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第二章 愛は支配でも犠牲でもなく、未来を芽吹かせる“希望の種”となる。
第23話 希望の種は、土を破る
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監獄と化した部屋で、どれくらいの時間が過ぎたのか、もう分からなかった。
俺は何度もドアを叩き、レオンの名を叫んだ。話し合おう、と。だが、鋼鉄の扉の向こう側から、返事が来ることはついになかった。彼が俺の「騎士」だった日々は、もう遠い過去のようだ。
夜が来て、朝が来た。
レオンは食事を、まるで義務であるかのように無言で部屋に運び込んだ。その瞳は、決して俺と合おうとはしない。俺は、その無言の壁に、叫ぶよりももっと深い絶望を感じていた。
二日目の昼、食事を運んできたレオンに、俺は叫ぶのをやめ、静かに語りかけた。
「……俺が怖いんですか」
彼の肩が、微かに震えた。
「俺が、あなたを置いて、どこかへ行ってしまうのが。そんなに怖いですか」
「……黙れ」
掠れた声が、沈黙を破る。
「お前は、何も考えなくていいと言ったはずだ」
「考えますよ」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「だって、俺はもう、あなたの背中に隠れているだけの子供じゃないから」
そして、俺は初めて、彼の名を呼び捨てにした。
「レオン、あなたが教えてくれたんじゃないか」
その響きに、彼ははっとしたように顔を上げた。俺は、彼の揺れる灰色の瞳をまっすぐに見つめて、続けた。
「誰かを本当に守るっていうのは、鳥籠に閉じ込めることじゃないって。あなたは、俺に自由な世界を見せるために、あのドームから連れ出してくれたんだろう?」
俺の言葉は、鋭い刃となって、彼の分厚い心の鎧に突き刺さったようだった。
レオンは苦痛に顔を歪め、何も言わずに部屋から逃げるように出て行った。ドアが閉まる直前、その背中が、ひどく傷つき、震えているように見えた。
その夜だった。
諦めにも似た気持ちでベッドに横たわっていると、壁の換気口から、カタリと小さな音がした。見ると、そこには見慣れた小型の通信機が落ちている。ジンが作ったものだ。
『アキ! 聞こえるか!? 大丈夫か!?』
通信機から、ジンの焦った声が飛び出してきた。
『サラさんと一緒に、今からそっちのロックをこじ開ける! レオン隊長には悪いけど、あんたを閉じ込めておくなんて、俺は絶対に認めねえからな!』
涙が、溢れた。
俺は、一人じゃなかった。
やがて、ドアの電子ロックが静かに解除される音がした。サラとジンが、息を殺して部屋に滑り込んでくる。
「行くぞ、アキ!」
サラが、俺の腕を掴んだ。
「隊長が何を考えてるか知らねえが、あたしたちはあんたの味方だ。逃げるなら、どこへだって付き合うさ」
その言葉に、俺は力強く首を横に振った。
「二人とも、ありがとう。……でも、俺はもう、逃げません」
俺の瞳に宿った光を見て、サラとジンは息を呑んだ。
「戦います。俺の、俺たちのやり方で」
俺が向かったのは、脱出口ではなかった。共同体の中枢、司令室。その通信室だった。
システムを起動させ、全世界への回線を開いた、まさにその時。
背後のドアが、凄まじい勢いで開かれた。血走った目をしたレオンが、そこに立っていた。その顔には、アキに裏切られたことへの怒りと、それでもなお失いたくないという、悲痛な色が浮かんでいた。
「アキ……ッ! やめろ!」
彼の制止を、俺は静かな覚悟で受け止めた。
そして、マイクの前に、毅然と立つ。駆けつけたレオン、サラ、ジン、そしてモニターの向こうで見守る全世界の人間へ、俺は語りかけた。
「俺は、誰かの犠牲にはならない。そして、誰かを犠牲にもしたくない」
俺は、レオンの瞳をまっすぐに見つめて言った。
「俺は、俺を愛してくれる人を、狂気に堕とすような未来は、絶対に選ばない!」
赤く点滅する緊急通信灯が、俺の決意に満ちた顔をドラマチックに照らし出す。
「俺の名はアキ――ラスト・オメガと呼ばれた男だ!」
その声は、もう震えてはいなかった。
「だが、俺はもう最後なんかじゃない。俺は“希望の種(Seed of Hope)”だ! 俺たちの自由を信じる全ての者よ、共に立ち上がれ! 『自由共同体連合』の設立を、ここに宣言する!」
俺の魂の叫びが、世界を震わせた。
レオンは、その場でただ、立ち尽くしていた。
彼の目に映っているのは、もう守るべきか弱い少年ではなかった。愛するがゆえに犯した過ちごと、自分をも救い、導こうとする、一人のリーダーの姿だった。
