伝子……?」
俺は、思わず声を漏らした。
プロットにある通り、彼もまた、「かつてのオメガ」だったというのか。この世界に拒絶され、絶望した、俺と同じ存在――。
その動揺を確信に変えるように、エリアスは決定的な言葉を紡いだ。
「あなたの存在は、この穢れた世界にとっては『罪』そのもの。人々はあなたを求めるが、決して理解はしない。だが、私と共に来なさい、アキ。そうすれば、その罪深き力は、世界を救う“浄化の種”となるでしょう」
甘い、毒のような言葉。
救済を謳うその声に、俺の心が危険なほど揺さぶられる。孤独な魂が、共鳴しかける。
だが、俺は必死で首を横に振った。俺の隣には、俺の手を握りしめてくれる人がいる。俺の背中を叩いてくれる仲間がいる。
俺は、震えながらも、モニターの中の美しい男に、はっきりと告げた。
「……俺は、あなたとは行かない」
その声は、自分でも驚くほど、固かった。
「俺の居場所は、ここだ。この人たちと、ここで生きていく。それが、俺の選んだ未来だ」
その瞬間、エリアスの顔から、すっと笑みが消えた。
穏やかだった瞳が、絶対零度の光を湛えて、俺を凍りつかせる。
「……残念です。あなたはまだ、本当の孤独を知らないようだ。ならば、力ずくであなたを“救い”に行くしかありませんね」
その言葉に、それまで静かに怒りを抑えていたレオンが、ついに爆発した。
「それ以上、アキを愚弄するなッ!」
その声は、司令室の空気を引き裂くほどの怒気に満ちていた。
「貴様のような独善的な狂信者に、アキが乗り越えてきた苦しみの何がわかる! 俺が、俺たちがいる限り、お前をアキには指一本触れさせん!」
レオンの魂の叫び。その剥き出しの愛情に、エリアスは再びあの穏やかな、しかしどこか侮蔑を込めた笑みを取り戻した。
「ああ、なんと力強く、そして愚かな番犬でしょう。だが、覚えておくといい。支配と執着は、愛ではない」
エリアスは、最後の言葉を、まるで呪いをかけるように言い放った。
「――彼はやがて、自ら私の元へと来るでしょう。なぜなら、私こそが、彼の唯一の理解者なのですから」
その言葉を最後に、通信は一方的に断ち切られた。
モニターは再び砂嵐を映し出し、司令室には、嵐が過ぎ去った後のような、重い沈黙だけが残った。
「……ふざけやがって」
サラが吐き捨て、ジンも悔しそうに唇を噛んでいる。
だが、俺は動けなかった。(唯一の、理解者)という言葉が、心の棘のように、深く、深く突き刺さっていたからだ。
「……アキ」
レオンが、俺の腕を掴んだ。その力強さに、俺ははっと我に返る。
だが、伝わってきたのは、エリアスへの怒りだけではなかった。俺の心が離れていくことを恐れるような、かすかな焦りと、不安の色。
エリアスが残していった毒は、確実に、俺たちの間に見えない亀裂を生み出していた。
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