その事実に激しく心を揺さぶられ、彼の灰色の瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
俺は何度もドアを叩き、レオンの名を叫んだ。話し合おう、と。だが、鋼鉄の扉の向こう側から、返事が来ることはついになかった。彼が俺の「騎士」だった日々は、もう遠い過去のようだ。
夜が来て、朝が来た。
レオンは食事を、まるで義務であるかのように無言で部屋に運び込んだ。その瞳は、決して俺と合おうとはしない。俺は、その無言の壁に、叫ぶよりももっと深い絶望を感じていた。
二日目の昼、食事を運んできたレオンに、俺は叫ぶのをやめ、静かに語りかけた。
「……俺が怖いんですか」
彼の肩が、微かに震えた。
「俺が、あなたを置いて、どこかへ行ってしまうのが。そんなに怖いですか」
「……黙れ」
掠れた声が、沈黙を破る。
「お前は、何も考えなくていいと言ったはずだ」
「考えますよ」
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「だって、俺はもう、あなたの背中に隠れているだけの子供じゃないから」
そして、俺は初めて、彼の名を呼び捨てにした。
「レオン、あなたが教えてくれたんじゃないか」
その響きに、彼ははっとしたように顔を上げた。俺は、彼の揺れる灰色の瞳をまっすぐに見つめて、続けた。
「誰かを本当に守るっていうのは、鳥籠に閉じ込めることじゃないって。あなたは、俺に自由な世界を見せるために、あのドームから連れ出してくれたんだろう?」
俺の言葉は、鋭い刃となって、彼の分厚い心の鎧に突き刺さったようだった。
レオンは苦痛に顔を歪め、何も言わずに部屋から逃げるように出て行った。ドアが閉まる直前、その背中が、ひどく傷つき、震えているように見えた。
その夜だった。
諦めにも似た気持ちでベッドに横たわっていると、壁の換気口から、カタリと小さな音がした。見ると、そこには見慣れた小型の通信機が落ちている。ジンが作ったものだ。
『アキ! 聞こえるか!? 大丈夫か!?』
通信機から、ジンの焦った声が飛び出してきた。
『サラさんと一緒に、今からそっちのロックをこじ開ける! レオン隊長には悪いけど、あんたを閉じ込めておくなんて、俺は絶対に認めねえからな!』
涙が、溢れた。
俺は、一人じゃなかった。
やがて、ドアの電子ロックが静かに解除される音がした。サラとジンが、息を殺して部屋に滑り込んでくる。
「行くぞ、アキ!」
サラが、俺の腕を掴んだ。
「隊長が何を考えてるか知らねえが、あたしたちはあんたの味方だ。逃げるなら、どこへだって付き合うさ」
その言葉に、俺は力強く首を横に振った。
「二人とも、ありがとう。……でも、俺はもう、逃げません」
俺の瞳に宿った光を見て、サラとジンは息を呑んだ。
「戦います。俺の、俺たちのやり方で」
俺が向かったのは、脱出口ではなかった。共同体の中枢、司令室。その通信室だった。
システムを起動させ、全世界への回線を開いた、まさにその時。
背後のドアが、凄まじい勢いで開かれた。血走った目をしたレオンが、そこに立っていた。その顔には、アキに裏切られたことへの怒りと、それでもなお失いたくないという、悲痛な色が浮かんでいた。
「アキ……ッ! やめろ!」
彼の制止を、俺は静かな覚悟で受け止めた。
そして、マイクの前に、毅然と立つ。駆けつけたレオン、サラ、ジン、そしてモニターの向こうで見守る全世界の人間へ、俺は語りかけた。
「俺は、誰かの犠牲にはならない。そして、誰かを犠牲にもしたくない」
俺は、レオンの瞳をまっすぐに見つめて言った。
「俺は、俺を愛してくれる人を、狂気に堕とすような未来は、絶対に選ばない!」
赤く点滅する緊急通信灯が、俺の決意に満ちた顔をドラマチックに照らし出す。
「俺の名はアキ――ラスト・オメガと呼ばれた男だ!」
その声は、もう震えてはいなかった。
「だが、俺はもう最後なんかじゃない。俺は“希望の種(Seed of Hope)”だ! 俺たちの自由を信じる全ての者よ、共に立ち上がれ! 『自由共同体連合』の設立を、ここに宣言する!」
俺の魂の叫びが、世界を震わせた。
レオンは、その場でただ、立ち尽くしていた。
彼の目に映っているのは、もう守るべきか弱い少年ではなかった。愛するがゆえに犯した過ちごと、自分をも救い、導こうとする、一人のリーダーの姿だった。
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